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ホームレス少女  作者: Rewrite
花里桜編
85/234

15話

活動報告通り、連日投稿です。

一応、毎日投稿は三日から一週間くらいを考えています。

 

「それでは歩きながら案内するであります」


 という広志君の申し出により、僕らは歩きながらメイド喫茶のことを教えてもらうことになった。


「そういえば桜ちゃん。さっきはすごかったね」

「さっきですか?」


 何の事だかわからないというように首を傾げる桜ちゃん。


「さっきの広志くんへのお願いのことだよ。桜ちゃんあんな声も出たんだね。なんだか、桜ちゃんの新しい一面を知ったような気がするよ」

「あー。さっきのですか。あんなこと滅多にしませんよ」

「そうなの?」


 それはあんなことをやたらとやっているのもどうかと思うけど、なんか経験豊富そうだった気がする。


「今回は私のメイドのスキルアップにつながるかもしれませんからね。ある程度のことならしますっ。例えそれが悪いことでもっ」


 今から意気込んでいる桜ちゃん。

 本当にメイドの仕事が好きなんだなー。

 最後の方は聞かなかったことにしよう。


「それよりもすいません佐渡さん」

「えっ? 何が?」


 いきなりの桜ちゃんの謝罪に何を謝られているのかわからない僕。


「だって、結果的には私は佐渡さんの大切なお友達を騙したみたいなものですので、謝っておこうと思いまして」


 本当に申し訳なさそうな顔をしている桜ちゃん。

 でも、そんなこと心配なんてしなくていいのに。


「大丈夫だよ桜ちゃん」

「なにがですか?」

「たぶん、広志くんあんなこと言ってたけど最終的には詳しく説明してくれてたと思うよ」

「えーっ。 そうですかね?」


 少し信じられないという顔の桜ちゃん。


「うん。みんななんだかんだ言うけど優しいんだ。広志くんだけじゃなくて翔君も、間宮さんもさ」

「確かにこの前九重さんは窓を割って屋敷に侵入したときに綺麗に窓を割って私たちが怪我しない様にしてくれました。間宮さんも私たちのために作戦を立ててくれましたし、山中さんもわざわざ友達を呼んで助けてくれました」

「でしょ? みんな口には出さないだけでホントは優しいんだよ。もちろん桜ちゃんや奏ちゃんもね」

「たしかにそうですね。言われてみると確かに山中さんもなんだかんだ言いながら案内してくれたような気がします。だって佐渡さんの友達ですもんね」


 桜ちゃんはそう言って笑った。

 元気に笑った。


「そうか。それはよかったよ」


 僕も自然と笑顔がこぼれた。

 誰かが笑顔になればみんなが笑顔になる。

 僕はそう信じてる。だから―――

 桜ちゃんと奏ちゃんが本当の笑顔で笑える日が来るのを僕は信じてる。



「さてと、この辺りでよいでありますかな」


 少し歩いて広志君が立ち止って僕らの方に振り返った。


「どこに入るかを決める前にどういうものが見たいのか教えてもらえるでありますか? 流石になんの理由もなく、探すのは私でも困難であります」

「なるほど、どう桜ちゃん」


 今回の件の主役は僕ではなく、桜ちゃんだ。

 あくまで僕はサポーター。お手伝いはするけど、それ以外はできない。


「でも、私もそう言われてもどういうメイド喫茶があるのかわからないんですよ。ツンデレって言葉は知ってますけど、ツンデレのメイドって何? って感じですし、他はもうさっぱりで」


 確かに僕達には知識がない。

 元はと言えばだから広志君を呼んだわけだしね。


「なるほど、では私がそれっぽい説明をするでありますよ」


 そう言って広志君は少し考えるようなしぐさをした後話し始めた。


「まず、ツンデレ喫茶とはまあ、天王寺さんがそれにあたるでありますね。天王寺さんがメイドをしている感じであります」


 広志くんに言われて、奏ちゃんがメイドをしている姿を想像して見たけど、すごい怖いイメージが出来上がった。

 運んでいる料理を落とす、皿を割る、お客さんをお客さんと扱わなそうな対応。奏ちゃんには悪いけど、とても接客業には向いてなさそうだ。


「……お嬢様すいません……私にはお嬢様がメイドをしている想像ができません」


 桜ちゃんが空想の中の奏ちゃんに謝っていた。

 大丈夫だよ桜ちゃん。僕も想像できないんだ。

 そしてごめん奏ちゃん。


「次にヤンデレでありますが、これはそれにあたる人物がいないでありますなー。簡単に言うと私の料理以外食べちゃダメとか、私以外の人を見ないでと言った感じでありますかな」


 僕達にもわかりやすいように言葉を選んで説明をしてくれている広志くん。

 でも、僕にはさっぱりどういうことなのかわからなかった。

 ちょっとしたDVドメスティックバイオレンスに聞こえるくらいだ。


「なんだかDVみたいですね」


 桜ちゃんもどうやら僕と同じところに行きついたらしい。


「うむ。まあ、あながち間違ってないでありますよ。とりあえずはそういう認識でいいであります」

「それじゃあ妹系っていうのは? メイドさんが妹なの?」

「流石隊長っ。正解でありますよ。メイドさんが妹のように接してくれるでありますよ。普通のメイド喫茶がご主人様呼びなら、妹系喫茶はお兄ちゃんと呼ばれるであります」


 どうやらこちらの予想は大まかではあるもののあっていたらしい。


「どうする桜ちゃん」

「んー。やっぱり話を聞いてもよくわからないですし、普通のメイド喫茶に行くのがいいと思います」

「そうだね、下手に変な所に行くよりいいと思うよ」

「じゃあ普通のメイド喫茶でいいでありますか?」

「うん。お願い広志くん」

「お願いしますね。山中さんっ」

「まかされたっ」


 それから少し歩き、広志くんおすすめという普通のメイド喫茶の前までやってきた。


「ここが広志君のおすすめのメイド喫茶?」

「そうであります。メイドさんの対応が丁寧で、心が癒される……いや、浄化されるといってもいいでありますな」

「それはすごいですね。ここなら私も何か学べそうですっ」


 僕は広志君の話を聞いてからざっと目の前のメイド喫茶を眺める。

 外観は特に変哲もない喫茶店だ。ただ看板がメイド喫茶と書かれているだけで特に派手ということもなく、それでいて地味というわけでもない、広志君の言うとおり、心が落ち着きそうな雰囲気を感じる外観だ。

 他のメイド喫茶はネオンで看板を彩ったり、お店をカラフルにしたりして派手にしているのに、この店はそういうことはしていないようだ。


「それじゃあ中に入るでありますよ」


 なんとなく入りずらい感じだった僕らを導くように先導して広志君が扉を開けてくれた。


「「「おかえりなさいませご主人様っ!! お嬢様っ!!」」」


 中に一歩足を踏み入れるなり、中にいたメイドさんたち全員が一斉にこちらを向いてそう言った。

 奏ちゃん家を思わせる感じだった。


「えっと……ただいまです」


 おかえりと言われると反射的にただいまと言ってしまう僕。

 ただし、恥ずかしいので声は小さい。


「すごいっ。挨拶は完璧ですね。ご主人様への忠誠が感じられます」


 僕はすでにこの雰囲気に驚いているというのに桜ちゃんはもう観察を開始していた。

 でも、本職メイドの桜ちゃんが褒めているということはもしかしたらこのお店はすごいところなのかもしれない。

 そんなことを考えているとすぐに一人のメイドさんがこちらへやってきた。


「三名様ですね。あちらの席でよろしいでしょうか?」

「うむ。案内を頼む」

「はーいっ」


 この店に入ってから広志君の態度が変わった気がする。

 なんというか気が緩んでいるというか、そんな感じだ。

 これがさっき広志君の言っていた、癒しというやつだろうか。

 正直、家事関係はなんでも自分でやりたい僕としては歯がゆい。

 メイド服は着たくないけど、何かしたい。


 メイドさんに席を案内され、僕と桜ちゃん、向かいの席に広志君という形で座る。

 席に座るなり、テーブルや、備え付けの物を見ていく桜ちゃん。


「佐渡さんっ見てくださいっ」

「どうしたの?」


 桜ちゃんが小声で呼びかけてきたので、それに合わせるように小声で返す僕。

 すると桜ちゃんは僕に向かって、綺麗な指を突き出した。


「埃です。お客さんの目に届く範囲の掃除は完璧のようですが、まだまだですね。ふふふ」


 桜ちゃん。ごめん、なんだかごしゅうとめさんみたいだよ。


「隊長。注文は決まったでありますか?」

「あ、ごめん、まだだよ、ちょっと待って」

「私も見ます」


 備え付けのメニュー表を桜ちゃんと二人で覗き込む。

 メニュー欄には「メイドさんの愛のこもったオムライス」、「ラブラブジュース」、「メイドさん特製ハンバーグ」など、すごい名前が並んでいた。


「これは……なんかすごいね」

「……さすがの私もびっくりです」


 桜ちゃんも流石に驚いていた。


「それで桜ちゃんはどうする? 僕はオムライスにしようと思うけど」


 あえて、メイドさんの愛のこもった、を省いたのは許してください。メイドさん。


「なら私はハンバーグにします。それでお願いなんですが、オムライスの半分をいただけないでしょうか? もちろんハンバーグの半分は佐渡さんに渡しますんで」

「いいけど……なんで?」

「それは味の確認ですよ。メイドたる者料理はできて当たり前ですっ」

「なるほどね。そういうことならもちろん協力させてもらうよ」

「ありがとうございます佐渡さん」

「では注文は決まったでありますな」


 僕らの会話を聞いて判断した広志君が、一応確認を取ってから、メイドさんを呼んだ。


「はーいっ。ご注文はなんでございますかご主人様」

「うむ。私はラブラブジュースと、メイドさんの愛のこもったオムライスを」

「かしこまりました。ラブラブジュースとメイドさんの愛のこもったオムライスがお一つずつですね」


 なれた様子で注文を済ます広志くん。

 愛のこもった、まで言えるのはさすがだ。


「そちらのお嬢様は」

「えーっと。メイドさん特製ハンバーグでお願いします」

「かしこまりました。メイドさん特製ハンバーグが一つですね」


 桜ちゃんもなんなく注文をこなす。


「最後にそちらのご主人様は?」

「は……ひゃいっ」


 声が裏返った。

 どれだけ緊張しているんだ僕は。

 それは普通の喫茶店とは違って、店員さんはメイドさんだし、メニュー名を少し変わってるけど、中身は普通の喫茶店じゃないか。

 深呼吸深呼吸。大丈夫できるはずだ。


「ひぇっとっ」


 今度は噛んだ。

 注文もまともにできないのか僕は。


「落ち着いてくださいご主人様、私はどこにも行きませんよ。そうかゆっくりしてください」


 優しく慰めてくれるメイドさん。


「……オムライス一つ」

「かしこまりましたっ。メイドさんの愛のこもったオムライスですね」


 ううー。

 メイドさんの笑顔が痛い。

 でも、優しいメイドさんだ。こんな僕を笑わずに待っていてくれた。


「では、確認させていただきます。ラブラブジュースお一つとメイド特製ハンバーグがお一つ、メイドさんの愛のこもったオムライスが二つ、以上でよろしかったでしょうか御主人様、お嬢様」

「うむ」

「はい」

「……はい」


 三人とも返事をした。

 もちろん最後の疲れきった返事をしたのは僕である。


「佐渡さん大丈夫ですよ。気にすることないです。ほら、落ち着いてください」


 桜ちゃんが優しい言葉を掛けてくれた。

 でも、今はその優しい言葉が辛い。


「隊長。初めてなので抵抗があるのはわかるでありますが、今からこの調子ではこの後のイベントで苦労いたしますぞ」

「イベント? この後何かあるの?」

「うむ、この後、メイド喫茶ならではのことがあるでありますよ。まあ、それはその時まで秘密ということで」


 すごい気になるけど、怖くて聞けない。

 これ以上のことって逆に何があるの?

 僕、ここを生きて帰れる?

 そんな心配ばかりが心を埋めていく。

 広志くんの話だと、癒されるとかそういう話だったはずなのに、癒されない。むしろ疲れてる。


「す、すいませんお客様っ!」


 三人で会話をしながら注文の品を待っていると、メイドさんの声が店内中に響き渡った。

 そちらの方を振り向くと、そこには注文品であろうハンバーグがお客さんのズボンの上に落ちてしまっている。

 恐らく、手を滑らせたかなんかで、落ちてしまったのだろう。

 申し訳なさそうに、涙目になりながら謝り続けるメイドさん。


「すいませんすいません。今すぐお拭きいたします。あー、でも、割れた皿はどうしよう。あとお客様のズボン汚しちゃったし。えっと、えーっと」


 どうやらそうとうパニックになっているようだ。

 他のメイドさんたちも気の毒そうにそのメイドさんを見るだけで、何もしてあげていない。

 恐らく、自分たちもどうしていいのかわからないのだろう。

 この状況をなんとかしてあげようと、立ち上がろうとしたとき、僕は気が付いた。

 僕の隣にいたはずの桜ちゃんがいないことに―――


「大変申し訳ありませんご主人様」


 静まり返った店内に一人のメイドさんの声が響いた。

 その声はとても聴きなれた声で、むしろ、ついさっきまで近くで聞いていた声。

 桜ちゃんの声だ。

 どうやって手に入れたのかここのメイド服を来て、いかにもここの従業員であるかのように現れた桜ちゃん。


「少し濡れた布巾をお持ちしました。これでお召し物をお拭きください。周りの物は私たちが対処いたします。お召し物の方はよろしければこちらで洗濯と乾燥をさせていただきますが、どうなさいますか?」

「え、いや、少し汚れただけだし、大丈夫です」

「そうですか、それでは足元失礼いたします」


 慣れた感じでお客さんに対応し、慣れた手つきで足元に落ちている料理と、割れてしまった皿を片付けていく。

 しかし、その姿もただ掃除をしている感じではなく、なんというか優雅さを感じるような。一つ一つの動作が洗礼された動きだった。

 それもここの雰囲気に合わせて笑顔でやっている。

 ここの雰囲気を壊さないために、あえて笑顔でやっているのだ。これが本物のメイドさんなのだろう。

 これは僕の出番はなさそうかな。


「布巾を回収いたしますね。他になにか必要なものはございますか?」

「い、いえ、大丈夫です」

「そうでございますか。それでは急ぎ代わりの注文の品を持ってまいりますのでもうしばらく、お待ちください」

「は、はい」


 完璧に騒動を収めた桜ちゃん。

 でも、桜ちゃんの仕事はここで終わりではないらしい。


「あなたも大丈夫? 失敗は誰にでもあるから気にすることないよ」

「は、はいっ」


 ちゃんと、失敗したメイドさんの心のケアもするようだ。

 本当に優しい子だ。

 僕なら、こんなことまで手が回らなかったろう。

 それにここまで丸く騒動を収められたとも思えない。

 本当にすごいよ桜ちゃん。


「それよりほら、ご主人様の代わりの注文を持ってこなくちゃ。ご主人様を待たせるのはダメだよ」

「は、はいっ。わかりましたっ。ありがとうございますっ」


 失敗をしてしまったメイドさんは桜ちゃんに最後にちゃんとお礼を言ってから、急いで厨房の方へとかけて行った。


「ほらっ。他のメイドさんたちも早く、他の御主人様のおもてなしに戻らないと」


 手を叩いて、注目を集めるようにしながら指示を飛ばす桜ちゃん。

 今までの静まり返った雰囲気が一瞬にして吹き飛んだ。

 その後少し、他のメイドさんたちや、ここに来ているお客さんたちが「あの子誰だろう」、「あの子すごいよね」などと囁いていた。

 しかし桜ちゃんはそれに臆することなく、スタッフルームのような部屋へと入っていった。


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