90話 最強の陰陽師
89話は未完成のまま投稿してしまいすみませんでした。
「さて、どうしたものか。とりあえず、山の側面から一気に司のところに駆け上がってみるか。」
真広と別れた後、冴久はどのように司のもとに行くか考えていた。
いま、正面でぬらりひょんの配下のあやかしと黒田家が激しくぶつかり合っている。必然的に正面以外の道は手薄になるだろう。
そしてそれは予想通りで、配置されている悪魔や黒田家の陰陽師も少なかった。その代わり、警報や罠の術がかけられている所が多かったが、黒田家も陰陽師の侵攻は考えておらず、一流の陰陽師である冴久に虚しく解呪されれ、冴久は山の中腹までこれた。
「だいぶ登って来ましたね。後少しです。」
「おや、別働隊かなにかですかな?」
スーツにシルクハット杖を持った男が冴久に話しかけた。
「おっと、やばそうなのに見つかってしまいましたね。」
冴久は瞬時に敵の強さを察知して鉄の処女を構えた。
「ご機嫌よう。私はフィーカー。吸血鬼です。お見知り置きを。」
そう言うと丁寧にお辞儀をした。
「これは王・公爵クラスですかね?よりにもよってこんな時に。」
「ふふ。子供たちと一緒にしてもらっては困ります。」
「子供?…まさか、始祖ですか!?」
「えぇ、そうです。珍しいでしょう?」
「あなたもツクヨミ様に言われて来たんですか?」
「ん?月の神を知っているんですか?あなたのようなキャストは聞いていませんが?」
はて?とフィーカーが首を傾げる。
「えぇ、乱入者ですので。もちろん、通して頂けませんよね?」
「え?いいですよ?通っても。」
「え?」
冴久はまさかの答えにポカンとなる。
「もう私の目的は果たしましたし。」
「目的?」
「えぇ。同族の間引きです。最近増えすぎてしまいましてね。それに若い者は素行も悪い。だから、今回はちょうど良かったのです。」
「そ、そうですか。詳しく話を聞きたいのですが、時間がないので、通してくれるなら通させて頂きます。」
「えぇ、どうぞ。」
フィーカーはニコッと笑い、道を開ける。
冴久達はフィーカーの横を通り頂上に駆けた。
「まぁ、殺しても良かったんですがね。貴方の力は私に届き得る。わざわざ日本に観光に来れたのに怪我はしたくありませんからね。」
フィーカーはぼそっとそう呟くとニコッと笑った。
冴久は凄まじいスピードで罠を解呪しながら黒田司がいる山の頂上へと向かった。
ちなみになぜ司が頂上にいるかわかるかと言うと、空に浮かんでいる地獄の門に力を供給している場所が山の山頂であるため、術者の黒田司も山頂にいるはずなのだ。
「よくここまで来られたわね。」
山頂に到着した冴久を迎えたのは部下を率いた黒田司だった。
「いやー、ここまでくるの大変でしたよ。」
「それで?何しに来たの?」
「一族を率いて撤退して頂けませんか?」
「今更無理に決まってるわよね?あなたも私の覚悟知ってるでしょ?」
「えぇ。それでも引いてくれませんか?」
「邪魔したら許さないって言ったはずよ。」
「では、司。貴方を殺して止めるしかないですね。」
「ふふ。できるかしら?夏美!」
司は後ろに控えていた当主補佐の黒田夏美に命令を出す。
夏美は部下にある棺桶を持って来させ、夏美は長い呪言を唱え始め、周囲にはさまざまな呪符が舞う。
「黒笠を接収した時、さまざまな禁呪を手に入れた。その時に面白いものを彼等は隠し持っていました。ある者の死体と死者使役の術。冴久、貴方は最強の陰陽師に勝てますか?」
夏美は長い呪言を唱え終わると棺桶が開く。
「嘘でしょう?貴方は…」
驚きのあまり冴久は言葉が出て来ない。
「ん?ここはどこだ?」
現代最強の陰陽師と謳われた涼風重蔵が棺桶からでてきたのだった。
「重蔵よ、そいつを殺せ。」
夏美は涼風重蔵に命令した。
「おぉ、冴久じゃないか。懐かしいなぁ。…わしはお主を殺さないといけないみたいだ。」
重蔵は最初笑顔だったが、急に笑顔が消えて、そう言うと闘神の衣を発動させ、冴久に向かって駆け、冴久を殴りつけた。
咄嗟に冴久は鉄の処女でガードするが、凄まじい威力のパンチに体が飛ばされてしまった。
「がはぁ、人の力じゃないでしょ。」
冴久はよろよろと立ち上がった。もちろん冴久も闘神の衣をすでに纏っていたが、それでも重蔵のパンチによってダメージを受けた。
「あはは!さすが現代で最強の陰陽師と言われた男。黒笠がどこで涼風重蔵の死体を手に入れたのかは知りませんが、とてつもないものを残してくれました。」
司は上機嫌に笑いながらそう言う。
「死者を弄ぶなんて、地獄に堕ちますよ?」
「今更でしょう?」
その後も冴久と冴久の手勢は重蔵と戦ったが、冴久や冴久の手勢の攻撃は重蔵の闘神の衣を貫通することはできない。それどころか中途半端な攻撃は反射してくる。加えて、重蔵の緻密に練られた霊力で放つパンチは必殺と言っていい。もろに当たれば一撃で戦闘不能になる威力を秘めていた。
「むぅ。なぜ、わしはこいつと戦わなければならないんだ?戦わなければいけないのはわかる。でも、なぜなんだ?」
重蔵はそう言いながらまた1人また1人と冴久の手勢を減らしていく。
「操られているんですよ!その黒田夏美によって!重蔵さん、正気に戻ってくれませんか?」
「操られている?わしは…」
「早く殺せ。」
黒田夏美からまたさらに念押しの命令が下される。
「わかっているわ!じゃが、身体が重くてのぉ。うまく動けん。霊力の通りも悪い。こいつらも強い。無理を言うな。」
「いや、それで本調子じゃないんですか。」
「当たり前じゃ、武器もないんじゃぞ!わしの刀はどこじゃ?黒丸、紅月、紫法衣はどこにあるんじゃ?」
冴久は考えていた。神の力を使えば互角までは持っていけるだろう。しかし、冴久は神の力を長くは使えない。とすれば、重蔵を動かしている術者の夏美を討つしかない。もちろん夏美は部下に囲まれて、厳重に守られている。それに近くには司もいる。簡単には近づけない。
かと言って、このままでは敵の援軍も来るだろうし、こちらの手勢も削られる一方だ。
一つ、希望があるのはおそらく死者使役の術は完璧ではない。その証拠に重蔵さんが悩むたびに動きが悪くなっている。そもそも完璧なら話すことなどなく黙って殺しにくるだろう。
凄まじい賭けになるが、重蔵さんが揺らぐような話をして、自分で自分の術を解いてもらおう。重蔵さんにならできるだろう。できてくれなければ、もう詰みだ。
そして動揺するであろう一言を冴久は放つ。
「真広くん。いい陰陽師になりましたよ。」
「なに!!?真広が陰陽師!?」
重蔵の動きが止まった。
「えぇ、とっても強い陰陽師になりましたよ。もう闘神の衣を使えますよ。」
「闘神の衣まで使える!?し、しかしやつにはあやかしの類は見えていなかった!霊力だってほとんど…」
「今は凄まじい霊力の持ち主です。いずれ貴方を超えるでしょう。それぐらいの才能を真広くんはもっています。」
「おい、止まるな!こいつらを殺せ!」
夏美が慌てたように言った。
「そうか…真広が。儂は諦めていたんじゃ。孫に陰陽術を教えることを。涼風家の陰陽師は儂で最後だと思っておった。こんな嬉しいことはない。…あ?お前は黒田夏美か?ん?この術はなんじゃ?」
陰陽師として諦めていた大好きな孫の成長を聞き、重蔵はなんと正気を取り戻した。そして、自分にかけられた術に気がついた。
「嘘じゃろ?ありえん!」
夏美はそう言うと焦って呪言を再び唱え始め、呪符が舞う。
「夏美よ!貴様の術が儂に通じると思うか!」
重蔵は目を閉じ、なにか唱え始め、どんどん霊力を高め始める。
すると、夏美の周りに展開された呪符が一つまた一つと燃え始めた。
「ちぃ!黒笠め!不完全な術を作りおって!司様お逃げください。貴方さえいればまだ戦いは続けられます。」
「いえ、逃げません。」
司は釘を飛ばし重蔵に突き刺した。霊力の大半と意識を術の対抗に向けていたため、闘神の衣を薄くなり、隙が生まれていたのだ。
「くっ!黒田家の釘術か!抜かったわ。」
突き刺された重蔵は動けなくなってしまう。
「こんなもの抜いてしまえば!くっ!」
冴久は釘を抜こうと重蔵に近づくが、黒田家の援軍が来てしまい前を塞がれる。
「もう何本か入れておきましょうか。自分の意思では動けなくなる支配の釘を。」
司は次々と釘を飛ばし、支配の重蔵に釘を打ち込んでいく。
「がぁ!まさかこんな小童にしてやられるとは。冴久よ、すまんのぉ。逃げてくれ。」
「いやいやいや!逃げられませんて!さっきまでのいい感じの流れはなんだったんですか!」
「ごーめん。」
「あなたのそのやばい時に軽い感じ昔から嫌いだ。」
「さて、これでもう私を殺すことは極めて困難になったわけですが、まだやります?決死の覚悟で私を殺しに来ますか?」
「冴久よ、逃げてくれ。逃げて儂を後で助けに来てくれ。孫の成長を見たいんじゃわ。痛い!痛い!もう刺すな!」
ピクピクと少しづつ動いてこちらを見ながら重蔵が言った。
司は「えっ!まだ動けるの!?」と少し驚いて釘をもう何本か重蔵に刺した。
「いや、逃げろって言ったってこれ逃げられますかね?」
冴久の今の状況は、黒田家の精鋭の陰陽師が援軍として駆けつけ囲まれている。前には黒田家当主の黒田司、操られた最強の陰陽師涼風重蔵。重蔵に削られてボロボロの手勢。転移の術は他の術に比べて発動させるまでに少し時間がかかるため、使えば隙をつかれて殺されるだろう。
ドン!ドン!ドン!
その時、大きな太鼓の音が響き渡った。




