16話
「す、すごいでありますな本職のメイドさんは」
「そうだね。みんな唖然としてたよ。あんなに手際よく対処しちゃうんだもん。僕の出る幕なんてなかったや」
「やっぱり隊長も行こうとしていたでありますか」
「そりゃあね。可哀相だったし、僕が出て行ってもあんなに上手く収まらなかったよ。それに広志君も行こうとしてたでしょ?」
「それはないでありますよ。隊長は花里さんとは違う方法ではあったと思うでありますが、絶対にこの場を上手く収めていたはずであります。それに私は動けなかったでありますよ」
「ははは、かいかぶりすぎだよ。それより僕桜ちゃんが心配だから少し裏を覗いてくるよ」
「そうでありますな。あの場を収めただけでありますからお礼を言われることはあっても、怒られるということはないでありましょうが、念には念を、言った方がいいでありますな」
「うん。ごめん。少し行ってくる」
そう言って席を立ちあがった。
広志くん。君はあんなことを言っていたけど、僕はちゃんと見ていたよ。
君が
―――僕と同じタイミングで席に手を付いて、腰を少し浮かせていたのを―――
周りの人たちに怪しまれない様にこっそりとタイミングを見計らって桜ちゃんの消えて行ったスタッフルームへと侵入する。
「ねえ。どう? やってみない?」
「いやー。遠慮しておきます」
奥の部屋から桜ちゃんと、誰か男性の声が聞こえる。
荒々しい感じではないので、そうやら怒られているということではなさそうだ。
「すいませーん」
声のした部屋へと、声と共に入室する。
部屋の中には桜ちゃんと
「んー? 誰あなた? ここはスタッフ以外立ち入り禁止よ」
男の人なのに女の人の格好をした人が向かい合わせで椅子に座っていた。
「すいません。ここに知り合いに女の子が入っていったので心配で……」
「あっ。佐渡さんっ」
ようやく僕の存在に気が付いた桜ちゃん。
「すいませんさっきは。見ていられなくって」
「ううん。僕ももう少しで立ち上がってただろうし。僕はあんなに上手く状況を収められなかっただろうからありがたかったよ」
「えへへー。これが本職のメイドの実力ですよ佐渡さんっ」
自信満々に胸を張る桜ちゃん。
でも、それだけの仕事を彼女はしたのだ。
みんなを笑顔にしたのだ。
「なんだ桜ちゃんのお兄さんだったのね。私は涼。ここの店の店長よ。こんな姿だけど、心は乙女よ。んーっぱっ」
どうやらこの方は店長だったらしい。
そして涼さんは世間でいうところのオカマという存在らしい。
なぜか最後に投げキッスまでされてしまった。
反応に困る。
「あ、ご丁寧に。僕は佐渡誠也です。桜ちゃんとは……って、お、お兄さんっ!?」
ここまで来て涼さんが言ったセリフの間違いに気が付く。
早く訂正しないと。
「い、いや、僕たちは兄妹ではな―――んーーっ」
訂正をしようとしたらなぜか桜ちゃんに口をふさがれた。
口に当たってる指が柔らかいし、背中にその大きな双丘が当たってて恥ずかしいからやめて桜ちゃん。
「何言ってるのーお兄ちゃん。私はお兄ちゃんの妹でしょー」
「やっぱりそうだったのねー」
訂正できないまま話は進行してしまった。
もうあきらめるしかない。
「それなら話は早いわ。お兄さんっ! 妹さんをここで働かせてちょうだいっ! 彼女は逸材だわっ。さっきの騒動を見せてもらったけど、かなりの手腕だったわ。ぜひともうちのお店に欲しいのっ」
なるほど、さっき聞こえていたのは桜ちゃんをここへ勧誘していた声なのか。
桜ちゃんの方を見ると、店長に見えない様に首を振り、指でバツを作っていた。
「すいません、店長さん。桜ちゃんが……いてっ!」
断りの言葉を告げようとしていたところ桜ちゃんに脇腹の辺りをつねられた。
いたい。
「佐渡さん。ちゃん付けで呼んだりしたらダメです。バレちゃうかも……」
小声で何がダメなのかを説明してくれた桜ちゃん。
僕はそれに則り、言葉を少し変える。
「すいません。桜が嫌がっているので今回の話はなかったことにしてもらえますか? もし、さっきの行動が迷惑なんでしたら今すぐ出ていきますので」
「そこのところをお願いできなーい? あんなテキパキと行動できて、対応も完璧でこんなにかわいい子滅多にいないのよー」
それはそうだろう。
桜ちゃんはここのメイドさんたちには悪いけど、本職のメイドさんだ。メイドを初めて数年とかいうものではない。
それこそ物心ついたころにはメイドのなんたるか、を教えられていたのだろう。
そんな桜ちゃんにあのくらいのことはどうってことないのだろう。
僕は再び桜ちゃんの顔を見る。
桜ちゃんはさっきと同じように首を振った。
「すいません。それでも嫌なそうなのでお断りさせてもらいます。それにここのメイドさんたちだってみんな可愛いですよ。みんな自分なりに笑顔でお客さんたちを喜ばせています。彼女たちだってみんなメイドさんですよ」
「そーお? 残念だわー。でもやりたくなったらいつでもここに来てねっ。いつまでも待ってるからっ」
「だって、桜」
「ないとは思いますけど、その時はお願いします」
「はーいっ。お願いされまーす」
「それじゃあ失礼しますね」
そう言って僕は桜ちゃんの手を取り、スタッフルームを出た。
そして広志くんの待つ席へと戻る。
「ごめん待たせちゃったよね」
「すいませんお待たせしましたー」
「全然でありますよ。それよりもそろそろ注文の品が来るでありますよ」
「おーっ! それは楽しみですっ!」
すでに元気いっぱい準備万端の桜ちゃん。
心なしか瞳が輝いて見える。
「おまたせしましたー。ご注文の品でございます」
メイドさんの一人が僕らの席へと注文の品を運んできた。
「それではこちらのご主人から始めますね。なにを描いてほしいですか?」
「それでは私の顔を頼むであります」
「わかりましたー。それじゃあ少しの間動かないでくださいねー」
どうやらここではオムライスにメイドさんがイラストを描いてくれるらしい。
こういうサービスなら普通のファミレスでも子供に人気が出そうだ。
「できましたーっ!」
完成したらしい広志君の顔を見てみる。
オムライスには広志君の特徴を見事にとらえた、可愛らしい感じのイラストが描かれていた。
「それでは最後に、私たちが愛を込めますね。一緒に込めてもらえますか?」
えっ? 今なんて言ったのかな?
愛を込めるとか聞こえた気がするんだけど。
「もちろんであります」
とても乗る気な広志くん。
「それではご一緒にーっ。おいしくな~れっ! 萌え萌えキュンっ!!」
「おいしくな~れ☆萌え萌えキュンっ☆」
なぜだか見てはいけないものを見た気がした。
そして僕はここに来て気が付く、自分が広志君と同じものを注文していることに―――
「それでは次にこちらの御主人様」
「い、いや……僕はそういうの大丈夫なんで……」
メイドさんが笑顔で僕の方を見た。
イラストの方はうれしいけれど、後半のは僕には難しい。荷が重すぎるっ!
「そっ、そんな~。ユイとは萌え萌えできませんか~」
涙目で訴えてくるメイドさん。
何メイドさん泣しとんじゃあ、ばかりの周りのお客さんの視線。
となりで楽しそうに笑う桜ちゃん
―――逃げ場などどこにもなかった。
「……やらせていただきます」
この後、半ば自暴自棄になりながら、萌え萌えキュンをした僕がいた。




