98話 夢みた最強
天才が嫌いだった。
何をやってもうまくいき、すごい速さで成長する。
その上、凄まじい霊力を持っているし、頭がいい、産まれた環境がいい。そんな天才が嫌いやった。
私は術も下手で霊力も多くない。
お家柄だけは土御門家という名家五家の一つでよかったが、身体も小さいし刀術ももともと上手くなかった。
だから、周りの天才たちを恨んだ。土御門家の同期や他の家の優秀な者たち。
噂では立花家の長男の立花総士は1人で4級のあやかしを倒したらしい。
黒田家の後継は新たな術を開発したらしい。
葉月家の長女はあまたのあやかしを従えているらしい次は異例の女当主だろう。
清華家の長男、清華真二の結界はどんな攻撃も通さないらしい。
天才達の噂が飛び交うその中に私の話はない。
なぜなら、話すことがないからだ。逆に伝統ある土御門の息子は出来損ないらしいという噂は立っているらしい。
仕方ないだろう、その通りなのだから。
だから私は努力した。
他のものが寝てる間に無数の書籍を読み知識を身につけ、他のものが話しているうちに身体を鍛え、依頼がなくても悪名高いあやかし達と戦った。
私の成長は遅かった、私は平凡やった。だから私は積み立てた。少しずつ少しずつ、積み重ね天才達の壁を越えて行った。
そうして私は噂の天才達と肩を並べるようになった。
このままいけば私は陰陽師で最強になれる。もちろん周りの天才達の成長ははやい。しかし、私の積み重ねの基盤は確かに私を支え、私も負けずに、いやそれ以上に成長できた。
陰陽師最強。その甘美な名誉を私は手に入れるはずだった。あの人に会うまでは本気でそう思っていた。
涼風重蔵。彼の戦いを目の前で見て、私の野望は潰えた。
どんなあやかしの攻撃をものともせず、重蔵さんの拳をくらえば敵は弾け飛び、重蔵さんの紅い刀身に切られたものは燃え尽き、黒い刀身で切られたものは呪いにかかりたちまち崩れ落ちる。
高すぎる壁。どうやっても勝てるイメージが湧かない誰もが認める最強の陰陽師 涼風重蔵。
私の今までの血の滲む努力が誤差のような強さを見て、私はまた天才を憎んだ。
そして、ある日涼風重蔵が謎の失踪を遂げ、死んだとされた。
私は土御門家当主 土御門京介。
かの安倍晴明を祖に持つ土御門の当主となった最強を夢見た才なき陰陽師だ。
土御門家当主になっても涼風重蔵に勝てるイメージは湧かない。それでもまだ私の中に燻る最強への渇望。
今回の会議で当主達にだけ知らされた事実がある。
黒田家による最強の陰陽師、涼風重蔵の復活。
突然訪れた最強に挑める最後のチャンス。
黒田家殲滅にはやはり賛成しかねる。だが、このチャンスを私は逃す選択肢はない。
私は帰路の途中、心の中で最強への挑戦を決めた。




