溝が深まる裸の付き合い
地球サイドに戻って参りました。
キャラ崩壊を含みますので、ご注意を。
主に、下ネタ方向で。
熱いお湯が、身体の中に籠った熱を解していくようだった。
湯船に浸かりながら、久遠は衝撃的な妹の告白を思い返す。
魔法少女になった、というだけならば、まだ簡単に受け入れられただろう。
永久の年頃ならば、魔力に目覚めてもおかしくない。
ショックはあっただろうが、充分に有り得る話だと理解できる。
だが、まさか、並列世界の永久と入れ替わるなどという事を、一体誰が想像しただろうか。
勢いに押されて納得したが、落ち着いて思い返せば、彼女の話にはほとんど証拠というものが欠如している。
あるいは、妹に成りすませた何者かなのではないのか。
有り得ない様な話を聞いたからだろう。
そんな不吉な考えが浮かんでくる。
久遠は、お湯を掬って、叩き付けるように顔を洗う。
「……忘れろ。そんな事はないんだ」
自分に言い聞かせるように、彼女は呟く。
そうあって欲しいと、自分にとって都合の良い言葉だけを受け入れる。
次いで、彼女は苦い笑みを浮かべた。
「まったく……。困った性格だ」
希望的観測に縋ったが故の悲劇など、現実にありふれているというのに、それを知っていて猶、そうしてしまう己の軟弱さを自嘲する。
「ふぅぅ……」
長く吐息して、胸に溜まっていた熱を吐き出した。
そうする事で、僅かなりとも気持ちを落ち着けていると、唐突に浴室の扉が開け放たれた。
「バァンッ!!
一緒にお風呂に入りましょう、お姉様!」
「と、永久!?」
一糸纏わぬ姿で仁王立つ妹がそこにいた。
一切肌を隠さない様子に、同性の姉妹と言えど、若干の恥ずかしさを覚える久遠だったが、永久はそんな姉を無視して躊躇いなく浴室へと侵入してきた。
さっとシャワーで身体を流すと、混乱醒めやらぬ久遠をさしおいて、湯船の中に飛び込んでいた。
バシャリ、と派手に水飛沫が上がる。
烏の行水並みというか、男らし過ぎる入浴と、頭から被ったお湯に文句を言ってやろうと、久遠が目元を拭って視界を確保する。
しかし、そこで彼女の動きはピタリと止まった。
「あ~、やはりお湯は良いですね~。
長湯は危険ですけど」
湯船の中から、妹の姿が消えていたからだ。
飛び込んだ永久の代わりに、久遠の前には薄桃色のゲル状物体が浮かんでいる。
それが永久の声でくつろいでいた。
(……さっきの考えは、間違ってないのかもしれないなー)
遠い目をして、久遠はそう思わずにはいられなかった。
あまりにも明らかに人間ではなかった。
両親に渡していたゲルトワやらねんどろとわを見ていて、うすうす感じていたが、こうして目にすると現実を受け入れざるを得ない。
「永久…………なんだよ、な?」
「ええ~。そうですよ~」
一応、確認してみると、のんびりとした肯定の言葉が返ってきた。
恐る恐る掌で下から支えると、衝きたてのモチのような不思議な柔らかさがあった。
肌に吸い付くような密着感があり、いつまでも触っていたい気分となる。
「お姉様は私の感触が好きですねぇ~」
「…………そちらの私も?」
好きに遊ばれながら、永久はそんな感想を漏らした。
自分の事に久遠が問えば、蕩けた声で応えがあった。
「ええ~。枕にすると心地よいそうで~。
分体を切り離して提供しておりました~」
「そうなのか……」
「とはいえ、夫との情事の際に片付けないのもどうかと思いますよ~。
翌朝、私はどんな気分でいれば良いのかと、大変に悩まされました~」
「そっ! それは私の所為じゃないだろ!?」
あまりに赤裸々な告白に、久遠が狼狽する。
まだ恋人もおらず、貞操も守ったままの初心な彼女には、なんと反応して良いのか分からない話題であった。
「まぁ、そうですね~。
まだ処女なお姉様に言っても仕方ありませんね~」
「…………処女って言わないでくれないか?」
「では、経験がおありで?」
「…………」
久遠は黙秘した。
黙り込んだ姉の様子を、永久はくすくすと笑う。
身体も合わせてぷるぷる震えた。
からかわれている、と理解した彼女は、少し力を入れて妹を歪ませながら半目で訊ねる。
「……そういうお前はどうなんだ?
良い人もいないんだろう?」
「あー……」
何かを誤魔化す様な声が聞こえた。
久遠は、お湯の中に沈めようと下に引っ張る。
しかし、意外に浮力が強くて半分程度しか沈まなかった。
なので、その辺りで諦めて粘体状の妹を揺らす。
「おい、どうなんだ?」
「いやー、私はねー。
ほら、こんな身体ですから?
子供も……まぁ、作ろうと思えば作れますけど、ナチュラルでは出来ませんし?
なので、ええと、処女ではありませんよ?」
「…………ぼんやりと想像ついたけど、もうちょっと詳しく」
「言って欲しいのですか?」
「あまり聞きたくないけど」
「じゃあ、教えてあげましょう」
「……ひねくれ者って言われないか?」
手を離せば、少し勢いをつけて飛び上がる永久。
水面に軟着陸した彼女は、ぷるりと震えながら答えた。
「実は、結構な男性とやりまくりでして」
「お前の貞操観念はどうなってるんだッ!」
「良いじゃないですかー!
だって、私、性病とも妊娠とも無縁ですもん!
何処の誰と何をどうしようと何の問題も起きませんよ!
なら、好きに快楽貪っても良いじゃないですかー!
結構、評判良いんですよ!?
締まりも良いし、内部構造も自由自在ですし!
ミミズ千匹もカズノコ天井も、何でもござれです!
なにより美人ですしね! 私!」
事実、ほとんど相手を選ばない永久は、一部の軍属男性からかなりの人気を得ている。
代わりに、女性からの不興を稼いでいるが、実力が化け物級なので、問題には全くなっていない。
「そういう問題じゃなぁーいッ!」
チョップやパンチをくれて、久遠は湯船の中で妹を折檻する。
独特な柔らかい感触に、ちょっとクセになりそうだ。
「そっちの私は何も言わないのか!?
お父さんやお母さんは!?」
「えー、お姉様は、まぁ、私の事は若干放置気味というか。
息子に悪影響さえ出さないなら、好きにして良しという事で。
どうせ、何がどうなろうとどうにもならない、とすっごい信頼をされてますからね」
現在の永久を滅ぼそうと思えば、美影やノエリアを連れてくるしかないと言われている。
他の戦力では、絶対に勝ちきれないのだ。
勝つ事は出来なくもないが、殺しきる前に確実に逃げられてしまうから。
そんな半不死生物と化している為、あちらの久遠は、問題さえ起こさなければ構わない、と果てしない放任主義となっているのだ。
「……両親は?」
「それ、訊いちゃいます?
私、言及避けてるんですけど」
「仲が悪いのか?
いや、それとも……」
話の節々に、戦争があったような事を言っていた。
加えて、話を信じるならば、永久自身も軍属だという。
ならば、既に命を落としていてもおかしくない、と想像する。
しかし、その想像は即座に否定された。
「いえ、ちゃんと生きておりますよ。多分。
ただ、私はもうずっと会っていないもので。
こう言っては何ですが、あまり良い関係ではありませんからね」
「……そう、なのか」
「そうなのです。
なので、こちらの両親には変わらないでいて貰いたいですね。
こちらの私の為にも」
久遠は、家族仲は良好だと思っている。
父とは、年頃になってしまった所為で少しばかり距離が開いているが、こちらをよく見てくれていると分かる。
同性故だろうか、母とは普通に仲が良い。
妹も、今はやや反抗期に入っているが、暴力や非行などに走る訳でもない、可愛い妹である。
そんな家族であるが故に、言葉を濁してしまう程の悪関係というのは、想像しがたかった。
「まっ、仕方ないものなので、気にしなくて良いですよ。
こちらとは無関係な話です。
あちらに行った私も、出会う事はないでしょう」
地球にいた頃ならまだしも、火星に移住して以降は、父母両者ともに蟄居生活を完全に受け入れているらしい。
今更、表舞台にしゃしゃり出てくる事はないだろう。
出たとしても、あちらの久遠がシャットアウトしてしまうだろうから、無力な永久が出会う可能性はまず考えられない。
「さてさて、まぁ私の下半身事情や家族関係はさておきまして」
「……横に置いておくには、中々に威力が高過ぎると思うんだけど?」
「良いから良いから。
……ほのぼのとした雑談によって理解が深まった所で、一つ、提案があります」
「……溝が深まった気もするけど」
ジト目となって見つめてくる姉を無視して、永久は言う。
「お姉様、魔法を習得してみませんか?」
それは、思わず目を見開いてしまうものだった。




