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ホームレス少女  作者: Rewrite
花里桜編
77/234

7話

 朝のあの事件から数時間後、桜ちゃんが目を覚ました。


「おはよう桜ちゃん。よく眠れた?」

「え、あ、はい……」

「それならよかった」

「は、はい」

「それでね。桜ちゃん。よかったらしばらく家にいない?」

「……えっ?」


 桜ちゃんが心底驚いた顔をした。


「えーっと。さっき安藤さんに連絡したんだけど、理由はよくわからないけど奏ちゃんの家追い出されちゃったんだよね? でもね、僕は奏ちゃんが本心から桜ちゃんを追い出したとは思えないんだ。なにか理由があるはず、そう思う。なにかにイラついちゃってて桜ちゃんに当たっちゃったとか、その場の勢いで言ってしまった。どういう理由かはわからないけど、僕は奏ちゃんを信じたい。桜ちゃんは?」


 僕は少し話しの中にウソを織り交ぜた。なんで奏ちゃんが桜ちゃんを追い出したのか、僕はその理由を知っている。奏ちゃんの優しさを知っている。奏ちゃんの覚悟を知っている。

 桜ちゃんに嘘を吐くことにとてつもない罪悪感はあるけれど、この話は慎重に進めていく必要がある。


「わ、私も信じたいです……。私に粗相があったのなら謝って許してもらいたいです。また……働かせてもらいたいです」


 桜ちゃんは再び大きな瞳から大粒の涙をこぼしながら言った。


「でも……もし、お嬢様が本当に私がいないことを望むのであれば、それは仕方ないです……」


 今度は下を見て俯いてしまった。

 このままではどんどん気持ちも下を向いてしまう。


「大丈夫。そんなことはないよ。僕が保証する」


 それなら僕にできることは一つだ。

 僕の元気を少しでも桜ちゃんにあげること。それだけだ。


「……佐渡さん」

「だからさ。少し時間をおこう。それまで……ううん。いつまでも家にいていいから」

「……本当ですか?」

「うん。いつまでもここにいていいよ。狭くて申し訳ないけどここを自分の家だと思っていいし、この件も僕が必ず解決する。絶対に二人を笑顔にしてみせるよ。だから……それまでここにいていいよ」

「あ、ありがとうございます」


 それからまたしばらく桜ちゃんは僕の胸で泣き続けた。




 しばらくして桜ちゃんは泣き止んだ。目元が真っ赤でそれを見ている僕まで辛くなってくるような赤さだった。

 僕は少しでも桜ちゃんに元気になってもらおうと、ご飯を作ることにした。


「さて、もうそろそろお昼だし、お昼ご飯にしようか」

「ちょっと待ってください佐渡さんっ」


 声がいつもの元気いっぱいな桜ちゃんだ。


「聞いてほしいことがあるんです」

「えっと、なにかな?」

「私、頑張ります。お嬢様にまた戻ってきてほしい。って言ってもらえるよう頑張ります。私、もう泣きませんっ。見てくださいこの笑顔っ。最高に可愛いでしょ?」


 そう言うと桜ちゃんは笑顔を作った。その笑顔はいつもの桜ちゃんの作る自然な笑顔には匹敵しなかったが、それでもさっきの桜ちゃんの顔よりは桜ちゃんらしかった。


「そうだね。最高に可愛くて、最高に桜ちゃんらしいよ」

「ですよねっ!!、えへっ」


 今度は少し照れたように笑った。桜ちゃんは本当に笑顔が似合う女の子だ。可愛くて、いつも元気いっぱいで、周りのみんなも笑顔にしちゃう。そんな、笑顔の似合う女の子。それが桜ちゃん。

 いつもの桜ちゃんだ。


「それともう一つ」

「もう一つ?」

「この家にいる間。私を佐渡さんのメイドにしてください」

「……ごめんね。もう一度言ってもらえるかな?……僕どうやらすごい聞き間違いをしたみたいで……」

「わかりました。では、改めて、佐渡さん。私を佐渡さんのメイドにしてくださいっ!!」


 どうやら聞き間違いではなかったらしい。僕の頭や耳がおかしくなったのかと一瞬自分を疑ったが、そうではなかったらしい。

 でも、今回ばかりは自分がおかしかった方がよかったかもしれない。


「あのね桜ちゃん。僕は別に泊める代わりにメイドをしてほしいなんて言ってないよ?」

「わかってます。ただ、私が佐渡さんに泊めてもらえるお礼がしたいんです。それに……もし、お嬢様に戻ってきていいと言われたとき、私のメイドスキルが落ちていたらお嬢様をがっかりさせてしまうので、そのためにも……」


 なるほど、そういう意図があったのか。

 僕に対するお礼なんてものは必要ないけれど、奏ちゃんのために自分を磨くということなら僕から何か言う必要は全くない。むしろ桜ちゃんがその気になっているのなら、僕はその背中を押してあげるべきだ。


「わかった。でも、家事は二人で分担しよう。全部桜ちゃんに任せるのは僕も申し訳ないからね。彼方ちゃんや奏ちゃんがいた時もそうだったし」

「水無月さんはわかりますけど、お嬢様もですか?」


 桜ちゃんが不思議そうで驚いたような顔をした。


「初めて家に来たころはそうでもなかったんだけどね。途中から自分から料理を手伝いたいとか、お風呂に一人で入るとか、いろいろ挑戦してたんだ」

「そうなんですか。私の知ってるお嬢様では少し想像しにくいですね」


 確かに、最初の数日は奏ちゃんも何もしてくれなかった。ただ家にいて時間を過ごしていた。それもお嬢様の生活をしていたのならしょうがないのかな。と思っていた。

 けど、途中からは理由はどうあれ僕の手伝いを自分からしてくれるようになった。

 僕としてはお客様にそんなことはさせられない、と思っていたけど、奏ちゃんのいい方向への変化を僕は邪魔する気になれず、それを受け入れた。

 最初に会ったときは少し我儘で少し性格のキツイ可愛い女の子程度に思っていたけれど、話してみて、一緒に生活していて僕は気づいた。

 奏ちゃんは少し我儘で少し性格のキツイ、けれど根は優しい、とても不器用な可愛い女の子だということに―――


「確かに小さな変化だったからね。でも、僕たちが注意してみれば何か気づけるはずだよ。奏ちゃんの小さな変化に」

「あっ!! そういえば佐渡さんの家から帰ってきてからお嬢様、たまに安藤さんの手伝いをしたいって駄々をこねてました。安藤さんは「これは私たち使用人の仕事です」ってことわってたけど」

「ははは。それは安藤さんらしいね」


 どうやら自分の家に帰ってからも奏ちゃんの小さな変化は続いているらしい。

 そんな楽しい会話をしていると不意に僕のお腹が鳴いた。

 ぎゅるる~


「あはは、ごめんね。朝から何も食べてなかったからお腹空いちゃって……」


 朝起きたらいきなり桜ちゃんが来て、それも泣いていて、奏ちゃんに連絡を取ったら、桜ちゃんを一時的に首にしたと言われ、その後泣いている奏ちゃんを慰めて、覚悟を決めてと、朝からすごいことがてんこ盛りだったため、朝食を取る暇がなかった。

 でも、それを奏ちゃんのせいや桜ちゃんのせいにする気は全くない。むしろ二人が僕を頼ってくれたことが素直にうれしかった。


「そういえばお昼を食べようって話でしたね。では早速、私、佐渡さんの仕事奪っちゃいますっ!!」


 桜ちゃんは言葉を言い終わると同時に勢いよく立ち上がり、隅っこに寄せておいたバックの元へ向かった。僕が何事かと唖然としていると、桜ちゃんは中からメイド服を取り出し、驚くことに今着ている服をその場で脱ぎだした。


「ちょっ!! 桜ちゃんっ!!」


 急いで止めようと、立ち上がろうと膝を立て、手を伸ばした瞬間、桜ちゃんの纏っていた洋服がひらりと舞い降りた。

 しかも運悪く、中には何も着ていなかったらしく、肩が見えてしまっていて、いや、それ以上に下着が見えてしまっていた。

 ここまで来ると、何をしたらしいのか、何を言えばいいのかわからなくなってしまい。僕はただ立ち尽くした。


「はい? なんですか……って、いやああああああああ」


 今の事態をわかっていない桜ちゃん。しかし、僕の様子がおかしいのに気付いて自分の体に目を落とす。そしてようやく状況に気づいたのか悲鳴をあげた。


「ごめんっ。すぐに出てくからっ!!」


 僕も桜ちゃんの悲鳴で正気を取り戻し、固まっていた体を強引に動かして、とりあえずキッチンへと向かった。

 部屋を移動し、急いでキッチンと居間を繋ぐドアを閉める。

 そして安心感に包まれた瞬間、その安心感は罪悪感に飲み込まれた。


「……前にもこんなことがあった気がする。……あ、彼方ちゃんの時か、あの時はお風呂上がりで……」


 そう。あの時は彼方ちゃんがお風呂上がりで、僕が着替えを用意するのを忘れたせいで、まだ純粋で綺麗な彼方ちゃんの体を見てしまった。そして今回は桜ちゃん。今回はまだ下着をつけていたのが救いとはいえ、綺麗な曲線を描く白い肩や、いい具合に引き締まったお腹、下着に包まれている豊かな胸まで見てしまった。

 ―――最近いろいろあり過ぎて考えてなかったけど、僕って数々の女の子を傷つけてるんじゃないだろうか? そしてその罪を償う方法は―――


「これしか―――」


 キッチンに置いてある包丁を手に取る。


「あのー。すいません佐渡さん。さっきのことは気にしないで……って、なにしてるんです?」

「いや、そのね、ちょっと罪を償って死のうかと思ってさ」

「ちょっ! 止めてくださいよー。さっきのは私が勢い余って脱いじゃったのが悪かったんですし、佐渡さんは悪くないですっ」

「でも……」

「でもじゃありませんっ。ああー、もう。私料理始めますんで佐渡さんは居間でゆっくりしててくださーいっ」


 キッチンを追い出されてしまった。

 それから僕は今まで傷つけてしまったであろう出来事の関わる女の子への懺悔をして昼食を待った。


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