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絶対に元の世界には帰らない!  作者: 401
第三章 日常編
33/49

障壁塔にて 前編

今回は前後編です。少し長め。

「というか、最初カゲヤちゃんを作る時に散々裸見たじゃない。なんで今更恥ずかしがるの?」

「急にどうしたんだよ」

「だって、気になったし。外から中まで全部見たじゃない」

「なんでそういう言い方しちゃうかな……。そりゃまあ、あの時は酒と狂化入ってたし。大体あんまりあの晩の記憶がないんだよな」


 カゲヤ用の新装備を改造魔法で微調整しつつシエディアと話す。


 明日は冒険者ギルドに行くので、その準備だ。なんでも、不毛地帯トラニピアに設置されている障壁塔の攻略にカゲヤの力が必要らしい。


 インヤとしてリセプに会った際に言伝をするように頼まれただけなので、詳しいことは知らされていないが……せっかくに遠征(りょこう)に行くんだし、前から作っていた新しい装備をお披露目することにしたのだ。


「はぁ、インヤさんだけカゲヤちゃんの身体を好き放題できてずるい……」

「だから言い方! というかお前も大概好き放題してるから!」


 今回は巫女服にドラゴンの意匠を加えてところどころファンタジー風にした似非和服である。デザイン・製作は俺、監修・調整はシエディアだ。

 二人ともいつもの如くノリッノリで作ったので、例によってアホみたいに性能が高い。ただし今回は清楚さ重視で露出控えめ。


「俺は明日から依頼を受けに出かけるけど、シエディアは留守番な」

「ええ、なんで!?」

「だって、シエディアは謎の魔人って扱いなんだぞ。魔王に匹敵する力を持つんだから、あんまり派手なことしちゃダメだろ」

「それインヤさんが言う?」

「さーて、障壁塔の下見にでも行っておくかなー」


 俺は昔トラニピアに設置した魔法陣へと転移するため、アイテムのスイッチを押した。


 が、何故か反応がない。


「あれ、おかしいな……。故障して……ないな。他の場所には転移可能になってるし」

「転移妨害……? けど、この時代じゃ転移妨害なんて使えるのは魔王だけだし、並の妨害じゃインヤさんの転移は弾けないはず……」

「まあ、多分魔法陣が風化して使えなくなったとかだろ」

「これふらぐってやつでしょ? ねえねえ、そうでしょ?」


 シエディアの戯言を聞き流しつつ、俺は準備を進めるのだった。……何も起きないといいなあ。



 不毛地帯トラニピアに設置された障壁塔。その最上階の玉座に、一体のモンスターが座していた。


 彼の名はプラト。男淫魔(インキュバス)の最上位種たる色帝男淫魔(インキュバスロード)である。 


 プラトの前に、側近である上位の女淫魔(サキュバス)がやってくる。


「プラト様、竜公国の遮断要石の回収に成功しました」

「ふむ、よくやった」

「はい……」


 プラトが頭に触れた瞬間、サキュバスは蕩けたような顔で歓喜を表す。


 全ての淫魔は異性の人型生物を魅了する魔法を持つが、プラトはそれとは全く別種の、サキュバスを触れただけで魅了する力を持つ。

 この力はサキュバスにしか働かない代わりに非常に強力で、サキュバスの最上位種であるアークサキュバスでさえ抗うことは出来ない。


 身を震わせるサキュバスの姿を見ても、プラトは表情一つ変えない。

 彼にとって美とは異性に宿るものではない。彼が魅力を感じるのは、圧倒的な力にのみである。

 強い力を持つのであれば、異種族でも、同性でも、生物でなくても構わない。


 今までは魔王がそうだった。だが、今は違う。


「ついに、三つの遮断要石が俺の元に揃った……。これで、あの輝きを作り出すことが出来る……ククッ」


 ――あの日、魔王城を消し飛ばした圧倒的な力。


 あれを再現し、あれ以上の力を生み出すことが、今のプラトの目的だ。


魔王核(ブラックコア)の作成は完了した。あとは、起動のための魔力を用意するだけだ。サキュバスたちよ、早く人間どもの精を集めろ。勇者がここに来る前にな」

「畏まりました、我が主――影の四天王、破滅将プラト様」

「魔王核と俺の身体を接続し、転移妨害を展開しているが、それも時間の問題だろう……もはや魔王も勇者もどうでもいいが、あの輝きをもう一度見ないことには死んでも死にきれん」



 カゲヤの姿へ変身し、準備を終えた俺は、シエディアに再度確認をする。


「……お母さん、ちゃんとお留守番できる?」

「な、舐められている……!」

「いざという時のために逃亡用の転移アイテムと、対魔王用兵器を置いていくから、危なくなったらちゃんと使うんだぞ?」

「留守番ぐらいできますう! 大体こんな強いアイテムを置いていって、カゲヤちゃんの方こそ何かあっても知らないんだから!」


 シエディアは見た目に反してポンコツだから心配なのだ。うん? 似た者親子? なんのことかさっぱりだな。


 シエディアに見送られ、新装備で冒険者ギルドへと向かう。


 ……やっぱり星王国だとこの格好は浮くな。まあ普段の装備でも十分浮くんだけど。そもそもカゲヤ自体が浮くんだけど。だって美少女だから。

 これから向かう竜公国は和風っぽい文化のある国らしいので、この格好がマッチすることを期待している。


「あ、カゲヤちゃん! ……あれ、装備新調したの?」

「新調……とは少し違うが、そんな感じだな」


 たまには別の服を着てみたくなっただけ、って言ったら怒られそうなので、適当に濁しておく。


「いつも急に行方がわからなくなったり、そうと思ったらウェイトレスやビーチに来てたりして、とか色々言いたいことはあるけど……人を待たせてるから、手短に依頼内容を説明するね」


 人を待たせてる……? 他の冒険者とパーティを組むのだろうか。


「今回の依頼はトラニピア障壁塔の偵察。可能であれば攻略。本来なら高ランクの冒険者がパーティを組んで行う依頼だけど、特例でカゲヤちゃんにソロでの受諾が認められてる」

「ふうん、特例か」

「うん。トラニピアの障壁塔には――サキュバスが大量に配置されてるの。男性じゃまず攻略は不可能だから、唯一の女性の最高位冒険者であるカゲヤちゃんに指名が来たってわけ。民間人の死者はあまり出ていないけど、時間の問題だと思うから出来れば早めに討伐したいの」

「……」


 ……うん、まあ、俺も精神――というか魂が男性なので、普通にサキュバスの魅了が通用する。


 だが、カゲヤの身体にはアークサキュバスの魔石が使われているので、身体の方が魂に届く前に自動で魅了を弾いてくれる。問題はない。


「まずは竜公国に転移護符(テレポーター)で転移して、そこからゴーレム馬車――ドンゴに乗ってトラニピア障壁塔まで向かって」


 リセプから行きと帰り、二枚の使い捨て転移護符が手渡される。


「ドンゴが竜公国にいるのか?」

「先日までアングさんたちを急いで魔王城跡地に運ぶために使われてたから。メイドのイティーさんが御者をするために待ってるから、早く行ってあげてね」


 なるほど、そういうことか。


 ささっと手続きを済ませ、竜公国へと転移した。



 残念ながら竜公国を観光する暇はなかったが、クール系美人メイドさんと馬車で二人旅である。これは嬉しい。


「イティーさんは戦闘もできるんですか?」

「いえ、軽い護身術は身につけておりますが、戦闘はほとんどできません。Ⅱランクのモンスターを相手に時間稼ぎをするのがせいぜいでしょう」


 ふむ。一般人にしては割と強いが……。前には出さない方がいいな。


 なお、(インヤ)の肉弾戦のスペックは、Ⅰランクのモンスター相手でも普通にボッコボコになるぐらいである。


「魔法も一応扱えますが、戦闘の役に立つものはほとんど修めておりません」

「そうなんですか……例えば、どんな魔法を?」

「生活用の魔法や……情報魔法というマイナーな魔法などですね。人や物の情報を見ることができます」


 情報魔法。俺が時々ステータスを見るためにパソコンで使っているやつだ。

 本来ならあんな風にきっちり数値化文字化されるものではなく、使うとぼんやりと大雑把な情報が頭に浮かぶというものらしい。


 俺はカゲヤの時は腕時計、インヤの時は腕輪の効果で、表示される情報を偽装している。

 素の状態だと「佐藤陰矢 男性 異世界人」と表示されるところを、「佐藤影耶 女性 異世界人」もしくは「インヤ 男性 人間」と表示するようにしているのだ。


「へえ、どんな感じで表示されるんでしょう?」

「表示……とは、少し違いますね。対象の名前や名称が聞こえて来て……それと同時に、意味を持った色が見えます。ここは説明が難しいのですが」

「色?」

「ええ。剣の色や弓の色。魔法の色や錬金術の色…そういったものが。例えば剣の色が濃ければ、その人が剣術に精通していると判別できるのです。他にも見えるものや判別法はありますが」


 なるほど……魔法のランクがあがると、もっと色々感じたり見れたりするんだろうか。


「けれど、カゲヤさんは他の人とは少し見え方が違いますね。なんというか……色が馴染んでいないような。以前あったインヤという錬金術師の方も同じような見え方でした」

「へ、へえ……そそそそうなんですかー」


 マジかイティーさん……この人と二人旅ってヤバいんじゃなかろうか。俄然不安になってきたぞ。


 と、そこでドンゴが止まった。まだ障壁塔には着いていないはずだが……。


「ああ、敵ですね……サキュバスが五体ですか」


 ドンゴが光線砲を撃つが、サキュバスたちは背中に生えた羽で機敏に空を飛び回っている。なかなか当てることが出来ていない。

 飛行形態なら軽く撃墜できるだろうが、馬車を引いている都合上そういう訳にもいかない。


「どうします、カゲヤさん?」

「邪魔ですし、倒しておきましょう。イティーさんはここで待っていてください」


 馬車から出て、ドンゴの背を蹴って跳び上がった。

 ドゥリンダナと同じ効果を持った日本刀、冥刀「千鳥」を抜き、履物の効果で足元に結界を展開して空中を移動する。


 サキュバスのようなタイプの悪魔モンスターは、魅了以外にも強力な魔法の力を持つ。が、物理には弱い。ささっと華麗に斬り倒し、馬車の屋根へ着地した。


 ま、このままサキュバスしか出ないようなら、楽に攻略できるだろう。



「た、確かにサキュバスしか出ないなら楽だとは言ったけど、百体も出るなんて聞いてない!」

「カゲヤさん、今度は二百体来ました!」


 クソ……こんなに来られては、さすがに捌ききれない。流れ弾がイティーに当たることだってありうる。


 一旦帰還したいが、サキュバスの飛行速度はかなり速い。ドンゴでも簡単には振り払えないだろう。


 広範囲を薙ぎ払えるアイテムはシエディアのところに置いてきてしまった。転移で帰ろうにも、ドンゴは大き過ぎて連れていけない。となると……。


「イティーさん、突っ切ります! ドンゴを障壁塔まで進ませてください!」

「は、はい!」


 ドンゴが一目散に障壁塔へと向かう。

 サキュバスが魔法を放ってくるが、魔法を斬り裂く刀、禊刀「雷切」を使って無効化する。ちなみに、材料には以前採取した光弥の血が使われている。


 入口を破壊しながら、ドンゴが障壁塔へ飛び込む。


 サキュバス達が入ってくるが、流石に先程までと違い、数体ずつしかやってこれない。


Feuer(ファイエル)! Feuer(ファイエル)! Feuer(ファイエル)!」


 ドンゴが一定間隔でサキュバスに光線砲を浴びせる。……とりあえず、これでサキュバス達は入ってこれないだろう。


 俺は懐から魔力結晶を取り出す。

 不毛地帯トラニピアでは大地の魔力が枯渇しているので地形改造は使えないが、一応持ってきておいてよかった。これがあれば障壁塔を改造して、サキュバス達を薙ぎ払える。


「(けど、先に障壁塔のモンスター達を倒さないとな)」


 危険なのでイティーは待機していてほしいが……障壁塔の中では巨体のドンゴは動きづらい。撃ち漏らす可能性を考えれば、一緒に連れていった方がいいだろう。


「イティーさん、ドンゴが抑えてくれている間に障壁塔を攻略しましょう。危ないので、私のそばを離れないように。絶対に守りきります、安心してください」

「は、はい……」


 震え声で返事を返すイティー。……可哀想だし、早く攻略してしまおう。



 というわけで襲い来るサキュバス達を薙ぎ倒し、最上階に到着した。


「す、すごいですねカゲヤさん……。こんなにあっという間に……」

「これで塔の中のサキュバスは大体倒しましたね……。あとはこの部屋だけか」


 ……というかここ、サキュバスばっかだな。他のモンスターはいないのか?


 と思ったらいた。玉座に座る男の悪魔。雰囲気からして、あれがボスだろう。


 悪魔は忌々しそうに俺たちを見る。


「チッ……。あと少しだったというのに、こんなところで邪魔が入るか」

「残りのモンスターはお前だけだ。さっさと来い」

「ふん、確かに多少は強いようだが……。女だけでここに来たのが運の尽きだな」

「何?」

「俺の名は破滅将プラト。インキュバスの最上位種――インキュバスロードだ」


 ああ、もう展開が読めた。


「俺に従え――《魅了の燐光》」


 男の悪魔――プラトは、俺に向けて朱色の光線を放った。


「カゲヤさんっ!」

「あ、大丈夫なのでお構いなく」


 光線が身体に当たるが、何の効果も及ぼさずに霧散する。

 言うまでもないが、中身が男である。効くはずもない。


「な――くっ、無効化能力か……? ならばこうだ!」


 プラトは突如上着を引きちぎった。なんだ、身体で魅せようということか?


 そんな感じで暢気に考えていると、プラトの胸の中心から黒い光が湧き出てきた。


魔王核(ブラックコア)、接続! 俺ではこれだけの魔力を制御することはできんが、波長を同期させることによって瞬間的に魔法の破壊力の増幅を――」

「いつもなら付き合ってやってもよかったんだが、私の後ろのメイドさんが不安そうにしているんだ。さっさと死ね」

「がはぁっ!?」


 一瞬で距離をつめ、刀で身体を斬り付けた。


「くそ……!」

「お前も悪魔だ。魔法戦が得意なんだろうが、接近戦で決着をつけさせてもらう!」

「がっ……!」


 プラトの顔に拳を入れる。間合いを少し離した俺は、そのまま刀を振り抜いて――


「う……!?」


 ――バチ、と頭の中に赤い閃光が走った。


「え、あ……? なんだ、これ……」


 刀を取り落とし、崩れ落ちた。


 身体の中心に凄まじい悪寒が走る。


 凍りつきそうなそれとは反対に、口から漏れる()の吐息は、どうしようもないほど熱かった。

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