↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホームレス少女  作者: Rewrite
天王寺奏編
PR
67/234

32話

「入りましょうか」


 敷地内に入り、玄関までやってきた。ここまでの道のりは驚くほど静かで、堂々とここまで歩いてくることができた。


「気を付けてください佐渡様、ここまで静かなのは不自然でございます」


 安藤さんも気づいていたようで、いつものような冷静な感じでなく、少し緊張しているようだ。


「じゃあ開けますね」

「はい」


 安藤さんに確認を取ってから慎重にドアを開ける。キィーという音と共にドアが開き切った。すると、中には驚くべき光景が広がっていた。


「ようこそおいでくださいました佐渡様、安藤様っ」


 玄関を開けると、まるでお嬢様を出迎える執事とメイドのようにずらりと列ができていた。そしてその全員が綺麗な姿勢で頭を下げ、僕らを待っていましたとばかりに笑顔で出迎えた。

 僕はなにがなんなのかわからず安藤さんの方を見た。すると、安藤さんもこの状況が呑み込めていないのか、驚いた様子で僕のことを見ていた。


「どういうことなんですかね?」

「わかりません。ただ、今のところは敵意はないようです」


 僕らがいきなりの驚くべき状況に困惑していると、列の一番前に立っていたメイドさんと執事が一人ずつ出てきて、礼儀正しくお辞儀をした後、メイドさんの方が口を開いた。


「お待ちしておりました佐渡様。他の方はご一緒ではないのですか?」


 安藤さんの言うとおり本当に相手に敵意はないらしく、油断させて一斉に僕らに襲いかかってくる、なんてこともないようだ。敵意がないのならこちらとしても有難いので、このまま相手のペースに乗っかることにする。


「はい。今ここに来ているのは僕ら二人だけです」

「そうですか。では源蔵様がお待ちです。いらしたばかりで申し訳ないのですが、ご同行願います」

「はい。僕らもそのつもりでしたから」

「では、こちらへ」


 メイドさんと執事さんがメイドさんと執事の列の真ん中を僕らを先導するように歩いていく。


「行きましょう佐渡様」

「……ええ」


 列の中央をメイドさんと執事さんに続いて歩いていくと、ある部屋に案内された。そこに奏ちゃんのお父さんの姿はなく、それどころか、僕ら四人しかいなかった。

 もしかして逃げられないところまで誘導されたんじゃないかと頬に汗が伝う。


「あのー……源蔵さんはどちらに?」


 思い切ってこちらから聞いてみた。

 すると、メイドさんと執事がほとんど同時に笑顔で振りむいた。なぜだろう。笑顔なはずなのに、今はその笑顔が怖いものに思える。


「源蔵様は少し準備があるとのことですので少しの間ここでお待ちください」


 執事さんが言った。

 そして少しの間、見張られているような感じを味わいながら時が過ぎるのを待った。

 トゥルルー

 誰かの携帯が鳴った。僕はまさかこんな歓迎される形になるとは思わなかったので、敷地内に入る前に携帯の電源を切っているのでなるはずがない。安藤さんも今は携帯を持っていない。と言っていたので違うだろう。となると、メイドさんか執事さんのどちらかだ。僕らが緊張に包まれているとメイドさんの方が携帯を取り出し、耳に当てた。小さな声で少しの間会話をした後、執事さんと小さな目配せを交わし、僕らの方を見た。

 何を言われるのか気が気じゃない。


「準備がもうじき準備が整うようですので、こちらも少し準備がありますので安藤様は隣の部屋までご同行願います」

「あの、準備ってなんですか? 僕はお話が出来ればそれでいいんですが……」

「大したことではございません。少し着替えていただくだけでございます。安藤様もメイド服がボロボロですので新しいメイド服をこちらで用意いたしました。佐渡様にも特別な衣装を用意してありますのでそちらの着用を願います」


 何がなんだがわからなくて困惑している僕に安藤さんは「従いましょう」と、メイドさんと一緒に部屋を出て行った。

 二人が出て行ったのでこの部屋にいるのは僕と執事さんの二人だけ。この状況で僕が襲われたらひとたまりもなさそうだ。

 執事さんは年齢は恐らく四十代から五十代くらい、体つきはほっそりとしているように見えるのに、なぜか体つきはいいように見える。恐らく、ものすごい筋肉がついているのだろう。

 そんな鍛えられている人間に特になにか拳法をやっていたわけでもない僕が勝てるはずがない。

 緊張で動けなくなっている僕を置いて執事さんは近くの洋服ダンスへと向かい、何かを取り出している。おそらくさっき言っていた着替えてもらう衣装だろう。


「それでは、こちらをご着用ください」

「えっと……これは?」

「ご着用ください」

「……はい」


 押し負けてしまった。




 しばらくして執事さんが「旦那様の準備が終わりました。ついてきてください」と、僕の反応を待たずに部屋を出た。安藤さんのことは気になるが、ここで、安藤さんを待とうとして、置いていかれて、一人にされるのは困る。僕は仕方なく執事さんの後に続いた。


 執事さんの後に続いて歩いていると、今さらになって廊下が綺麗になっていることに気づく、昨日は床に敷かれている赤い絨毯は所々に切れ目が入っていたり、誰かの靴の跡があった。窓もひび割れていたり、飾られていた壺もいくつも地面に落ちて割れてしまっていたはずだ。それが、今はもう何もない。本当に昨日あんなことがあったのかと疑いたくなるくらい綺麗になっていた。それはここで雇われている人がこんなにいれば半日もあればある程度は元通りになるだろうけど、まさかここまでとは思わなかった。それにこの屋敷をあんなに汚してしまって申し訳ない気持ちもある。本当にごめんなさい。

 心の中でここで雇われているメイドさんと執事全員に謝罪をした。


「こちらでございます。それとここからは佐渡様お一人でお進みください。安藤様は別室にて待機しておりますので、あとで合流していただきます」

「わかりました」


 ここまで来たら覚悟を決めるしかない。僕は自分でドアを開いて部屋へと入った。


「よく来たな青年。まさかこんなに早く来るとは思わなかったぞ」


 部屋に入ると部屋は電気が消されており、窓もカーテンで遮られていて薄暗かった。それでも朝ということもあり、薄らと差し込む太陽のおかげで部屋の中が伺えるといったレベルだ。

 そして部屋には安藤さんの姿はなく、ただ一つの人影、奏ちゃんのお父さん。源蔵さんだけが立っていた。

 しかし、その姿をしっかりと認識することはできない。


「おはようございます。今回は奏さんの件でお話をしにきました」

「うむ、私ももうそろそろこの件を終わらせるべきだと思っていたのだよ」


 向こうも僕と同じ考えらしい。なら話は簡単だ。


「あなたはなぜ奏さんが出て行ったかわかってますか?」


 僕はいきなり正面切ってこの話の根本を切り出した。


「わからない。というのが私の答えだ」


 やっぱりだ。この人は奏ちゃんが何を望んでいるのかを知らない

 。もしくは知ろうとしていなかった。なら、その望みを第三者である僕が教えてあげれば、この人も納得して自分の非を認めてくれるかもしれない。


「奏さんはもっとあなたと話したいと言っていましたっ。自分の話を聞いてほしいと言っていましたっ。だからもっと真剣に奏さんと向き合ってくださいっ」

「何を言っている? 私は奏の言うことをしっかりと聞いてやっている。欲しいものは買ってやっているし、やりたいことはやらせている。もちろんダメなことはダメ言うがな」

「違うんですっ!! 奏さんは何かが欲しいとか何かがしたいとかを望んでいるんじゃないんですっ。あなたと何かをすることを望んでいるんですっ」


 二人の口論がぶつかり合う。

 お互いがお互いの意見を述べ、何が正解なのかを導いていこうとする。このままいけばすべてが上手くいく。僕はそう確信し始めていた。

 しかし―――それは間違いだった―――

 奏さんのお父さんは小さくため息を吐き、僕の方へと向き直る。


「君はさっきからいろいろ言っているが、これは家の問題だ。気味の出る幕はない。だが、確かに君たちには迷惑をかけた。その件が不服なら望むだけお金を出そう。それで手を引いてはもらえないか」

「ダメですっ。そうじゃないんですっ」


 そう。違う。そうじゃない。

 ここで僕が引いたら奏ちゃんはまた同じことを繰り返してしまう。下手をしたら今よりもっとひどい状況になってしまうかもしれない。それだけは絶対にダメだ。

 意地でもここで引くわけにはいかない。


「このままじゃ奏さんが辛いままです。今までと一緒です。僕はこの件が解決するまで一歩も引きませんっ!!」

「……そうか。なら……仕方があるまい」

「……うっ」


 奏ちゃんのお父さんの指をはじく音と共に部屋の明かりが灯された。いきなり明るくなったので目がくらむ。少しずつ目が慣れてきてお父さんの方を見るとそこにはスーツ姿のお父さんがいた。そしてその手には、木刀のようなものと刀が握られていた。

 そして刀の方を僕の方に地面を滑らせて渡してきた。何となく拾い上げる。


「それは本物の刀だ。とはいっても本物より大分軽く作ってある。君でも使えるだろう」

「あの、これはどういう……」

「わからないか? 言葉で解決できないなら力で解決しようと私は言っているのだ」

「それは違うと思いますっ」

「言っただろう。最早言葉ではこの話は終わらん。来い青年っ!! ハンデとして私は木刀、君は真剣と鎧を着用文句はあるまい」


 お父さんの言うとおり、僕はあの部屋で執事さんに言われて鎧を着用している。鎧といっても昔の武士が着ていたような大層なものではなく、衝撃を吸収する感じのベストのようなものだ。だから重さも感じないし、本当にベストを着ているような感覚だ。頭には自転車のヘルメットのようなものを被らされている。

 拾い上げた真剣を見る。戦わないと話を聞いてもらえない。でも、この剣を使って戦えばもしかしたらお父さんを傷つけてしまうかもしれない。


(どうすればいいんだ)


 決意を固めることができす。立ち尽くしているとお父さんが痺れを切らしたというように口を開いた。


「来ないのならばこちらから行くぞ青年っ!!」


 美しい足取りで木刀を構えながら僕の方へ向かってくる。

 ここが決断の時なのだろう。

 僕は……戦わない

 この件を解決したいのは本当だけど、誰かを傷つけたくもない。たとえどちらかを選ばないといけないとしても僕は選ばない。

 僕はなるべく木刀を交わしながら、避けきれないものは剣で受け止めることにした。

 今回の一太刀は避けられそうにないので受け止めることにした。

 上から振り下ろされる剣を受け止めようと剣を上の方で横に構える。


「うあっ!!」


 僕の手から剣が落ちた。木刀を受け止めた瞬間、手が痺れて剣を持っていられなくなってしまった。そして無防備になった僕の喉元に木刀の先端が突きつけられる。


「君の決意はこんなものか青年」


 そこからは圧倒的だった。お父さんの一方的な攻撃が続いて、僕は手のしびれが取れることもなく、剣を再び拾い上げる余裕もなく、ただひたすらに木刀を浴びた。



 あの後私たちは急いで山中とかいうやつが準備した武器を手に昨日乗ってきた車に無理やり全員で乗り込み、屋敷を目指した。


「ちょっと山中狭いわよっ。もっとそっちにいけっ」

「ぐふっ!! 蹴るなんて酷いでござるよ間宮殿」


 後ろが騒がしい。

 ちなみにどういった編成で乗っているのかというとこの中で運転ができるのは桜だけだったので運転席に桜、助手席に私こと天王寺奏、それで後ろに九重、間宮、山中といった編成になっている。この車は四人乗りで大して大きな車でもないので後ろに三人座るというだけでも窮屈なのに山中の体系が肥っているのでますます狭くなっているみたい。まあ、屋敷まではそんなに遠くないので我慢してもらうしかないわね。

 ニ十分ほど車を走らせ、見慣れた屋敷の敷地内に堂々と潜入する。今回は時間がないので見つからないようにだとか面倒くさいことは一切考えないことにする。


「到着しました」


 そのまま敷地内を車で走らせて玄関に到着した。今回は大人数な他準備も万端なので、思いっきりドアを開けた。そして私はいきなり驚かされることになる。


「おかえりなさいませお嬢様方っ」


 玄関のドアを開けた瞬間、メイドと執事が長い列を組んで並んでいた。私たちは全員困惑し、この状況について各自詮索し始めた。桜と間宮が何やらこそこそと話している。おそらくこの状況が罠なのかどうかを検討しているのだろう。正直私は頭を使うことが嫌いだ。別に頭が悪いわけではない。同い年の人相手なら私より頭のいい奴なんて百もいないだろう。そうなるように私は育てられてきたんだから。でも、私はなにかあったら頭で考える方ではなく行動に起こす方だ。頭を使うのは安藤や桜に任せればいい。なにかあったら安藤と桜がどうにかしてくれる。今回は安藤はいないけど、桜と間宮がいるしどうにかなるだろう。なら私が今できるのは間宮たちが考える時間を稼ぎ、極力情報を出させることだ。


「なんなのこれは?」


 少し威圧するように言葉を放った。すると、一番前に居た執事が私たちの前に出てきて、恭しく礼をした。


「お出迎えでございますお嬢様」

「佐渡が来なかった?」


 最初は様子を見るつもりだったけど、時間を稼ぐのも面倒になったので私はやっぱり直球で行こう。


「はい。いらしております。今ご案内いたします」

「やっぱりね。早く案内なさい」

「おおせのままに」


 私たちは案内されてある部屋に案内された。そこは……


「なんでモニター室なんかにつれてくるのかしら」


 モニター室だった。モニター室とは普段不審者のような怪しい人物が来た時や、泥棒が来たときにモニター室で相手の行動を監視して、捕まえるために移動しているメイドと執事に指示を送るある意味指令室のような場所だ。おそらく安藤や、桜が私たちを逃がすために指示をしていたのもここだろう。

 それともう一つ。中には既に先客がいた。


「安藤。何してるの」


 安藤だ。用意された椅子に座り、沈んだように下を向いている。

 私が呼んでいるのに返事もしない。

「……」


 私は少し佐渡たちの行動に苛立っていたので、安藤に近づき、安藤の顔をこちらに向けた。やっと安藤の顔が見れた。しかしその顔は私が見たかったいつもの顔でなく


「安藤、泣いてるの?」


 泣き顔だった。

 流石に泣いている安藤を叱るほど私もバカでない。後ろにいる桜たちも声にこそ出していないが驚いているだろう。


「どうしたの安藤っ。何かされたのっ。そうだっ佐渡は? 佐渡はどこっ!?」


 安藤が心配で声を掛けているうちに私の体に嫌な予感が奔る。


「答えなさい安藤っ」


 強い口調で安藤を怒鳴りつけた。すると安藤はゆっくりとモニターの方を指さした。画面は真っ暗で何も映されていない。そう思った矢先、執事がモニターの電源を入れた。そしてモニターにある部屋の様子が映された。そこはトレーニング室だった。ちょっとした運動をしたりするときに使われる部屋だ。そこに佐渡とお父様が映されていた。


「「「佐渡っ」」」


 私を含む全員が佐渡の名前を呼んだ。しかしそれはやっぱりここにいたという安心感からではない。この状況はまずいという絶望の叫び声だ。画面に映されていたのはお父様に木刀で殴られ続けている佐渡の姿だった。


「どういうことよっ」


 執事を怒鳴りつける。


「あれは言葉では解決できないことを力で話し合っているのでございます」


 執事はさも当たり前のように答える。


「あれのどこが話し合いなのよっ」

「そうです。あんなの一方的な暴力じゃないですか」

「そうだぜ」

「ござる」


 みんなが叫ぶように訴えた。


「あのお二人は最初こそ会話をしていました。しかし互いの納得のいく答えにたどり着けなかった。だから力で話すことになったのです」


 表情も変えず淡々と執事は受け答える。


「ここから出しなさい」


 私はもう怒りを堪えることができず静かに怒り始めていた。


「それはできません。もしここを出ようと言うのでしたら」


 執事が後ろ手にドアを開けた。そこには


「私たち全員のお相手を願います」


 さっきまで私たちを出迎えていたメイドと執事全員が笑顔で立っていた。




「ぐあっ、うあっ!」


 木刀で殴られ続け、だんだん痛みを感じなくなってきていた。正直今自分が立っているのか、横になっているのかも曖昧だ。でも、負けるわけにはいかない。奏ちゃんのためにも。

 そうだ。奏ちゃんのためにも、安藤さんのためにも、桜ちゃんのためにも、今回も協力してくれたみんなのためにも、僕はまけるわけにはいかない。


「青年。もうあきらめたまえ。君では私には勝てん」

「嫌です」

「なに?」

「確かに僕ではあなたに勝てません。でも、ぼくにもできることがある」

「ほほう。君に何ができるというんだね」

「貴方に負けないことができますっ」


 僕は再び気合を入れて立ち上がる。途切れかけていた意識を無理やり引っ張り戻し、落とした真剣を根性だけで拾い上げる。最初に持った時はあんなに軽く振れたのに、今では本物のように重い。


「そうか、ならば死んでもらうしかないなっ」


 お父さんが木刀をすごい勢いで僕の顔目がけて突き出した。もちろんそんな攻撃を僕がまともに避けること、受けること出来ない。しかし、その攻撃は当たらなかった。いや、当ててこなかった

 。突き出された木刀は僕の頬を掠めただけで、今も僕の顔の隣にある。


「青年。私が木刀だからと侮っていないか? 木刀でも人は切れるんだぞ」


 怖い。怖くて仕方がない。足だって震えている。でも、それでも


「僕は負けません」


 僕は再び剣を構える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。