だからこれは聞いてくれないかな
「えと、ごめんね糸瀬さん。持ちにくいよね、それ...持つよ」
俺はあまり見た事のない、縦に長い袋をかかえながら歩く彼女を気遣う。
もちろん呼び名は戻して。
「ああいや全然。ありがとう私の為に」
「お礼なんてとんでもない。俺が取りたかっただけだからさ」
「...うん、それでもありがとうはありがとうだから」
「そういうもんなんだ」
「......うん」
先ほどの事を引きづっているのはもちろん彼女も同じ。
あの一瞬でどういう思考回路が回っていたのかは分からないけど、彼女には彼女らしい正当な考えかたがあったんだと思う。
だけど、兄と妹という関係性よりもカップルの方が距離的には近いのは明らか。
こんなことあまり言いたくないが、店主さんも店主さんだ。
大勢の人がいる中で、あの状況を見ている人は、
もし、もう一度俺たちを見かけた時にあの時のカップルとしか再認識する他ないということ。
しかも、それが仮にクラスの人だったらどうするか。
学年一位の糸瀬さんが知らない男と付き合ってるなんてデマ情報を流されたらたまったもんじゃない。
別に糸瀬さんのことを否定してる訳じゃないが、目立つ人が隣にいるというのは少し難しい。
「たぶん、さっきのこと蒼井さんも気にしてるよね」
「え?」
射撃以降は何かしたい、とは彼女は言ってこなかったため考え事をしながらフラフラ歩いていた矢先、タイムリーな話題を振られる。
「ちょっと、あっちに行かない?」
彼女は屋台と屋台の間にある隙間から、少し遠くにある、もう使われていないであろう拝殿を指さした。
「ああ、うん。わかった」
言われるがまま、俺は彼女について行った。
何もない道中は最初にいたところとは少し違う、うっすらとした寒さを感じた。
俺自身、霊感は全く持ち合わせていないが、出ると言われても何ら不思議には思わなかっただろう。
そんぐらい、悪くいうと気味の悪いところだった。
前を歩く糸瀬さんの草履の石を踏みしめる音だけが聞こえる。
「ついたよ、昔からの私のお気に入りの場所なんだ」
ついたところは夜空がくっきり見える、小さな拝殿だった。
階段に座っただけでまるで絵になる彼女は、「隣、座ってくれない?」と先ほどの俺がやったことと同じことをした。
俺は少し驚き戸惑いながらも、ゆっくりと腰を降ろした。
座ってから少したって。
彼女自ら口を開く。
「これは私の独り言だから、蒼井くんは気にしなくていいよ」
空を見ながら彼女は続ける。
俺は耳をすませて聞いていた。
「私、昔から嘘をつくことがほんとに嫌いでさ。もちろん、悪行を隠すためにつく嘘は絶対によくないし、それは成敗されるべきだと心から思うんだけど」
「優しい嘘も私は嫌いなんだ」
それは先ほど自らついた己の嘘を省みるような一言。
でもね、と彼女はワンテンポおいて続ける。
俺は思わず息を呑んでいた。
「君、蒼井くんといる時は、さっきだって。今日の夕方だって。出会った日ですら、私は嘘をついてたんだ」
「何とか君との関係を上手く取り繕うとしたり、きっと私がすることじゃないって言う自分の気持ちに嘘をついて優しくしたり。多分自分で言うことじゃないんだけど、そんぐらい私はあなたに近づいてしまっている」
「だから、これは聞いてくれないかな」
さっきまで遠くを見ていた彼女はスっとこちらを向いて。
そして真剣で真っ直ぐな眼差しを俺の心に向けて。
少し震えた手で俺の手を握ってこう言った。
「私と、友達になってくれませんか」




