順調だったはずの人生
最近、人生がうまくいっていた。
仕事も順調。
恋人もいる。
私は幸せだった。
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朝。
キッチンでコーヒーを淹れる。
後ろから腕が回る。
「おはよう」
恋人の声。
「早いね」
「会議あるんでしょ」
覚えてくれているのが嬉しい。
私は笑う。
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出勤。
会社に入る。
「おはようございます」
誰も返事をしない。
みんな忙しいのだろう。
デスクに座る。
資料をまとめる。
会議の準備。
昨日、上司は言った。
「君に任せる」
信頼されている証拠だ。
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昼休み。
同僚たちは集まって話している。
私は少し離れた席で弁当を食べる。
声が聞こえる。
「最近どう?」
「まあまあかな」
笑い声。
私は少し笑う。
みんな楽しそうだ。
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午後。
会議室。
資料を持って入る。
上司が言う。
「それ、誰の資料?」
「私です」
上司は眉をひそめる。
「君、会議メンバーじゃないよ」
冗談だと思った。
私は笑う。
「昨日、任せるって」
上司は黙る。
隣の社員が小さく言う。
「……その話、先週終わったよ」
空気が止まる。
私は笑う。
「冗談ですよね」
誰も笑わない。
帰宅。
ドアを開ける。
「ただいま」
返事はない。
キッチンを見る。
鍋。
カレー。
一人分。
ソファ。
クッション。
一つ。
寝室。
ベッド。
枕も一つ。
私は少し立ち尽くす。
……今日、彼は遅いんだった。
そう言っていた気がする。
スマホを見る。
会社のグループチャット。
新しい通知。
退職手続きのお知らせ
対象者
私の名前
送信日時
三週間前
私は画面を見つめる。
「そんなはずない」
次の日も会社に行く。
受付で社員証をかざす。
エラー
もう一度。
エラー
警備員が近づいてくる。
少し困った顔。
「またあなたですか…」
私は言う。
「社員証が反応しなくて」
警備員は端末を見る。
ため息をつく。
「このカード」
「三週間前に」
「返却されていますよ」
そのとき、後ろから声がした。
「また来てるの?」
振り向く。
同僚だった。
少し距離を取っている。
「まだ気づいてないんだ」
私は聞く。
「何を?」
同僚は小さく言う。
「君」
「三週間前から」
「毎日ここに来てるよ」
「辞めたのに」




