祷
それは夢か現か。単なる願望だったのかもしれないし、幻覚だったのかもしれない。
がんちゃん。
ほづみ。
ひいやみことや、学生メンバーのみんな。
チカやキョウさんや、バテリアのみんな。
ハルやメイや、『ソルエス』のみんな。
ウリや先輩連合のみんな、大学や高校の友だち、がんちゃんの友だち、インカレサークルの仲間たち。
お父さんと、お母さん。
たくさんの人が訪れてくれたような気がした。
たくさんの言葉を掛けてもらえたような気がした。
たくさんの人の、祈る言葉を聞いた気がした。
そう、私にはまだやることがあるから。
掛けられたたくさんの言葉たち。祈りの言葉に応えなくては。
応えを返すのが、セグンダなのだから。
あの日。
あの、私ががんちゃんのために計画し、がんちゃんが勝ち取ったイベントで。
あの、徳島のよく晴れた、澄み渡る青空の下で。
私は祈るようにスルドを奏でた。
ふたつの祈りを、スルドを通して空へと放った。
捧げた祈りを、私自らが諦めるわけにはいかない。
祈りとは、委ねる行為ではない。
祈りとは、求めるものを得るために、捧げる行為だ。
思いを、覚悟を、意思を、志を。
私は祈る。
私の成すべきこと、成したいことを、成し得るために。
※※※
祈りは空へと昇り。
空には皓月が照り輝いている。
暗闇の中。
バイクを疾駆させていた男を。
コンビニ袋を下げ家路に向かう姉妹を。
白く四角い建物から出てきた長身の男を。
駅を背に夜道を歩く女を。
流れる車窓から街の灯りを眺めていた男の乗る電車を。
夕食を取る家族を包むアパートを。
ダイニングで空いた席を見つめていた誰かの母親と。
無言でウイスキーグラスを傾けていた誰かの父親の住む家を。
肌寒さを感じながらも庭に出て、輝く月を見上げていた小柄な少女を。
月は優しく照らしていた。
空へと昇った祈りが降り注ぐように。




