暴風の後には
律刀はこの街から出ていくことにした。
目立つ銀髪はフードで隠し、自分の依代は背中に回し、誰にも言わず、誰にも気づかれずそっとこの街を出た。人間は噂好きだ。噂はまるで風のように伝わるのが速い。人に目撃される前にいなくなったのは得策と言えるだろう。
「どこにいこう。」
街を出たところで律刀がつぶやいた。
生まれながら沈丁花団の団長だった律刀は、当てがなく、何にも縛られずに、何にも守られずにいることが初めてだった。
いわゆる完全なる自由。
けれども律刀は一つの使命に囚われていた。
「他の団長達を止めなくては。」
その使命を心に重く刻み、長年騎士団に所属し、活動してきたこの街を離れていった。
街道を1人歩いていると後ろからガラガラと馬車の音がした。
「おーい、歩きかーい?僕は、空中都市のウラノースに行こうとしてるんだ!途中まででも乗っていかないかい?」
人懐っこそうな若い男性が声をかけてきた。
律刀はとりあえず街を離れるためだけに歩いていたため乗せてもらうことにした。
「あんたさ、1人で歩いてるってことは冒険者とかの腕が立つ人なんだろ、悪いんだけど、護衛してもらえない?護衛を雇うお金がなくって…お代はこの運賃ってことで!」
なるほど、そんな理由で声をかけてきたのかと1人納得しながら、返答した。
「構わない。むしろ、乗せてくれてありがたかった。」
「ほんと!いやー助かった!ギリギリのお金で、前いた街までは護衛がついてたんだけど、お金が底尽きちゃって…ありがとよ!えっと…」
名前がわからず言い淀む男性。
「アシーミ…そうアシーミです。」
咄嗟に偽名を使う律刀。
「アシーミか!俺はテレクシモールだ。長いから、みんなからはテレクって呼ばれてるんだ!アシーミもテレクでいいよ!」
「テレク、よろしくお願いします。」
アシーミこと律刀は、つくづく周りの人達に恵まれていることに感謝した。そして、そんな優しい人に偽名を使い、素の喋り方を封じて、嘘をついてることに胸が痛んだ。けれども仕方がない。緊急時だ。そう言い聞かせて、自分の気持ちに蓋をする。またどこかで音がした。
カチリ




