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DoUbT  作者: AkIrA
11/26

CASE11.交ワシタ約束

夢を見た。

遠い日の…

まだ幼い頃の。




--かなやは、わたしがまもってあげるの!




その言葉にいくら救われただろう。

霞む視界を横に向ければ、首から下をガーゼで覆われた六美が居た。




--じゃあおれは、むつみをまもる…やくそく!




過去の自分とリンクする思考。

但し現実には腹を撃ち抜かれ、護ると誓った六美は肌を焼かれて瀕死の状態だ。





「…ッ…み…!」

「おい!五木、動くなって!!」



四郎の焦った様な声。

脇腹からはまだ血が流れ出ている。

生暖かい感覚が気持ち悪くて、金弥はますます身を捩る。




「ひ…、の…ッ」

「火野か?おい…!火野!来てくれ!!」




四郎が声を張り上げる。

呼ばれた火野がベッドサイドへと駆け付けた。




「何だ…?」

「火、野…箱は、見つ、かっ…たのか?」

「理科室で1つはな…」

「じゃあよ…それで…俺、を…『ダウト』し…ろ…」




火野は眼鏡の奥の瞳を丸くした。

ただでさえ弱りきっている金弥に、次の『ダウト』に耐え得るだけの体力はもう無いだろう。

六美の為に、死ぬつもりなのだろうという事は容易に想像がついた。




「お前…なら…まぁ、癪だけどよ…信用…出来るし…」

「仮にお前を『ダウト』したとして、土橋が此処を無事に出れる保証は無いぞ…?」

「わか、っ…てる…単なる、俺の、エゴだ…」




金弥の顔面は蒼白で、確実に生よりは死に近い場所にいる。

学校一の不良と恐れられている普段の金弥とは、まるで別人のようだ。

辛うじて鋭い薄緑色の瞳だけは衰えておらず、それだけが唯一金弥らしさを表していた。




「頼、む…」

「お前が死んだら誰が土橋を護る…?」

「生き…てた、としても…俺、は…アイツ、を護る事…ッ、は出来、ねぇ…」




金弥の目尻から涙が零れ落ちた。

火野は馬鹿にするでも驚くでもなく、その涙を指で拭ってやった。




「頼…む…から…っ!でないと…」




金弥が火野の腕を掴む。

しかも何処にそんな力が残っているのか解らないが、痛みすら感じる程の強さで。




「で、ないと…俺、は…アイツを…いず、れ…殺す!」




--好きなのか?

--そんな生易しいもんじゃねぇよ




そう言って笑っていた金弥を火野は思い出す。

何故そんな言葉が出てくるのか分からない。

金弥は確かに六美を特別に思っている筈なのに。




「アイツ、を…殺したく…ない!死ぬ所も…見、たくな…」

「馬鹿ね…」




金弥の言葉が止まる。

掠れながらも、凛と響く声だ。




「六…美、」

「私が、どれ程金弥に救われてるか…」




六美が爛れて赤くなった手を金弥へと伸ばす。

恐る恐る金弥も震える手を六美へと伸ばし、その手を握った。

伝わる温かさに、お互いが生きている事を実感する。


「温かい…」

「六、美…六美…」

「…あの窮屈な家から、私を解放しようとしてくれたんだよね…?」




六美が微笑む。

そうする事で傷跡が余計に痛々しく見えた。




「金弥は…優しいね…」

「そんな…事…」

「昔から…そうだった。」




六美が目を閉じる。

瞼の裏に浮かぶのは、幼い頃の二人。


六美の父は警察官で。

『正義』という言葉に異常な程執着していて。

母にも一人娘の六美にも、その『言葉』を執拗なまでに押し付けていた。


寄り道はしない。

遊びに行っても必ず16時に帰宅する。

テストの順位は必ず5番以内に入る事。

他にも父が六美に対して決めた規約は山のようにあった。


それに沿わない事をすれば、容赦無く殴られた。


何時しか友達は居なくなり、小学2年生になる頃には六美は学校で完全に孤立した。

寂しくない、と言えば嘘になるが父親の体罰に比べればマシだった。

だから独りで良かった、筈なのに。



『…ぁ…』

『…なんだよ?』



出会ってしまった。

金色の髪で緑色の目をした彼に。




『きれい…だね』

『…ッ…』

『名前…何て言うの…?』

『…五木…金弥。お前は…?』

『土橋六美…』




金弥の全てがキラキラして見えた。

色の無かった自分の世界に、鮮やかな色彩が加わった気がした。


金弥も容姿の事で周りから疎外されていたので、孤独な者同士だった。

言葉には出来ないが、お互い理解し合えるモノが二人にはあったのかもしれない。

直ぐに打ち解け、お互いが無二の存在になるまでそう時間はかからなかった。

しかし、幸せな時間はそう長く続かなかった。




『六美…最近ガラの悪い奴に付きまとわれているらしいな…』

『!』

『直ぐに縁を切りなさい。』




初めて六美は父に怒りを覚えた。

金弥の事を良く知りもしない癖に、と。




『嫌…です。』

『何、だと…?』




初めて父に真っ向から逆らった。

きっと殴られる。

それは分かっていた。

しかし、それ以上に金弥を失う事の方が怖かった。




たった一人の、幼馴染み。

たった一人の、友達。

たった一人の…好きな人。




やはり気を失う程殴られたけれど、そんな事はどうでも良かった。


痣だらけになった六美を見て、金弥は自分の事のように怒ってくれた。

それがとても嬉しくて、痛みなんて直ぐに忘れた。


きっと、初めて会ったあの日から金弥は特別だったのだ。

それは今でも…










「金弥…なら、良いの」

「…六…美?」

「殺されても、裏切られても…でもね…」



六美が笑う。



「私より先に死ぬのは駄目…」



静かなのに、有無を言わせぬ口調。

肯定以外は許さない瞳。




「金弥は私が護る…って言ったはずよ…?」





六美が父によって痣だらけにされたあの日。

傷だらけの六美が笑顔でそう言ったのだ。




「忘れたなんて、言わせない…」

「六美…」

「この怪我は私のミス…父の言葉に未だ縛られてる私の、ね」



だから、と六美は続けた。




「私を、『解放』して…?」




解放。

そう言えば聞こえは良いかもしれない。

しかしその場に居た誰もが、その言葉の意味を理解していた。


そして笑ったのはたった一人。




「昔から…お前は馬鹿だ…」

「失礼ね…」

「でも、俺は…嫌いじゃ、無い…」





『死』を約束し合う二人。

純粋で複雑な想いを絡ませて。

それを引き裂くかのように、再び『放送』が流れた。











『第3問開始!!解答時間ハ10分後ダヨ!』






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