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ホームレス少女  作者: Rewrite
花里桜編
76/234

6話

「はあー」


あれから安藤さんに送ってもらって僕は今、自宅のお風呂の中にいる。ほどよく温まったお湯に浸かりながら、今日の奏ちゃんと安藤さんからの頼みごと、そしてそれを解決するのに僕はこれからどうするべきなのかを自分なりに考える。


「奏ちゃんはなにもしなくてもいい。なんて言ってたけど、やっぱり僕も何かするべきだよね」


安藤さんに送ってもらいながらもずっと考えていたけど、全くと言っていいほど、何も思い浮かばない。本当に何も思い浮かばない。

いい案どころかダメな案すら一つも思いつかないのだからどうしようもない。

結局、何もいい案が浮かばないままお風呂を出て、特に何をする気にもなれず、布団を敷いて横になった。

しかし、眠気は全くやってこない。今日は大学の後に奏ちゃんの家に行って、いろいろあったのだから体は疲れているはずなのに眠れない。

ただただ、頭の中を桜ちゃんのことだけが埋め尽くしている。


―――どうしたらいい。

―――なにをするべきか。

―――早くどうにかしないと。


それだけが頭の中を支配していく。

自分でもわかる。これは僕の悪い癖。考え性と心配性だ。

癖というのは自分でわかっていても簡単には治せない。それはもう生活の一つになっていて、当たり前になってしまっている。

それに僕のこの癖は相当根強いようで、こうなると自分の納得のいく答えが見つかるか、誰かに止めてもらうまで終わることはない。まるで出口のない迷路の出口をすっと探しているような感じだ。

僕はそのまま答えの出ない問いの答えを眠りに落ちるまで永遠と考え続けた。




「んっ。あれ僕、あのまま寝ちゃったのか……」


起きたばかりで眠たい頭を起こすために洗面所に向かう。

覚束おぼつかない足取りでゆっくりと洗面所に向かい、冷たい冷水で顔を洗うと、さっきまでの眠気が嘘のように吹き飛んだ。

眠気が飛んだところで昨日の考え事の続きをしながら洗濯物でもしようかと思っていると、不意にチャイムが鳴った。


ピーンポーン


「誰だろう? こんな朝早くに」


今日は誰とも約束をした記憶がない。翔君たちは夏休み初日からバイトやらゲームのイベントやらで忙しいと言っていたはずだ。

となると、必然的に誰かは限られてくる。

近所の人が何らかの用事で来たか、お向かいの彼方ちゃんかだ。

恐らく後者であろう。夏休みだから彼方ちゃんが朝食を一緒に取りに来たか、一緒に取るために呼びに来てくれた。という考えが一番しっくりくる。

僕は「はーい。今でまーす」と大声で返事しながら、足早に玄関に向かった。

そして玄関を開けると、そこには予想外の人物が立っていた。


「……桜……ちゃん?」


玄関に立っていたのは近所の人でも彼方ちゃんでもなく、桜ちゃんだった。ただ、いつもの桜ちゃんではなかった。

いつも着ていたメイド服ではなく私服を着ていて、背中には大きなリュックサック、手には鞄を持っていた。

それはまるで引っ越しをするような、どこか遠くへ旅行へ行くような格好だった。

ただ、一番の問題はそこではなくて―――


―――桜ちゃんが大量の涙を流し、目を真っ赤に腫らしながら泣いていることだ―――


「ど、どうしたの桜ちゃんっ!! とにかくほらっ。あがって」


僕はいきなりのことに混乱しながらも、桜ちゃんを家に招き入れた。


「はい。ホットミルク。夏だから熱いかもしれないけど、たぶんこれが一番落ち着くから」


冷蔵庫の中にあった牛乳を軽く温め、桜ちゃんに渡す。荷物も下ろしてもらって、部屋の片隅にまとめた。

とりあえず今できることは終わったので、僕は桜ちゃんの前に話を聞くために座った。


「それで桜ちゃん。どうしたの? こんな時間に?」


桜ちゃんから話しを切り出してもらうのは少し難しそうだったので、僕の方から話を切り出した。


「……」


でも、桜ちゃんからの返事はなかった。いつも元気な桜ちゃんが泣いているだけでも珍しいのに、ここまで落ち込んでいるということはよっぽどのことがあったのだろう。

そしてそれはたぶん、僕が昨日奏ちゃんと安藤さんから聞いて、頼まれた内容と関係しているんだと思う。

昨日。僕が帰ってから何があったというのだろうか。

桜ちゃんは今もただ、俯いて静かに泣き続けている。僕はそんな桜ちゃんに近づいて、抱きしめながら頭をゆっくりと撫でた。


「桜ちゃん……大丈夫、大丈夫だよ。大丈夫だから」


ただ、大丈夫。だけを繰り返し、出来るだけ安心できるように、落ち着けるように、ただただ頭を撫で続けた。

しばらくして少し落ち着いたのか桜ちゃんの泣き声が聞こえなくなった。

桜ちゃんと話そうと少し離れると桜ちゃんは安らかな顔で寝ていた。ただ、目の辺りは真っ赤に腫れていて桜ちゃんがどれだけ長い間泣いていたのか、どれだけ辛いことがあったのかを物語っていた。

桜ちゃんをそのままにしておくわけにはいかないので、敷きっぱなしにしていた僕の布団に一旦桜ちゃんを寝かせてあげた。

そして心配で一緒にいてあげたい気持ちを振り切り、僕は一人ベランダに出て、この状況の真相を知っているはずの奏ちゃんに電話をかけた。

何回かのコールの後、すぐに応答があった。


「あ。奏ちゃん? あのさ、桜ちゃんのことなんだけど……」

「すいません。佐渡様。私です」

「あれっ? 安藤さんですか? えーっとおはようございます」


奏ちゃんの携帯に掛けたはずが、出たのは安藤さんだった。

混乱のあまり、元の目的を忘れ、僕は挨拶をする。


「はい。おはようございます佐渡様」


いつもと変わらぬ様子で応答する安藤さん。

慌ててた自分が恥ずかしく思える。


「それでですね。んっ?」


元々の目的を果たすために事情を聴きだそうと話を戻そうとすると、安藤さんの声ではない。なにか別の音が聞こえた。

それは鼻を啜るような音で、まるで誰かが泣いているような―――

そこまで考えてその音の主が思い当たった。

桜ちゃんは今、僕の家にいる。安藤さんは今僕と普通に会話している。なら、音の主は一人。


「もしかして奏ちゃん……泣いてますか?」


奏ちゃんだ。


「……はい」

「なんとなくわかりますけど、どうしてか聞いていいですか?」

「はい、わかりました。説明させていただきます」


安藤さんが説明をしてくれる。ただ、その声はどこか辛そうに聞こえた。


「昨日佐渡様が帰ったあと、桜が夕食のことを謝りに行きました。なぜ謝りに行ったかといいますと……」

「ああ。そこは大丈夫です。奏ちゃんから聞いてます。僕が居たから無理して奏ちゃんに敬語でなく、普通に話しかけたからですよね?」

「はい。そうでございます。それでですが、桜は奏お嬢様の部屋に行き、頭を下げました。それに対してお嬢様は……」


なんとなく、嫌な予感がした。

この後になにか辛い話が来るような。昨日も感じたような嫌な感じが僕を襲った。


「「桜。それは許すことができないわ。使用人が私に向かって敬語を使わないなんてどういうつもり? 私のことをバカにしてるの?」と言ったらしく、その後……」


安藤さんは少し間をおいてから、本当に辛そうに―――


「「桜、あなたはクビよ。どこへなりとも行きなさい。明日には出ていくように」と言ったそうです」

と、口にした。


正直、何がなんなのかわからなかった。理解が追い付かなかった。なんで奏ちゃんがそんなひどいことを言ったのかもわからなかったし、自分で言ったのになんで今そこで泣いているのか僕には全然わからない。

奏ちゃんがそんなひどいことを言うような子じゃないことは痛いほどよくわかってる。言葉が少しきついことはあるけど、本当は優しいことを僕は知っている。

なのに、なぜ、どうして―――

桜ちゃんに対してそんなことを言ったのだろう。


「どうして奏ちゃんは泣いているんですか?」


わからないことは素直に聞く。これが僕の考え方だ。


「お嬢様曰く、桜のためだと。桜を桜ちゃんに戻すためだと言っておられます」

「なんでっ……」


なんでそれが桜ちゃんとの関係を元に戻すことにつながるんですかっ!! と言い放つ前に僕は一つの結論に達した。

奏ちゃんは昨日言っていた。

「ええ。一応考えがあるわ。ただ、この考えはほとんど佐渡にかかってるの。任せてもいいかしら?」と。

もしかすると、今の状況は奏ちゃんが意図して作ったのではないか、そう思うとすべてに納得がいく。

この考えは佐渡にかかってる、って言うのは喧嘩をして桜を追い出すから奏ちゃんは何もできない。ということを言っていたのではないだろうか。

僕に命令をするように桜ちゃんを戻して。と言っていた時のあの顔も桜ちゃんを傷つけることを覚悟するための顔だったんのではないか。

そうだとしたら、奏ちゃんの自分のホント気持ちを犠牲にした作戦を僕がミスミス無駄にするわけにはいかない。

僕が二人を――――――


いや、僕がみんなを笑顔に、本当に笑顔にして見せるっ!!


せっかくお父さんとの件が解決して笑顔が戻っていた天王寺家がまた、笑顔を失っている。それをどうにかできるのが僕だけだっていうのなら、僕はなんだってやってやる。なんだってやって見せる。


「ありがとうございます安藤さん。あのー。もしよかったら奏ちゃんに代わってもらえますか?」

「はい。わかりました」

「な、なによ佐渡……」

「奏ちゃん、大丈夫。後は僕に任せて。絶対にみんなを本当の笑顔にしてみせるから」


僕はこの前と同じように、同じ宣言を奏ちゃんにした。


「ふ、ふんっ。任せるのは当たり前でしょあんたは私の下僕なんだから。だから……絶対よ。絶対だからね。約束よ。佐渡」

「うん。絶対、桜ちゃんも奏ちゃんも安藤さんも本当の笑顔にして見せるから」

「わかった。待ってる」

「うん。またね。なにかあったらいつでも連絡してね」

「しないわよっ。……それより、桜本当に傷ついてると思うから……頼んだわよ」

「任せて。じゃあまたね」

「うん。……またね」


奏ちゃんの言葉を最後に僕は携帯を切った。

さあ、これからが大変だけど、奏ちゃんのためにも、桜ちゃんのためにも、安藤さんのためにも、早くこの状況を解決しなくちゃ。


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