3曲目2
……モヤシは、叩けなかった。
開始一分と持たずリズムが瓦解した。
「何で、モヤシちゃん!?」
顔を真っ青にさせたモヤシが、
「さすがに速過ぎます。……もしかして僕、クビですか?」
「キミがクビだなんて!」
アオは必死に考える。
アオは何が何でもモヤシにドラムを任せたい。
彼の才能は本物だし、ドラマーとしての能力の他にも『理由』があるからだ。
だが、アオは今まで『ボクの曲を叩けないから』という極めて厳格かつ合理的な理由で何人ものドラマーをクビにしてきた。
本山もその一人だ。
だが本山は216bpmの曲を叩ききった。
そしてモヤシは272bpmの曲を叩けなかった。
五分五分だ。
ならば、入部したてで未知数な部分の多いモヤシよりも、ライブ出場経験もある本山を選ぶのが合理的というもの。
(何か、何かない!? やっちゃんをドラマーに据えるための神の一手! ――あっ!?)
アオは思い出す。
昨晩の飲み会。
モヤシは明らかに、272bpmをも超える速度で貧乏ゆすりをしていた。
リズムにことさらうるさい自分が、この目で見たのだ。
間違いない。
「モヤシちゃん、貧乏ゆすりは? 昨晩、これよりもっと早い速度でできてたよね!?」
そう。
先ほどの演奏では、彼の強みであるはずの左足によるリズムキープができていなかった。
彼は実力を発揮できていなかったのだ。
なぜ?
「272bpmのリズムキープなんて」
モヤシが泣きそうな顔で、
「足首壊れちゃいますよ」
「えっ!?」
モヤシがメトロノームも無しにbpmを言い当てたことに、本山がビビる。
「でも、昨日はできてたじゃないか」
「あ、あれは、緊張してたからです!」
「緊張? どうして?」
「だってアオ先輩がその、……く、くっついてくるし」
真っ赤になって、しどろもどろなモヤシ。
アオはたまらない。
嗜虐心が刺激される。
「ふぅん。具体的に、どことどこがくっついたのかな?」
アオは白の革ジャンを肩から降ろす。
脱ぎはしない。
手首が露出してしまうからだ。
濃紺のキャミソールを押し上げる、自慢のバストが強調される。
アオはモヤシの手からスティックを奪い取る。
モヤシの手を取り、自分のバストに押し当てた。
「ウワァアアアアアアアアアア!?」
モヤシがビビりちらかす。
彼の手汗が、じんわりとキャミソールに沁み込んでくる。
モヤシが貧乏ゆすりを始めた。
早い。
272bpmはある。
アオはすかさずモヤシにスティックを握らせ、
「ミュージック・スタート!」
モヤシがイントロを叩き始める。
上手い。
272bpmという驚異の高速テクニカルロックの、16ビートでルーディメンツマシマシなビートを的確に正確に完璧に叩ききっていく。
二、三回聴いただけなのに、もう『完コピ』している。
確かに、面白みのない、オリジナリティが不足したドラムなのかもしれない。
だが、カンペキだ。
カンペキを求めるアオにとって、最高最強にして唯一の人材、モヤシ。
イントロが終わった。
アオはマイクを取り、息を吸う。
♪ ♪ ♪
――パチパチパチパチパチパチパチパチッ
「――はっ!?」
気が付くと、曲が終わっていた。
両手両足と腰がガクガクだ。
どうやら僕は、アオ先輩の新曲『もやしマシマシロックンロール』を叩ききることができたらしい。
「は、ははは……お前、天才だよ」
本山先輩がスタンディングオベーションをしている。
「完敗だ。何としても学祭中庭ライブに出ろよ?」
本山先輩、そう言ってウインク。
ははは……リア充イケメンってすごいな。
敵わないや。
「さすがはボクのヒーロー、やっちゃん!」
アオ先輩が僕に抱き着いてきた。
それから慌てて、
「じゃなかった、モヤシちゃん! ボクは絶対ぜぇったい、キミを離さないからね」
アオ先輩がニヤリと笑う。
そう、笑ったんだ。
アオ先輩が笑顔だなんて、珍しい。
「モヤシちゃんの、超高速貧乏ゆすり状態のことを『スーパーモヤシちゃんモード』と名付けるよ。起動ボタンはボクの胸さ」




