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こぶりん

『9月3日。皆が僕を避けている理由が分かった。凛花に見せてもらって初めて知った、クラスの中で唯一僕だけが受け取っていないメール。それは信楽が僕以外のクラスメイトに一斉送信したものだった。内容は【新田竜也は犯罪者】とだけ書かれた文字と、一枚の添付された写真。写真に写っていたのは僕の後ろ姿と、ーーー僕のそばで手脚を縛られ拘束されている、勝太郎の彼女、鈴宮玲子だった。これじゃまるで僕が鈴宮さんを襲ったみたいじゃないか』



「ねえリンカ、どうなってんのこれ?」

「知らないよ。私にわかるわけないでしょ」


あれから一夜が明けた。

あの後リンカは、昼間の疲れからか自分の部屋に戻る気力もなく、椅子に座ったままぐったりと眠ってしまっていた。

起こしてベッドまで連れて行くべきだったのだろうが、僕も疲れが限界に達しており、気がつけば深い眠りについていた。…ここまではいい。

事件はその直後に起きたようだ。

「ふぁ〜。いい朝だねえ」

などと欠伸をしながら呑気に目を覚ます僕。…だがその直後、周りを見渡した僕はそのまま口をぽかんと開けたまま固まった。

「…うっう〜ん」

僕とは対照的に、目覚めが悪そうなリンカ。…彼女もまた、周りを見渡し、口をぽかんと開けて固まった。

無理もない。

昨日は…というか眠りに入る直前までは綺麗だった僕達の部屋が、一夜にしてぐっちゃぐちゃになっていたのだから。


なんなんだこれは!

寝起きで本調子でない頭を働かせて考える。

僕達が寝てる間に泥棒でも入ったのだろうか。

…いや、だとすれば大胆すぎるだろう。

タンスや机が壁際に吹っ飛んでいるのだ。もっと言えば、僕達も昨日眠りについたはずの場所から随分違う場所へと吹き飛ばされている。そこまで無駄に荒々しい泥棒がいるだろうか?


…そもそも


僕は再び、荒らされまくったこの部屋を見渡す。

「こんなに派手に荒らされて、なんで気づかないんだよ!」

これほど大胆な犯行にも関わらず、僕達二人とも一切気付くことなく爆睡していたわけだ。

「なんで私だけに言うのよ。どうせ君だって呑気な顔で眠り続けてたんでしょ」

ごもっともだ。

しばらくの間、こんな不毛なやり取りを繰り返す。

…どうやらリンカはもう大丈夫みたいだ。

言い合いになりながらも、いつも通りの毒のある彼女の様子を見て僕は少し安心した。


その後、一通りやり取りを終えた僕とリンカは、これを誰がやったのか手掛かりはないかを探るため、部屋の中を一緒に調べるということで和解に達した。

吹っ飛んだタンスや掛け布団を二人で慎重に調べる。と同時に僕はこれらの吹き飛び方を見て一つあることに気づいた。

「この布団や鞄、それにタンスも。全部「こぶりん」を中心に吹き飛んでる…」

昨日僕の提案で、この子ゴブリンの名は「こぶりん」に決まったわけだが、今はそれどこではない。

「…ほんとね」

「まさかこれお前がやったのかい?こぶりん」

僕とリンカの視線を受けるこぶりん。

だが、今もすやすやと気持ちよさそうに眠るこの小さな子に、ここまでの事が出来るわけがない。

「いやたまたまだよね。この子にそんなことできるわけないし…」

そう言いつつも、僕は一応こぶりんに向けてサーチを行ってみた。

すぐさまこぶりんの詳細データが解析され、ホログラムウインドウに結果が表示される。

「…リンカ。これを見て」

表示されたサーチの結果。それは、この状況を作ったのがこの子であると確信させるに十分値するものであった。

「何かわかったの?」

食い気味になって、リンカは僕の前に表示されているホログラムウインドウを覗き込む。

「種別ゴブリン。職…えっ職!?」

リンカが驚くのも無理はない。

本来人間以外の生き物に職は与えられない、そうマルコ達は言っていた。

だがどういうわけか、ゴブリン種であるはずのこぶりんに職が与えられているのだ。

「職は…調停者(メディエイター)?どういうこと?」

リンカは訳が分からないといった様子で首を横に小さくふる。

「それだけじゃないよリンカ。これを見て」

そう言って僕が指差したのはレベル欄だ。

「レベル…99!?」

レベル99、すなわちレベルMAX。

どういう訳かわからないが、この子は僕達と同程度、そして生物として最大クラスの量のプルウィスを受け取ることができるみたいだ。

プルウィスを大量に取り込むことができるわけなのだから、こんなふうに部屋をめちゃくちゃにするくらいの力を持っていたとしても不思議ではない。

「この子がそんな力を…」

「どうする、リンカ?」

そう言って、僕はこの部屋をむちゃくちゃにした張本人であるこぶりんの方をちらっと見る。

「…っダメよ!?私はこの子を育てるって決めたんだから!君も賛成してくれたじゃない!」

僕がこの子を置いていくとでも言うと思ったのだろうか。リンカはこぶりんを強く抱きしめ、必死の形相で僕を睨みつける。

「わかってるよ。そうじゃなくてまた同じことにならないように対策を考えないとってことだよ」

僕の言葉を聞いて安心したのか、リンカはホッと肩をなでおろした。

「とにかく、原因を調べないと。何でこんなことになったのか」

「そうね。じゃあ今夜は私が一晩つきっきりでこの子を観察するわ。それでいいでしょ?」

「僕も一緒に観るよ。僕だってこの子の親がわりなんだから」

「…そう。じゃあ今日は三人で野宿ね」

そう言って、リンカはぐっちゃぐちゃの部屋を見渡す。

「…まずは片付けだね」

「…ええ。宿の人が来る前に終わらせましょう」

ハァとため息を漏らしながら、僕たちはまずは散らかった布団をベットに戻す作業から、片付け作業を開始した。

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