86話 隠神刑部狸との戦い
「災禍たちは後ろのたぬきたちを頼みます。」
冴久先生は1番強そうな三体のあやかしに命令をした。
「「「御意。」」」
三体のあやかしが同時に返答し、鎧武者達を率いてたぬき達に突撃した。
「さて、あなたには私達2人を相手してもらいますよ。」
「ふん。2人だけで大丈夫かの?」
「真広、手加減はなしでいきますよ。」
冴久先生はそう言うと隠神刑部狸に切り掛かる。
キィン!
「わしの肉球は切れんよ?」
なんと肉球で冴久先生の攻撃を受け止めた。
「可愛くない肉球ですねぇ。」
冴久先生は瞬間移動の術を使い隠神刑部狸の後ろに現れ、今度は背中を切り付けるが、濃い妖力と硬い毛皮に阻まれ攻撃が通らない。
「痛くもかゆくもないのぉ。それにしても珍しい術を使いおる。」
「あなたどうやって倒せばいいんです?」
そう言うと一回冴久先生が離れたので、僕は雷をいくつも召喚し隠神刑部狸に落とし続けた。
「むん!神域で土地神と戦うと厄介じゃの。」
数秒間落とし続けたが隠神刑部狸はケロッとしていてあまり効いてる感じはしない。
三級くらいのあやかしなら消し炭になる威力なのになぁ。
「シン様たちだけではありませんよ?」
紫がそう言い、隠神刑部狸の背後から心臓を貫かんと突きを放ったが、やはり強力な妖力と硬い毛皮に阻まれ傷すらつけられない。
続いて黒が切り付け、白が狐火を放つがやはり隠神刑部狸は効いている素振りを見せない。
「化け物過ぎない?」
僕はぽろっと呟く。
「これが、ぬらりひょんと並ぶ最強のあやかしですよ。」
冴久先生がそう言う。
「これどうやって倒せば良いんですか?と言うか倒せます?」
僕は冴久先生に質問する。
「真広、破邪の刀を使いなさい。今のあなたなら破邪の本当の力の一端を使えます。」
「破邪の力の一端?」
僕は破邪を抜き、青白い透明な刀身を見る。
「なんじゃ、そのヤバそうな刀は?」
破邪を見た隠神刑部狸が初めて険しい顔を見して警戒する。
「おそらくですが、その刀には防御突破の力があります。初めて真広と戦ったとき、真広の力とは別の力で私の防御を僅かながら削りました。その刀の力でしょう。その力ならあの強力な妖力を突破してダメージを与えられるかもしれません。」
「とは言ってもどうやって使えばいいんだ?」
ー刀身に神力を集中させてください。今の真広ならできるはずですー
僕は目を閉じて刀身に力を集中させた。
「やばそうじゃのう!ちぃ!わらわらと出てきおったわ。」
神軍が続々と隠神刑部狸に捨て身の突撃をしていく。
隠神刑部狸は神兵に向けた手を広げて硬く手を閉じるとそれだけでその方向にいた5人の神兵の全身が捻じ曲がり生き絶え、光に変わる。
神力を刀身に集中し、目を開けると透明だった刀身がまばゆい銀色に輝く刀身に変化していた。
僕は破邪を振り隠神刑部狸に斬撃を飛ばした。
「むっ!」
隠神刑部狸は斬撃を肉球で受けたがうっすらと血が滲んでいる。
「効いた!」
僕は思わず声を上げる。
「調子に乗るな、小僧。」
隠神刑部狸は僕に向け拳を突き出す。
その瞬間僕は大きな衝撃とともに吹き飛ばされた。
追撃させまいと冴久が隠神刑部狸の前に出て切り掛かる。
冴久の霊力と隠神刑部狸の妖力がなんどもぶつかり合い大きな衝撃が響きわたる。
「小賢しい!」
隠神刑部狸はそう言うと妖力を更に高める。全身の毛が更に硬質化し、身体から強力な妖力が溢れ出る。
「困りました、更に硬くなりましたねぇ。」
冴久先生も負けじと霊力ではなく神力に力を切り替え、神力を全身に覆った。
「お主!その力は!?」
冴久の力をみて隠神刑部狸は目を見開く。
冴久はなにも答えず大きな氷塊を作り出し隠神刑部狸に落とした。
これを隠神刑部狸は拳で粉砕する。
その隙を冴久は見逃さず隠神刑部狸ごと術で空間を切り裂いた。
「ぐはぁ!!」
隠神刑部狸は腹を大きく切り裂かれた血を吐く。
「はぁはぁ、これは効きましたね。空間ごと切り裂くので防御不可ですよ。空間を切り裂くのは神力を使ってもかなり疲れますが。」
大きく切り裂かれた空間はまだ大きく歪みを残している。
空間を切り裂くのはかなりの力を使うようで冴久は肩で息をしている。
そして、僕もその隙を見逃さない。
今まで出鱈目に打っていた光線。冴久先生との特訓で、太かった光線は細く収束され、神力をもともとの5倍以上の力を込めて放てるようになった光線は僕の逆転の必殺技に昇華した。
「いっけー!」
僕の放った光線は冴久先生が付けた傷に当たり、隠神刑部狸を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた隠神刑部狸は身体から煙をあげて、口から更に血を吐き出した。
「ゲホッ、ゲホッ、久しぶりにこんなに痛めつけられたわ。もう許さん。かるくあしらって終わりにしてやろうと思っておったがやめじゃ。本気で相手にしてやる!」
隠神刑部狸は怒りの形相を浮かべて葉っぱを頭の上に乗せ、手を合わせた。
「大変化の…」
「いえ、ここまでです。」
冴久先生が待ったをかける。
「なに?ここからが本番じゃぞ!!」
「いえ、ここまでです。後ろを見てください。」
後ろを向いた隠神刑部狸は目を見開く。なんと連れてきた一族のたぬきたちが縛り上げられて刀を突きつけられていた。
「おやじー、ごめん。こいつらめちゃんこ強かった。」
縛り上げられた一匹の狸が声を上げた。
「主、申し訳ありません。この狸が結構強くて時間がかかりました。」
天武と言われていた二刀流の冴久の秘密兵器の1人が片手でその狸を抑え、もう一方の刀を持っている手でツンツンとその狸をつついていた。
「なんと!兵太郎達がとらえられてしもうたか!わしの八百八狸の中でも強いやつを選りすぐってきたのじゃが…」
兵太郎と言われた狸は「ちょっ、抵抗しないからつつかんといて?」と言っている。
「少しでもこちらを攻撃する素振りを見せれば、一匹づつこの剣で刺し殺していきます。あなたにはわかるでしょう?この剣の呪いが。刺されたものは悶え苦しんで死んでいきます。」
冴久先生がたぬき達の方に移動して、剣を突き立てる。
「おやじー、動かないで!」「助けて!」「ムリムリ、死にたくない!」「だからおいら来たくなかったんだ。」「帰して!離して!」「やーだー!やーめーてー!」
「お主ら本当に情け無いのぉ!!負けた上に命乞いとは恥を知れ!あとで1人ずつゲンコツじゃ!」
なんか狸社会って思ったより平和なのかなぁ。でも、狸達の実力は確かだったようだ。たった20匹程度の狸達に3人の冴久先生の秘密兵器のあやかしと10人の金色の武者達は欠けていないが、500騎いた武者達は200騎ほどまで減らされていた。
「では、貴方たちの目的はなんです?」
「むぅ。言っていいのかのぉ。」
隠神刑部狸は険しい顔で言葉を詰まらせる。
「言ってもいいですよー、なんなら私から言いましょうか?」
僕たちの頭の中にツクヨミの声が響き渡った。




