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ホームレス少女  作者: Rewrite
花里桜編
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1話

 今日の講義を終え、僕は家へと帰宅した。


「ふー。あっ。そういえば今日の夕食の材料ってあったっけ?」


 ふと、不安になり冷蔵庫の中を覗く、中には一通りの食材は揃っていたが、少し残りに不安なものがいくつかあった。


「しまったな。帰りに買ってこればよかった」


 今の時刻は夕方の六時。夏なのでまだまだ外は明るい。今から買い物に行っても暗くなるまでには帰ってこれるだろう。どうしようかと、考えていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。


「はーい。ちょっとまってくださーい」


 聞こえているのかはわからないけど、チャイムが鳴るとついついこう返事をしてしまう。

 急いで玄関に向かい、ゆっくりとドアを開ける。


「こんにちわ佐渡さーんっ」

「うわっっと。桜ちゃんっ!?」


 玄関を開けるなり、桜ちゃんが僕に向かって抱きついてきた。

 信頼されているということでは嬉しいんだけど、その、年齢の割には育ちすぎている二つの双丘や、女の子特有の柔らかさが恥ずかしいので僕としてはあんまり抱きついてほしくない。特に人前では。今も恥ずかしくて顔が熱い。


「そうでーすっ。あなたの優しく可愛いメイドの桜ちゃんでーすっ」


 そんな僕のことは関係なく、桜ちゃんはより一層力強く僕に抱きついてくる。嬉しいんだけど、本当にうれしいんだけど恥ずかしい。


「そこまでです桜。佐渡様に迷惑です」


 どうしようかと困っていると、もう一人のお客さんの安藤さんが桜ちゃんを僕から引き離した。


「えーっ。そんなことないですよね佐渡さん? こんな可愛い美少女に抱きつかれて嫌なんてことありませんよね?」


 桜ちゃんが上目づかいで言った。

 確かに抱きつかれることについて、恥ずかしいということを除けば、信頼の表れだと思うので素直にうれしい。

 それに桜ちゃんも可愛いと思う。小動物のような大きな瞳と小さな体、綺麗なピンク色の長髪、元気いっぱいな性格。本当にいい子で可愛いと思う。

 だけど……


「ごめんね。桜ちゃん。やっぱり抱きつかれるのは恥ずかしいや……」


 恥ずかしいものは恥ずかしいのである。


「えーっ! そんなーっ」

「ホントごめんね」


 なんでだろう。特に悪いことをしたわけでもないのに、桜ちゃんが悲しそうな顔をするとこっちが悪いことをしたみたいな気持ちになってくる。


「あー。でも、恥ずかしいだけで嬉しくないわけじゃないんだよ……だから、その、ねっ?」


 最後の方はなんて言ったらいいかわからなくなって曖昧に返してしまったが、恐らく、僕の言いたいことは桜ちゃんに伝わったと思う。その証拠に悲しそうにしていた顔は枯れていた花が綺麗に咲きなおるように笑顔になって


「やっぱり佐渡さんも私のこと好きなんじゃないですかーっ。もうさっきのは照れちゃったんですね? もう私しかいないんですからいいんですよ。恥ずかしがらなくてー」


 また僕に抱きついてきた。

 本当に人懐っこいというか、他人と触れ合うのが好きな子だ。

 でも、他の人にも見境なくこんなことをしているんじゃないかと心配になる。


「私もいますよ桜。いいかげんになさい」

「あー。えへっ」


 怒りを露にし始めた安藤さんに桜ちゃんは渾身の笑顔で答えた。


「後でお説教です」

「ひー。そんなー。佐渡さーん助けてー」


 安藤さんのお説教が嫌なのだろう。今度は涙を流しながら懇願するように僕にすがってきた。

 正直に言うと助けてあげたい。悪気がなかったのはわかっているし、僕も恥ずかしかったというだけで迷惑というほどでもなかった。今回は助けてあげよう。


「安藤さん。桜ちゃんも反省してますし、僕も恥ずかしかっただけで迷惑じゃなかったので、今回は僕に免じて許してもらえませんか?」


 僕が桜ちゃんに助け船を出すと、安藤さんは少し悩む仕草をして諦めたようにため息を一つ吐き、僕らの方に向き直った。


「はあー。今回は佐渡さんに免じて許します。ですが桜。これからはくれぐれも注意するようにっ」

「はーいっ」


 元気よく手をあげる桜ちゃん。

 本当に反省してるのか少し心配だ。


「それで、なにか僕に用ですか?」


 いろいろあってすっかり忘れていたが、二人はお客さんだ。僕に何か用があったからここに来たはずである。ここで話の軌道を戻すことにした。


「はい。佐渡様、今からなにかご予定はありますでしょうか?」

「いや、特には……」


 さっき買いに行こうか悩んでいた食材は残りが少なくなってきているというだけで、今すぐ買いに行かないと困るようなものでもないし、これから僕に特に予定はないので素直に答えた。


「では、お屋敷までご同行願えますか?」

「奏ちゃんの家ですか? はあ、もちろん大丈夫ですけど、こんな時間にお邪魔じゃないんですか?」

「はい。佐渡様を呼んでくるように行ったのは奏お嬢様です。邪魔なんてことはございません」


 安藤さんはいつも通りきりきりとした口調で答える。


「それに今の天王寺家に佐渡様を邪魔などと思う者は一人もいません。むしろ皆歓迎することでしょう」

「そうですよー。佐渡さんは今や家のお屋敷では英雄扱いですからっ」


 奏ちゃんとの一件があってから、天王寺家では使用人の間で僕は英雄のような扱いになっているという。というかなっている。

 この前、天王寺家に行った時も玄関から入るなり、メイド、執事、源蔵さん、奏ちゃんとお屋敷内にいる全員に出迎えられた。

 歓迎されているのはうれしかったが、恥ずかしさの方が勝って、僕としてはすごく居たたまれない雰囲気だったのを覚えている。


「いや、英雄って。大げさだよ。僕は僕がしたいことをしただけで、特にこれといって何もしてないよ」


 これは謙遜などではなく、本心だ。

 確かに僕はあの時、結果的に奏ちゃんたちを助けるような行動をとった。でもそれは、みんなが笑っていられる最高に幸せな終わりを迎えるために動いた。ただ、それだけなのだ。

 もちろん奏ちゃんの意見は聞いていたし、奏ちゃんの最終的な望みも聞いていた。それを叶えるつもりもあった。

 でもそれは、僕がみんなが笑顔でいてほしいという、僕の勝手のために行われた行為だ。

 それにそのために何人もの人が傷ついた。全然褒められたことじゃない。


「ご謙遜を。佐渡様は私たち使用人たちに出来なかったことをやってのけたのです。それだけで十分におすごいですよ」


 桜ちゃんだけでなく、安藤さんにも褒められた。ここまで褒めちぎられると流石に背中がかゆくなってくる。


「ははは……ありがとうございます」


 これ以上否定していると今以上に褒めちぎられそうだったので、僕から折れておくことにした。

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