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静かな違和感 ― 日常心理ホラー短編集 ―  作者: Wataru


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13/37

四回目ですね

朝の電車は、いつも同じ時間だ。


同じ車両、同じ位置。


ドアが閉まる直前、横に立った男が軽く会釈した。


「おはようございます」


反射的に、こちらも会釈する。


(……誰だっけ)


顔に見覚えはない。


でも、あちらは迷いがない。


知り合いの距離感だった。


次の駅で、男は降りた。


⸻


昼前。


社内の廊下で声をかけられる。


「さっきの件、ありがとうございました」


振り向く。


朝の男。


自然に笑っている。


「……え?」


思わず漏れた声に、男は少しだけ首をかしげた。


「資料、助かりました」


曖昧にうなずく。


(同じ会社?)


名札を見ようとした瞬間、電話が鳴り、男は去った。


⸻


仕事帰り。


スーパーでかごを持っていると、横から声。


「この時間、よく会いますね」


まただ。


男はヨーグルトを手にしている。


ごく普通の顔。


特徴がない。


「……そうでしたっけ」


「ええ」


にこり、と笑う。


「今日も、三回目ですね」


背中が冷える。


三回目?


電車と、会社と、今。


数えている。


こちらは、必死に思い出そうとしているのに。


「すみません、どちら様でしたっけ」


勇気を出して聞く。


男は一瞬だけ目を細めた。


「本当に?」


それだけ言って、レジへ向かった。


⸻


帰宅。


エレベーターを降りると、外に立っていた。


「お疲れさまです」


当然のように並ぶ。


廊下を歩く。


足音が重なる。


男は迷いなく進む。


そして、隣の部屋の前で止まった。


鍵を差し込む。


振り返る。


「最近、忘れること増えてません?」


喉がひくりと鳴る。


「今日も、三回目ですよ」


ドアが閉まる。


静寂。


⸻


自室に入り、鍵をかける。


チェーンもかける。


心臓の音がうるさい。


(気のせいだ)


そう言い聞かせながら、ゆっくりドアに近づく。


覗き窓に目を当てる。


廊下は暗い。


誰もいない。


ほっと息を吐いた、その瞬間。


視界いっぱいに、顔。


覗き窓の向こうから、こちらを覗いている。


目が合う。


男は、ゆっくり口だけで笑った。


唇が動く。


声は聞こえない。


「四回目ですね」

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