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DoUbT  作者: AkIrA
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CASE10.異常者タチ

『理科室』と書かれたプレート。

普段は鍵が掛かっている其処は開いていた。


一人で来たのは間違いだったかもしれない、と火野はふと考えた。

しかしそれは今更だろう。

そのまま埃っぽい教室に足を進めた。



(たしか…この辺にあったはず…)




目的の物を探す。

それらは存外簡単に見つかった。

大きめの段ボール箱を床に下ろし、必要なものだけをその中に入れていく。

フラスコ、滅菌蒸留水、ホールピペット、ゴム栓、シリコンチューブ…


一頻り棚を物色し、火野は教室を出ようとした。

しかしその時見慣れた箱が視界に入る…



「こんなところに…」



幅50cm程の箱。

火野はそれを、必要物品を入れた箱の上に乗せて理科室を出た。










「偽善者…ウザい…汚い…」

「…何よ…?文句あんの?」

「ふっ…ぁはははッ…」




ガラリと紫月の雰囲気が変わる。

狂った様に笑いながら日向を指差す。




「言われ慣れてるの、そんな言葉!痛くも痒くもないわ!」

「それがアンタの本性?随分素敵じゃない…」

「ふふ…七瀬さんはそうやって虚勢を張らないと自分を守れないんだよね?」

「!!」




止めないといけない。

そうは思うが、四郎はその場から動けなかった。

金弥の止血をしている所為でもあるが、それ以上に完全に紫月の作り出す空気に負けていた。

そんな四郎を嘲笑うかのように紫月の声は徐々に大きくなっていく。

まるで言葉で日向を殺そうとしているかのように。




「地味な容姿が嫌いで、派手な化粧して!派手な服着て!!」

「…ッ、やめて…!」

「そんな事しても、何一つ内面は変わってないのに!…ねぇ?」



焦点の合わない瞳に宿るのは狂気だけ。

より一層可愛らしく紫月が微笑んだ。







「ねぇ…七瀬さんは、『何』を隠そうとしてるの?」







答える事が出来なかった。

日向はぶるぶると震える手で自らの身体を抱き締める。


先程までは日向が紫月を追い詰めていた筈なのに。

それは一瞬にして引っくり返った。

見事な迄に、一瞬で。




「あ、ぁ…ッ」




紫月の『言葉』は、日向の核の部分を寸分の狂いも無く射止めた様だ。

四郎は初めて、目の前に立つ紫月を『怖い』と感じた。



このままでは駄目だ。

このままでは紫月は、日向を確実に『壊して』しまう。

ただ純粋に『言葉』という『凶器』だけで。


同時に、紫月までもが『壊れて』しまうような気がした。


紫月の奥底に眠る深い闇。

好きだからこそ解りたいと思うのに…




(何で…動かねぇんだよ…声が出ねぇんだよ…!)




もどかしいまでに四郎の体は動かない。

噛み締めた唇から血が滲んだその時…





「何をしてる…?」



静かな声が響く。

先程出ていった火野が戻って来たのだ。



「火、野…」



すがるようにその名を呼ぶ。

情けないが、四郎にはそうする他無かった。

それは立ち尽くしていた秀水も同じだった様で、ただぼんやりと火野を見詰めている。



視線を受けた火野は対峙している紫月と日向を交互に見遣り、それだけでおおよその状況を理解した様だった。




「取り敢えずは落ち着け…」

「火野…」

「何の得にもならない争いは疲れるだけだ。それに…七瀬も多少懲りただろう?」




黙り込んで座っている日向の腕を掴んで立ち上がらせる。

日向の虚ろな目が火野を捉えた。




「しっかりしろ…」

「…ッ」

「三井、少し休ませてやれ…」

「わかった…!」




火野から日向を受け取ると、秀水はその肩をそっと抱いた。

可哀想な程震えている身体。

落ち着かせるように優しく髪を撫でる。




「日向…」

「秀…水?」

「大丈夫…だから…」

「…ん…」




秀水に身体を預けて、日向はそっと目を閉じた。

安心したのか、日向はそのまま眠るように意識を手放してしまった。




「余り賢いとは言えない行動だな…一宮」

「…ごめん…」

「火野!紫月だけを責めんなよ…ビビって止められなかった俺も同罪だ…」




火野は何も言わず段ボール箱を机の上に下ろした。

中身がガチャと音を立てる。

四郎の視線を受けながら、火野はゆったりと口角を引き上げた。





「まあ、それが正常な人間だろうな。この状況で精神を保てるのが…逆に『異常』だ。」

「…それじゃあお前は『異常』って事か…?」

「…さあな。」




火野が口元を歪めて笑う。

四郎は其処から目を逸らした。

それに構わず火野は段ボールの中身を次々出していく。

そして唯一、手が空いている紫月に視線を留めた。




「一宮、手伝え、」

「…わかった…」

「この『図』の通りに組み立ててくれるか?」



理科の実験に使う器具と、『図』の描かれた紙を渡される。


『図』は丸底フラスコを逆さまにしてゴム栓がしてある。

そしてゴム栓にはホールピペットが刺さっていて、その先にはシリコンチューブが繋がっている。

更にその先には短めのガラス管が刺さっていた。



「これは…?」

「巧くいくかは分からんが…一応輸液用回路だ。組み立てたら煮沸消毒する。」

「!…わかった、やってみる」



大きめの盥(たらい)を水で洗うと、ポットで沸かした熱湯を其処へ注ぐ。

そして紫月の組み立てた回路を、フラスコとゴム栓から先の二つに分解して熱湯へ沈めた。



「完全に消毒は出来んが、何もしないよりはマシだろう…」

「火野は…凄いね…」

「お前らより、捻くれてるだけだ。」



それ以上何も言えず紫月は瞳を伏せた。

黙々と消毒した器具を清潔なガーゼの上に並べる。

それらを冷ましている間に火野はデジタル秤で塩の重さを計っていく。

そしてその脇には滅菌水。

火野が作ろうとしているものが分かり、紫月がぽつりとそれを呟いた。



「もしかして生理食塩水…?」

「五木も土橋も、このままじゃ出血性ショックを起こす。体液代わりになる物を入れる必要性が生じてくる筈だからな。」

「五木はともかく、土橋さんも…?」

「熱傷は細胞外液を損失するからな。循環血漿量が減る点ではある意味出血だ。」




一高校生の知識ではない。

紫月は目の前にいるこの男に其処知れぬ恐怖を感じた。

しかし紫月とてそれを責めれる立場ではない。

それ以上何も言わず、紫月はただ火野の動向を見ていた。


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