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ホームレス少女  作者: Rewrite
花里桜編
95/234

25話

「……っと。これくらいかな」

「……なるほどね庶民の遊び方は深いわ……」

「そ、そんなことはないと思うけど……」


 とりあえず、こんな遊びがあるよ。ということを教えてあげたかったので大まかに普段僕らが遊ぶようなことを教えてあげたのだが、奏ちゃんにとっては、未知の世界の出来事のようなものだったようで、一つ一つ、遊び方を教えてあげるたびに様々な驚きの表情を見せてくれた。


「それじゃあまずは水かけっこってやつをやるわよ。なんか一番簡単そうだったし」

「そうだね。道具もいらないし、そうしようか」


 最初は水かけっこに決まった。

 僕は手本というわけではないけど、早速始めようと水の中に両手を沈め、水を集めてから奏ちゃんに向かって腕を振り上げた。

 もちろん水の量は少量に調節してある。

 これなら目に入っても特に危険はないはずだ。


「えーいっ」

「……」


 水を掛けた瞬間、奏ちゃんの顔が一気に強張った。

 すごい怖い。

 もちろん、水かけっこのことはちゃんと説明した。

 相手に水を掛けて遊ぶ簡単な遊びだと説明をした。

 奏ちゃんも頷いていたので、適当に頷いたのでなければちゃんと理解していたはずである。


「……佐渡……いい度胸じゃない。まさかこの私、天王寺奏に喧嘩を売ってくるなんて本当にいい度胸だわ」

「ま、待ってっ。違う。喧嘩を売ったわけじゃなくて、さっき言ったようにこういう風にして遊ぶやり方なんだよ」

「問答無用っ!!」


 奏ちゃんが全身をフルに使って僕の顔目掛けで水を掛けてくる。

 しかし、奏ちゃんは小柄なため、僕より手が小さい。

 僕がさっき量を調節した量よりも一発の攻撃が少なめなくらいだ。

 正直、勢いよりは水は飛んできていない。


「キィィィィィっ! なによ余裕ぶっちゃって。もういいわ安藤っ」


 予想以上に僕に自分の攻撃が聞いていなかった奏ちゃんがお助けキャラと言わんばかりに安藤さんの名前を呼んだ。

 しかし、安藤さんは荷物番のため、ここから大分離れたところにいる。

 さすがに声は届かない―――


「はいお嬢様」


 ことはなかったようです。

 まるですぐそこにいました、というくらいの速さで安藤さんが奏ちゃんのすぐ横に立っていた。


「武器をよこしなさい」

「……これを」

「ありがとう安藤。なかなかのものじゃない」

「お気に召したようで何よりです」


 奏ちゃんは安藤さんから水鉄砲を貰っていた。

 しかし、大きさが普通の物と全然違う。

 お店で売られているようなおもちゃとは比にならないくらい大きいし、すごそうだ。

 こんなところでまで天王寺家の力は及んでいるようだ。

 天王寺家すごすぎ。


「……奏ちゃん。やめよ。それは本当にやめよ。あぶないよ……」


 僕はさすがに怖くなって命乞いのような行動を取る。

 情けないと言われようとあれは怖い。

 天王寺家の技術が詰まった本格的な水鉄砲。怖くないはずがない。


「何言ってるの佐渡。水かけっこはこれからでしょ。こ・れ・か・ら」

「笑えてない。笑えてないよ奏ちゃんっ」

「くらえぇぇぇぇぇぇっ!!」

「ぎゃああああああああーーーっ!!」


 奏ちゃんの持つ水鉄砲から、おもちゃの水鉄砲とは比較にならない威力の水か発射された。

 僕はそれを顔面で受け止める。


「ぶくくくく。奏ぢゃん。も……もうやめ……」


 威力どころか一発の量も凄まじく多く、呼吸すらまともにできない。

 これはちょっとした殺人兵器だ。

 もしかしたら将来、水鉄砲で人が死ぬこともあるかもしれない。

 ……いや、さすがにそれはないかな?

 というかもうそろそろ止めてもらわないと本気で呼吸が―――


「佐渡っ。これが水かけっこなのねっ! 楽しいっ。楽しいわっ。さっきは少しイラっとしたけど、こんなに楽しい遊びを教えたお礼に今回はこれで許してあげる」


 喜んでくれるのはうれしいんだけど、許してくれるならもうそろそろ止めてください。

 僕が心の中で切に願いながらどうにか顔を背け、酸素を得ることができた。

 そして少しすると奏ちゃんからの攻撃が止んだ。


「佐渡。もう一回やりましょうっ。今度は二丁で撃ちたいの」

「いやっ。もうやめよう奏ちゃんっ。他の遊びもやってみよ? お願いだからっ」

「んー。そうね。たしかに他の遊びも気になるわ。水かけっこがこんなに楽しいんだもの。他の遊びも楽しいはずだわ」


 どうにか水かけっこの延長は回避できたけど、この後も大変なのは変わりないようです。




「みんなーっ。そろそろあがりなさーい。帰るわよーっ」


 間宮さんの号令でみんなパラソルの方に集まってくる。

 ちなみに僕はさっき奏ちゃんとの遊びで遊び疲れてこちらに一足早く戻ってきていた。

 奏ちゃんも途中から彼方ちゃんたちに誘われてそちらの方に行っていたようだ。

 桜ちゃんがいるから大丈夫か心配だったけど、どうやら彼方ちゃんと間宮さんが上手く緩衝材代わりになってくれたようで、上手くことが進んだようだ。

 この調子なら、本当に二人の中が戻るのは近いかもしれない。




 そして時間は過ぎていき、気が付けば夜になっていた。

 夕食も取り終わり(作ったのは僕と安藤さん。他のみんなには休んでもらった)、みんな各自自分の部屋に戻っているはずだ。

 もうそろそろ、僕も行動は始めるべき時間である。

 時刻は9時、もうそろそろ来てくれすはずである。


 トントン


 僕らの部屋の扉がノックされた。


「ん? 誰ですかね? 私たちのラブラブな時間を邪魔する人は」

「……ラブラブなんかしてないよね?」

「ならイチャイチャです」

「……うん。……ラブラブよりはまだいいかも」

「えーっ。酷いですよー佐渡さーん」

「……ははは」


 変な感じを出さない様にできるだけ短いやり取りで桜ちゃんとの会話を終える。

 そして、扉の前で待っているであろう人をこれ以上待たせるもの申し訳ないので、僕は扉を開けるべく、扉へ向かう。


「はーい。どちらさまですかー」


 ここにいるのは翔君たちだけなのにいつものくせで少し他人行儀に返事をしながら扉を開けた。

 桜ちゃんも誰なのか気になったのか、僕の背中越しに扉の方に来ていた。


「こんな時間に申し訳ありません佐渡様。……少し桜と話す時間をもらえないでしょうか?」

「……そうですか。なら僕は出ていきますね。その方がいいでしょうし」

「申し訳ありません」

「いえいえ」


 そして僕は話しの内容が聞こえていたであろう桜ちゃんに「それじゃあ少し出てくるよ」と、一言残して扉を出た。

 その時の桜ちゃんの顔は一人でされて不安な子供のような表情で、とても心が痛んだ。

 この状況だ。きっと天王寺家の話をされると桜ちゃんも悟ったのだろう。

 でも、今回は許してほしい。絶対に二人の中を元通りに戻すにはみんなの協力が必要なはずなんだ。

 その場で少し深呼吸をして、まずは同じ二階の部屋を使っている彼方ちゃんと間宮さんの部屋へと向かった。

 部屋の前まで来て、三回ノックをする。

 さすがに僕も女の子の部屋にノックもなしで入る勇気はない。


「誰かしらね」

「そうですね。奏ちゃんたちでしょうか。とりあえず出てみますね」


 小さいながらも中から二人の声が聞こえてくる。

 どうやら部屋にいてくれたみたいだ。

 出かけているとは思っていなかったが、少し外を散歩くらいならありえたので、内心ドキドキだった。


「はーい。ちょっと待ってくださいねー」


 彼方ちゃんの声がしてすぐに扉が開けられる。


「こんばんわー。ちょっといいかな?」

「さ、佐渡さんっ。はいっ。……ちょっとなんて言わずにずっといてくれても……」

「ごめんね。ちょっと最後の方が聞こえなかったんだけど……」

「いえいえっ。気にしないでください。それよりどうぞ」

「あー。うん。ありがと」


 部屋への入室許可を得て、部屋の中に入れてもらう。

 僕らの部屋とは少し家具の配置や間取りが違うだけで、その他は僕らの部屋と全く同じ部屋だ。


「なーんだ佐渡だったの。どうしたのよ」

「……うん。その……大切な話があるんだ……」

「大切な話ですか?」

「いいわよ。最初から話して」

「うん」


 彼方ちゃんが頭に?を浮かべている中、間宮さんはまるで僕が話す内容がわかっているんじゃないかと疑いたくなるくらいに冷静に答えた。

 顔も僕が部屋に入ってきたときのプライベートの顔ではなく、真剣そのものだ。

 その方が僕も有難い。


「―――というわけなんだ」


 奏ちゃんの家に呼ばれた時から今ここに至る経緯をできるだけ簡潔に間宮さんと彼方ちゃんに伝える。

 二人は話すのが下手な僕の話を真剣に聞いてくれて、説明不足な所もあったはずなのに何一つ言うことなく、最後まで話を聞いてくれた。


「……ふーん。『遊び相手』ねー。なんて残酷なことを考えるのかしらね。正直、聞いてて腹が立って仕方がなかったわ」

「僕もだよ。奏ちゃんも奏ちゃんのお父さんもそんなの関係ないって言ってくれてるけど、他にも桜ちゃんと奏ちゃんみたいな子がいると思うと、居たたまれないよ」

「……そうですね。私もです。私は二人と仲良くなれたのに、二人が仲良くしちゃいけないなんてないですよ」

「うん。僕もそう思う。だから二人にも協力してほしいんだ」

「もちろんよ。任せておきなさい。なんならそんな制度ごとぶち壊してあげるわ」

「私もです。そんな制度認めたくありません。私はみんなで笑いたいんです。だからあの二人にも心から笑ってほしいです」


 最初から断られるとは思ってなかったけど、こんなに二人が親身になってくれてうれしかった。

 僕自身のことじゃないのに自分のことの様に嬉かった。

 少しでも気を緩めたら涙が出てきそうだ。


「それで、私たちはどうしたらいいの? さっきの佐渡の話だとこの計画中にすべてを終わらせるつもりなのよね。算段はあるの?」

「うん。珍しいことに今回は少し僕なりに考えてみたんだ。これを見てくれるかな」


 そう言って僕はポケットにしまっておいた一枚のチラシを取り出す。


「……お祭りですか?」


 そう。僕が取り出したのはこの近くで行われるというお祭りだ。

 夏だからなのかこの時期はお祭りが多い、それはこの辺りの地域でも同じらしく、ここから歩いて30分ほどの場所にある神社で明日お祭りがあるらしい。

 規模もここに書いてある限りでは結構大きいらしく、毎年の恒例行事なのだそうだ。


「へえー。佐渡にしては手際がいいわね。こんなものまで用意してるだなんて驚いたわ」

「あはは。それなんだけど、これは安藤さんが教えてくれたんだ」

「なるほどね。納得がいったわ。安藤さんならこのくらい息をするのと変わらないでやりそうだもの」


 流石にそこまでは、と口を開きかけたところで安藤さんならそれくらいの感覚でやっているかもしれないと思って、口を閉じた。


「それじゃあ佐渡さんはこのお祭りの途中で奏ちゃんと花里さんの二人の中を『遊び相手』以前に戻すおつもりなんですね」

「うん。早く元も関係に戻してあげたいんだ。……僕はどんなに奏ちゃんが悲しんでいるのかを知ってるし、それになにより……」


 僕は言葉に気持ちをこめて―――


「桜ちゃんがどんなに頑張ってきたのかを、どんなに自分を押し殺してきたのかを知っているから……だから桜ちゃんにもう我慢しなくていいんだってことを早く教えてあげたいんだ」


「ふふふ。さすが佐渡ね。私なんて制度のことしか考えられなかったけど、やっぱり佐渡は制度なんかよりあの二人の方が心配のなのね」

「そうですね。佐渡さんらしいです。私の時も、この前の奏ちゃんの時もそうでしたけど、いつも周りの人のことばっかり気にして、すごいです」

「そ、そんなことないよ。僕はただ自分のしたいことをしてるだけでっ」

「それがすごいって私たちは言ってるのよ。普通の人はそんなことできない。自分を押し殺して、我慢して、見て見ぬふりをして、諦めるの」

「でも佐渡さんは決して諦めない。みんなが投げ出したものを全部拾って、ちゃんと直して返してくれる」

「そんな佐渡さんがすごいんです」


 すごい真剣な顔でそんな恥ずかしいことを言われた僕は―――


「……ごめんね。この後翔君たちのところにも行かなきゃだから、もう行くねっ!」


 もちろん逃げ出した。

 だってあのまま部屋に居たら僕はきっと沸騰して死んでしまう。

 今だって、夏だということを覗いてもおかしいくらいに顔が熱い。全身が熱い。

 そして―――心はあったかい。


 間宮さんたちの部屋を出た僕は火照っている体を少し外でクールダウンさせてから一階の翔君たちの部屋に向かう。

 男子の部屋だからと言ってプライベートの空間にいきなり入るのは躊躇われ、ノックをする。

 すると中から翔君の声がした。


「おーう。誰だか知らねえけど空いてるぜ。勝手に開けてくれよ」


 勝手に入っていいとのことなので、僕は扉を自分の手で開ける。


「なんだ誠也か。どした? 桜ちゃんとなんかあったか」

「……違うな。きっと隊長は闇の気配を感じて我を呼びに来たのだ。そうだろ隊長っ」

「……ごめん広志くん。……そんな気配僕には感じないや……」

「「「……」」」


 黙り込む僕ら三人。

 今は間宮さんがいないからこの状況を収集できる人がいない。

 どうしよう。


「まあ、あれだ広志……ドンマイだ。それで誠也どうしたんだよ。なんかあったんじゃないのか?」

「あーうん。二人に大事な話があるんだ―――」


 それから僕は間宮さんたちにした話をもう一度翔君たちに話した。

 僕の説明が下手なことから途中に何度か質問があったけど、どうにか最終的には二人にも大まかな内容が理解してもらえた。

 二人は間宮さんたちと同じく、親身の僕の話を聞いてくれて嬉しかったし、頼もしかった。


「それで明日のお祭りで決着をつけるんだな」


 翔くんが確認するように僕に問う。


「うん。このお祭りの間にどうにか奏ちゃんと桜ちゃんを二人っきりにして、なんとかして仲直りしてもらうつもりだよ」


 僕は覚悟を持って頷いた。


「でも隊長よ。今の話を聞いていると『どうにかして』や『なんとかして』と言っておりますが、そんなあやふやな作戦で大丈夫なのでありますか?」


 広志くんが意見を言ってくれた。

 確かに今の僕の作戦はあやふやな言葉を使って作戦を成功させると言ってはいるものの、そんなあやふやな言葉では信憑性に欠ける。

 広志くんの言うことはもっともだ。


「うん。確かに信憑性に欠けると思う。でも、僕はもう辛そうな二人を見ていたくない。だから僕も少し無茶をしてでもこの件を解決しようと思うんだ」

「なあ広志。誠也がここまで言うんだ。任せてみようぜ。それに今までだって誠也に任せてダメだったことなんかねえんだ。今回だって大丈夫さ。なっ! 誠也!」

「……うんもちろんっ!!」

「すまなかった隊長。私も作戦を否定したかったわけではないのだ。でも、失敗の可能性を減らすのには確かに必要だったのだ。許してくれ」


 広志くんがいつになく、真剣な顔つきで頭を下げた。

 僕だって最初から広志君が協力してくれないなんて思っていない。

 作戦を否定してるだなんて思っていない。

 ちゃんと僕のことを心配してのことだってわかってる。

 だから僕は―――


「―――いいんだよ広志くん。言ってもらえることは言ってもらった方が僕も嬉しい」

「……隊長」

「おーしっ。団結力も深まったところで作戦をもっとまとめようぜっ。俺バカだから忘れちまうから簡単に頼むぜっ」

「うんっ!」


 こうして奏ちゃん桜ちゃん仲直り作戦にみんなの加入が決まった。


次回から本格的なクライマックスです。

シリアス展開が入ってきます。それなりなギャグ要素も入ってはおりますが、基本はシリアスです。

どうか最後までお付き合いください。

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