23話
海の方に向かうと、そこには彼方ちゃんと桜ちゃんが二人で楽しそうに水を掛けあいっこしていた。
話を聞くところどうやら高校一年生の同い年みたいだし、今まであんまりゆっくり話している機会がなかったから仲良くなれてなかっただけで、話してみたら話があったのかもしれない。
とても微笑ましい光景だ。
本当なら一緒に遊ばせてもらいたいところだけど、女の子同士楽しく遊んでいるところに男の僕が水を差すのはよくないだろう。
そう思って僕は少し遠くまで泳いで行った翔君の姿を探してみる。
「あれー? 翔くんどこまで行ったのかな? 全然姿が見えないや」
辺りを見回してみても、翔君の姿が全然見えない。
翔くんのことだから大丈夫だとは思うけど、少し心配だ。
でも、翔君が見当たらない今、僕に海での遊び相手はいない。
砂浜に戻ろうかな
「さわたりさーんっ!! こっちで一緒に遊びましょうよーっ!!」
砂浜に戻ろうとしているところで桜ちゃんに声を掛けられた。
桜ちゃんたちの方を振り向くと、二人がこっちの方に向かってくる。
「ほら水無月さんっ。ちゃんと自分で言わないと」
「えっ!? は、はいっ! あの、佐渡さんっ!!」
「は、はいっ!」
彼方ちゃんの大きな声に少し驚いて自分も大きい声で返事をする僕。
「い……一緒に遊びません……か?」
「もちろん。でも、いいの? せっかく桜ちゃんと女の子通しで楽しく遊んでたのに……」
「もちろんです」
「そうですよ佐渡さん。それにさっきから水無月さんたら、佐渡さんがこっちに来ないかずっと気にして……」
「わーっ!! 何でもないですっ。なんでもないですよ佐渡さんっ」
すごい剣幕で桜ちゃんの口元を抑える彼方ちゃん。
桜ちゃんは何を言おうとしたんだろう?
「それより佐渡さん一緒に遊びましょうっ! そうしましょうっ」
「そう? それならお言葉に甘えて」
彼方ちゃんと桜ちゃんの優しさで僕も二人に混ぜてもらえることになった。
「それにしても彼方ちゃんとこうしてゆっくり話すのも久しぶりだね」
「そうですね。最近はお互いテスト前だったり予定が合わなかったりしてなかなか会えませんでしたもんね。その後も学校が夏休みになってしまいましたから会えませんでしたもんね」
僕達はここ最近会えていなかった。
今彼方ちゃんが言ったように夏休み前のテストだったり、お互いの個人的な用事だったり、全然会えていなかった。
夏休みに入ってからは学校が夏休みで唯一会えていた登校時間もなくなり、僕の方も桜ちゃんの問題があったので、ほとんど話していなかった。
たぶん最後に会ったのはこの海に行こう計画を知らせた時だろう。あの時だって時間合わせぐらいでゆっくりと話したわけではない。
ゆっくりと話したのは本当に久しぶりだ。
せっかくの海だけど、このままゆったり波に打たれながら話すのも良いかもしれない。
「佐渡さーん。お話も良いですけどー。なにかしましょうよー」
僕達が話ばかりしていて痺れを切らしたのか桜ちゃんが駄々をこねてきた。
それも……体を密着させながら―――
「っ!? わかったからそのー……離れてくれる?」
「えー? なんでですかー?」
「いや。……そのはずかしいからさ」
「いいじゃないですか。こんなに可愛い女の子に水着姿で抱き着かれるなんて普通の男性なら大喜びですよ」
「それはそうなんだろうけどね。たぶん他の男の人だって恥ずかしいものは恥ずかしいと思うよ」
未だに離れてくれない桜ちゃん。
本当にコミュニケーションが好きというか、触れ合うのが好きな女の子だ。
それだけ信頼されてて嬉しいことこの上ないけど、やっぱり恥ずかしい。
「んー。そうなんですかねー? んっ? 水無月さんも一緒にどうですか?」
「「えっ!?」」
二人して驚く僕と彼方ちゃん。
「だってさっきから羨ましそうに見てましたし、それなら一緒にどうかなーって思いまして」
「で、でも恥ずかしいし、佐渡さんに迷惑ですし……」
顔を真っ赤にしながら桜ちゃんの誘いをやんわり断る彼方ちゃん。
でも、そんな顔をされると―――
「佐渡さんはいいですよねー?」
桜ちゃんの言うとおり断れない僕である。
「……うん。少しぐらいなら……」
「ほらっ。水無月さんっ。佐渡さんも良いって言ってますよ。一緒に佐渡さんに抱き着きましょうっ」
そう言って一旦僕から離れて彼方ちゃんの方へ行く桜ちゃん。
そのまま彼方ちゃんの背中を押して彼方ちゃんと僕との距離を埋める。
もうほとんど密着しているくらいのところまで彼方ちゃんを連れてくると桜ちゃんは背中を押すのをやめた。
「ほら、最後の一歩は自分で、ですよ」
いきなりお母さんがいなくなってしまった子供のような顔をしながら僕の方を見つめる彼方ちゃん。
気のせいだろうか、ほんのり頬が赤く見える。
というか僕も顔がやたらと熱い。
「……す、少しだけいいでしょうか佐渡さん……?」
「……う、うん。少しだけなら……」
「そ、それじゃあ失礼します……」
そう言って彼方ちゃんはゆっくりとその体を僕に密着させた。
桜ちゃんとは違う女の子らしい柔らかさが僕の右半身を包み込む。
「それじゃあわたしもっ」
今度は反対側から桜ちゃんが再び左腕に密着してくる。
「どうです佐渡さん、かわいい女の子二人両方から抱き着かれる感想は」
「どうって……」
そんなの考えられないくらい僕の頭は混乱している。
倒れないのが不思議なくらいだ。
さっき以上に顔が熱いし、両方の体になにか柔らかいものが当たってるし。
あれ、意識が遠く―――
「あれ? 佐渡さんっ! 佐渡さんっ。ちょっ。水無月さん安藤さんを呼んできてくださいっ。ちょっと佐渡さーんっ」
僕が最後に聞いたのはそんな桜ちゃんの叫び声だった。




