27話
「うわあー。人数が少しずつ増えてきたね」
「ホント、最初からこのくらいの人数出しなさいよ」
「それはさすがに困るよ」
「なによ弱気ねー。情けないわよ」
時間が経つにつれ、追手の人数が大分増えてきていた。そのせいで、曲がり角も安心して曲がることができない。曲がって追手がいて挟み撃ちにあったらその時点でアウトだ。
ここまで来ると、裏道より大通りの方が安全に思える。だから裏道を出て、大通り出たいのだが追手が多く、上手く大通りへの道を作り出すことができない。
(流石に少しまずいかな)
少しずつ追いつめられているような気がして少し気が弱くなっているのを感じる。しかし、それを口に出してしまってはいけない。口に出してしまうと、それこそ本当に気が弱くなってしまう。その上奏ちゃんにまで伝染してしまっては最悪だ。
「佐渡、後ろとの距離が近いわっ」
「わかった!」
少しペースを上げ、後ろの追手からの距離を稼ぐ。しかし、どんなに足を速く動かしても全然距離が広がらない。
「はあ、はあ、はあ」
「ふう、ふう、ふう」
最初こそ余裕のあった僕らだが、さすがに大人数に囲まれると辛くなってくる。それに相手は疲れたら人員の交代が利くのだ。しかし、僕らには交代相手はいない。携帯で時間を確認すると、逃げ始めた時間からすでに三十分という時間が経っている。
「仕方ない、一回撒いちゃおう」
「でも、それじゃあ間宮たちがっ」
「大丈夫、すぐに僕らが見つかればいい」
これも間宮さんからの指示だ。疲れて追いつかれそうになったら一旦逃げ切ってしまい、体力を回復させてからすぐにまた追われるようにする。疲れて捕まってしまったら元も子もないということから最悪の手段として用意した作戦だ。なるべく使いたくなかったが、この状況では仕方がない。
僕は渋っている奏ちゃんの手を強引に引っ張り、逃げるために全力で走る。少ししてどうにか大通りに出ることができた。逃げるならこのタイミングしかない。しかし、どこかの店に入るわけにはいかない。袋のネズミになってしまう。
「あれだっ!!」
どこから逃げようか考えていると、運よくタクシーを発見した。
「すいません。適当に走らせてくださいっ!!」
運転手さんからの言葉を待たずにこちらから目的地を言う。運転手さんは一瞬困った顔を見せたのち、「わかりました」と車を発進させた。窓から後ろを見ると、さっきまで追って来ていたメイドさんたちが無線で連絡を取っている。恐らく、僕らがタクシーに乗ったのを他の舞台にも報告しているのだろう。
「ここでいいです。お金これで足りますか?」
「はい。足ります。お釣りです」
僕らは車を五分ほど走らせたところで車から降りた。
「全く、あそこからこんなに離れちゃってどうするのよっ」
「大丈夫だよ。無線で連絡取ってたし、すぐに引き返すことはないと思う。今から歩いて引き返せば、十分間に合うはずだよ」
「ホントでしょうね。嘘だったら承知しないわよ」
車の中で体力を十分回復した僕たちは近くの自動販売機でジュースを買って、それを呑みながら元来た道を引き返す。そして十分ほど歩いて、もう少しでさっきの通りまで戻れるというところで問題が発生した。角を曲がろうとしたらそこには……
―――執事が一人立っていた―――
「奏ちゃんっ!!」
急いで奏ちゃんの手を引っ張ろうと手を伸ばす。見事に手をつなぐことに成功した僕はそのまま、逆の方向に走り出そうとすると、執事が奏ちゃんの手を掴んだ。
「逃がしませんよ、お嬢様」
「離しなさいっ! これは命令よっ!!」
「申し訳ございませんがこれは源蔵様よりの命令です。お嬢様の命令にはお答えできません」
「離してっ。離せって言ってるでしょ!!」
手をブンブンと振り回し、抵抗を試みる奏ちゃんだが、女の子と大の大人の男の力は違い過ぎた。振りほどけそうにない。僕がどうにかしないと……
「えーいっ」
我ながら情けない声と共に執事さんに殴りかかろうとする。しかし、武道の心得も何もない僕がどうにかできるはずもなく簡単にあしらわれてしまった。
「うわっ」
「佐渡っ!!」
くそ。僕は女の子一人守れないのか。大切な人一人守りきることができないのか。
痛みを堪えながら奏ちゃんを安心させようと笑顔を作りながら奏ちゃんを見る。せめて、安心させてあげたかった。
「な……なんで笑ってるのよ……痛いなら泣きなさいよ……」
どうやら僕なんかの笑顔では奏ちゃんを安心させることはできなかったらしい。奏ちゃんは涙を浮かべ、顔を真っ赤にしながら地面にうずくまる僕を見つめている。
情けない。情けない。情けない。
また女の子を泣かせてしまった。また女の子を辛い目に合わせてしまった。僕は無力だ。
そんな絶望が頭を支配していく中、突然鈍い音が耳に届いた。
何事かと顔をあげると、奏ちゃんを拘束していた執事が徐に倒れた。そして後ろから一人の人間の姿が現れる。
「大丈夫ですかっ。佐渡さんっ!! 奏ちゃんっ!」
その声はとても聴きなれた声で、安心できる声で、今の僕には天使の声に聞こえた。
「……彼方ちゃん」
「はい。佐渡さん」
|彼方ちゃん(天使)の登場によって、僕らの危機は回避された。
「おいっ。こんなの聞いてないぜっ」
「私だって聞いてないわよっ」
「すいませんっ。私の情報不足です。」
私たち三人は今、現在進行形で窮地に立たされている。それはなぜか、答えは簡単。私たちがメイド三人と執事二人に追われているからである。
「私ももっと考えるべきだった。迂闊だったわ」
「間宮っ。指示をくれっ」
「とりあえず私が後ろの連中を牽制するから、桜ちゃんと九重でどうにか前の道を開いてっ」
「そう言われましてもっ」
人数に差があるためか、九重と桜ちゃんでも押し切ることができない。正直、山中の用意した武器がなければ私たちは今頃何もできずに捕まっていただろう。しかし、このままでは捕まるもの時間の問題だ。何とか打開策を……勝つための活路を……
敵をきなこ弾で牽制しつつ、頭の中に描いたこの屋敷の地図を展開し、一旦でも逃げられる道、尚且つすぐに安藤さんを助けに行ける道を構築する。
「こんなのどうしろって言うのよっ」
私は少し自暴自棄になり始めた。戦闘において指揮官が動揺することは指揮全体に影響し、味方全員を動揺させる。それでも私はこの状況に絶望することしか出来なかった。
自分で言うのもなんだが、私は少し頭がいい。だからこそ先読みができてしまい、物事をすぐにあきらめてしまう癖がある。テストで今の私の実力ではあの人に勝てない、私ではあんな風にはなれない。そうやっていろいろなことを諦めてきた。
妥協して、我慢して、堪えて、そして最後に諦めた。
そして私は今回も諦めようとしている。こんな自分が私は嫌いだ。でも、自分というものを簡単に変えることはできない。少なくとも私は自分で自分を変えることはできない。
「……ここら辺が潮時かしらね……」
そして私は銃を下ろしてしまった。戦う意識を失ってしまった。
また―――諦めてしまった―――
「おいっ! なにしてるんだ間宮っ!!」
「間宮さん諦めないでくださいっ!!」
もう、彼らの声もよく聞こえない。目は開いているはずなのに目の前が真っ暗になっていって。このままじっとしていれば楽になれるんだと思った。……思ってしまった。
「間宮殿っ! 諦めるのはまだ早いでござるよっ!!」
私の目の前まで迫ってきていた二人の執事が横へ吹っ飛ばされた。
「えっ?……なに? どうなってるの?」
「ジョー、スタングは後ろの牽制、あわよくば撃破。リーとサンダースは前方の敵の各個撃破」
「「「「ラジャー!!!!!」」」」
いきなり現れた軍服の衣装を着た集団が近くにいる執事とメイドを撃破していく。状況が呑み込めていない私は、何もできずにただ座り込んでいた。九重と桜ちゃんも突然のことに動きを止めている。
「間宮殿。遅れてすまなかった」
「山中っ。あんたどうして」
「すまぬ、全員集合に時間がかかってな」
軍服を着た山中が私の横に現れた。
「それよりアイツらは誰よっ」
「彼らは我が同士。サバゲー仲間だ」
サバゲーについて何の知識もないが、軍服を着ていたり、銃を持っていたり、口調から恐らくサバイバル戦闘を行う仲間、といったところだろうか。
「それより間宮殿。指示を、我らに勝つための指示を」
「上等っ。アイツらも扱き使うわよ」
「了解だ、間宮殿」
諦めかけた戦いが、諦めなくてよい戦いに変わり。私はまた動き出す。




