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決闘は朝はじまる

 それはメイド達が貴族の朝食の準備をしているときのことだった。


 その日の朝、目を覚ました枕木夢子は4人部屋で他の3人に掛けていた催眠魔法を解くと、3人が起きる前に足早に部屋を後にしていた。


 夢子が向かったのは貴族の生徒達が暮らしている建物の食堂だった。


 食堂には貴族の姿はなく、そこにはメイドとシェフが集まっていた。


 そして、その中には夢子の友人である、ペパー・ミントの姿もあった。


「おはようミントちゃん。」


「夢子さん。おはようございます。」


 夢子が声を掛けると、ミントは笑顔で返事をする。


 夢子やミントをはじめとして、他のメイド達が食堂に来ているのは、メイドには貴族の食事の準備をすることが義務付けられているためだった。


 シェフは料理を作り、それ以外の配膳などをメイド達が行うのだ。


 食事中の接待まではしないが、めんどうな雑用であるためメイド達はこの仕事が嫌いなようだった。


 一方で、夢子はこの仕事がそれほど嫌いではなかった。


 それは、朝早くに起きなければならないが、元の世界でも仕事で毎朝起きていたのは同じことだし、訓練では他の生徒と比べて劣等感を感じるが、食事の準備くらいなら劣等感を感じないですむからだった。


 食後の片づけは汚くなった食器を片付けないといけないので嫌だが、食事前の食器はきれいなので精神的にも楽だ。


 配膳作業について、夢子はノートを買ってよかったと感じていた。


 最初はフォークの並べ方もわからなかったが、基本的に配置は固定されている。そこで夢子は、ノートに配膳のレイアウト図などを書くことで理解を早めていたのだった。


 他のメイド達は頭脳労働よりも肉体労働の方が得意なためか、物を運ぶのは早いが置き方がてきとうで叱られる者が多い。


 一方で、夢子は物を運ぶのが遅くて叱られることはあったが、物の配置について叱られることはなくなっていた。


 そのような夢子の努力もあり、順調に作業を行っていた夢子とミントであったが、2人の前に1つの陰が立ちふさがった。


 それは前日にミントに絡んできた貴族の男子である、ロブ・コルダだった。


「おはよう、ミント。朝からがんばってるね。」


 昨日は夢子が魔法でロブを眠らせて放っておいたのだが、ロブは昨日のことを気にしていないのか、笑顔でミントに話しかけてきたのだ。


「おはようございます。ロブ・コルダさん、ありがとうございます。」


 人の良いミントは笑顔でロブに挨拶を返す。だが、ミントは無意識に片手を胸の前に添えるようにしており、ロブに警戒心を覚えているようだった。


 ロブはそんなミントの様子に気づいていないのか、ミントと夢子の間に割って入るように足を踏み出し、ミントとの距離を詰めた。


「ははは。そんなフルネームで呼ばなくてもいいよ。他の奴からはロブって呼ばれてるし、ロブって呼んでくれていいよ。」


 距離を詰めてくるロブに対して、ミントは半歩後ずさりする。


「そ、そうなんですね。それではロブさんと呼ぶようにしますね。」


「ははは、ロブさんか。呼び捨てにしないなんて、やはり君は丁寧だね。他のガサツなメイド達に見習わせてやりたいよ。」


 ロブは演技臭い笑顔を浮かべていう。だが、その言葉を聞いた夢子は(こいつ、他の人をけなすのがミントちゃんへの誉め言葉のつもりなのか。)と驚愕していた。


 この男としては褒めているつもりらしい台詞を聞いたミントも返答に困ったのか、


「それはありがとうございます。」と返すのが精いっぱいだった。そして苦笑しながら、


「あの、話しかけていただいたのは嬉しいのですが、今は朝食の準備をしないといけないので作業に戻ってもよろしいでしょうか?」


 と、ミントは会話を終わらせるために、あくまでも下手に出るようにしてロブに言った。


 それに対してロブは顎を手でさすり考えるような仕草をする。


「ふむ、それはそうだな。もちろん準備をしてもらっていいとも。ただ……」


 ロブはそこで言葉を切ると、さらに、至近距離といっていいほどの距離までミントに近づいた。


「準備が終わった後は、君の時間をもらってよいということだね?」


「えっと、それは……。」


 あきらめる様子をみせないロブに、ミントは言葉を詰まらせてさらに半歩後ずさりしようとする。


 だが、ミントが後ずさりする前に、ミントの腕をロブが捕まえた。


「おいおい。待ってくれよ!君は朝食の準備があると言っただろう?なら、その後は時間があるはずじゃないか!」


 ミントが後ずさりをしてロブを避けようとする様子に血が昇りはじめたのか、ロブの声が大きくなる。


「「なんだ?何を騒いでるんだ?」」


 ロブの大きな声を聴いて、あまり気にとめる様子もなかった周りのメイド達がミントとロブに注目しはじめる。


(これはちょっとヤバイかも。)


 ロブの様子や周りの視線を感じて、夢子は嫌な予感を感じる。そして、あまり騒ぎを起こさないようにこの場を収められないだろうか考える。


(ロブを眠らせるのは昨日やったばかりだし、連日で眠らせたらさすがに怪しまれるか?けど、それ以外で私が人を止める方法なんてないし。)


 悩む夢子をよそに、ロブの口調はさらに熱を帯びる。


「なぁミント、お前は昨日も俺の誘いを断ったよな?俺はすごい傷ついてるんだ。なのに今日も俺の誘いを断るなんて非情なことをするつもりなのか!?」


 誘っているというよりも脅しにしか聞こえない口調でロブがミントに詰め寄る。


 冷静さを失っているロブの様子を見て、夢子は(そんな事を言われて付き合う人はいないだろ。)と心の中でツッコミを入れる。


 それはミントも同じだったようで、申し訳なさそうにしながらも、


「あの、ごめんなさい。」


 とロブの誘いを断る謝罪をした。


 実際のところ、腕力でいえばメイドのミントの方がロブよりもよほど強く、掴まれた腕もむりやり振りほどくことができたと思われるが、優しさからか、ミントは力づくで腕を振りほどくことはしなかった。


 そして残念ながら、ロブは自分が気遣われていることに気づく様子はない。


「おいおい、ごめんじゃないんだよ。お前はメイドで俺は貴族だぞ?メイド冒険者だろうがメイドは貴族に従うものだろうが。それをなんだお前は、調子に乗ってるのか?」


 ロブは激昂し、ミントの腕を掴む力を強める。


 それを見て夢子は顔をしかめた。


(さすがにこれ以上は見過ごせない。)


 夢子はこのまま2人を見ていても状況が収まることはないと判断した。そして、ロブを刺激しないように声色に気をつけながら、


「まぁまぁ、ロブさん。女の子を無理矢理誘うのは嫌がられますし、少し落ち着いてください。」


 と言いつつ、ミントの腕をつかむロブの腕に手を添えた。


 だが、ロブは夢子の声を無視してミントから目を離さず、腕も掴んだままだった。


「夢子さん。」


 ミントは夢子に心配するような目線を送る。その目は自分の身を心配しているのではなく、夢子の身を案じているようだった。


 夢子は心配そうなミントと視線を合わせ、「自分は大丈夫だ。」と念を送る。(その意思が伝わったかはわからなかったが。)


「ちっ」


 ミントがロブから視線を外したのが癪にさわったのか、ロブは舌打ちをした。


 そしてロブはゆっくりと夢子に顔を向ける。


 その顔はミントに向けていたような怒りの表情ではなく、何か、獲物をしとめようとするような冷酷な表情をしていた。


 その顔を見て夢子は、(説得に失敗したか?)と心の中で冷や汗をかく。


 だが、意外にもロブは大人しくミントを掴んでいた手を離した。


 その意外な行動に夢子は驚きつつ、大人しく手を離してくれたことに安堵して気を抜いてしまった。


 そして夢子が気が付いたとき、夢子の顔の前にはロブの手の平がかざされていた。


 ドン


 衝撃音と共に夢子の顔が跳ね上がった。


(!?なに?なにか大きなモノが顔に当たって来た!?)


 夢子は突然顔に強い衝撃を受けて混乱する。


 夢子を襲った衝撃、それはロブが手のひらから放った魔法の弾丸によるものだった。


 ロブは、通常魔物と戦うときに使われる魔法弾を、無防備な夢子の顔に放ったのだ。


 威力は抑えられていたようだが、魔法弾を受けた夢子の体勢は大きく崩れ、夢子は床に倒れこんだ。


「夢子さん!」


 ミントが悲鳴を上げて夢子に近づくが、夢子は顔の衝撃と倒れたときの衝撃で眩暈を起こしており、ミントが近づいて来る様子をスローモーションの映像のように見ていたのだった。


 そして、


 これを発端にロブと夢子の決闘が始まることになる。

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