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小さな取引

最初の話です


 そこは薄暗い病室だった。

 患者の少女は一人で、ぼんやりと虚空をみつめている。

 見舞いにきている家族も、友人も誰もいない。

 管を繋がれ、呼吸と電子音だけを部屋に響かせながら、時間が積み重なっていく。

 永遠か、それとも一瞬か、ともかくとある時間に到達したとき、虚空に鎮座する闇が生き物の形をなしていった。


 誰?

 少女は顔を変えずに闇に聞いた。


 おまえ達が言うところの悪魔さ。

 闇は言った。


 悪魔?ここには死にかけの女が一人だけだよ。甘言を囁く相手も、契約を結べる相手もいないわ。

 少女は言った。


 饒舌な女だな。半死人とは思えない。

 悪魔は感心した。


 女の子はしゃべれなくなったら死んじゃうの。だから私はしゃべれるわ。

 少女は言った。


 俺はお前を喰らいにきた。

 悪魔は女の子に詰め寄った。


 私はおいしくないよ。肉なんてもうないし。

 少女は自虐的に言った。


 俺が食べるのは魂だ。死の間際の魂は、とてもおいしいんだぞ。知ってたか?


 初めて知ったわ。貴重な知識ね。

 少女は笑った。


 悪魔は拍子抜けだという風に肩をすくめた。


 お前は、絶望しないのか?恐怖はしないのか?

 思わず悪魔は訊ねた。


 だってお父さんもお母さんも、私のことをあきらめているんですもの。もう何ヶ月も会いにこないわ。私の入院費を稼いでいるそうだけど。院長先生の話だと、私の医療費を払わず逃げたんですって。だから私は実験体になる代わりに、入院させてもらっているの。それに、健康な臓器は売るんですって。あ、これは世間には内緒ね。

 少女は言った。


 なんと、もうこんなに絶望にまみれているのか。喰らいがいがあるなあ。

 と悪魔は言った。


 そこで悪魔は考え込んだ。この女に興味がわいたのだ。


 なあお前、なにか願い事はないのか?俺は悪魔だ。結構いろんなことがかなえられるぞ。勿論代価は魂だがな

 悪魔は笑いながら、取引をもちかけた。


 この少女がどんな願いをするのか楽しみだった。復讐か、延命か。何にせよ後ろ暗い願いを叶えた後なら、魂はよりおいしくなるだろうなと悪魔は思った。


 少女は少し考えた。


 憎悪か、哀願か。悪魔はわくわくした。


 そうだね……。もしよければ、私の創った物語を聞いてくれない?

 少女は言った。


 まったく予想外の言葉に悪魔は面食らった。


 なぜ?

 疑問はそのまま言葉にでた。


 私ね。実験薬で苦しいときや、暇なときとか、物語をつくってたの。つくってつくって、頭がパンクするすくらい創ったの。だけど誰も聞いてくれる人はいなかった。私の手はもう腐ったし、紙に書くこともできない。

 だからね。悪魔のあなたに聞いてほしいの。毎晩でもいいわ。このままだと私の魂から物語があふれておぼれそうなの。


 少女の言葉に悪魔は考えた。どれだけ物語があるのか知らないが、不老の悪魔にとって多くの夜は退屈な時間だった。もしこの死にかけの少女がその時間を埋めてくれるなら、多少の暇つぶしになるかもしれない。


 それに、このおかしな少女がつくる物語は、結構悪魔も興味があった。


 よし、いいだろう。お前がおぼれかけた物語、余さず俺に語れ。

 あまりに面白くなかったら、食ってやるからな。


 いいわよ。

 少女は言った。


 少女はかすれた声で、物語を紡ぎ始めた。


なるべくたくさんかいていこうとおもいます

長編のほうは今貯めてます

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