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ホームレス少女  作者: Rewrite
天王寺奏編
61/234

26話

 次の日、作戦決行の朝が来た。

 緊張からか、少し早く目が覚めてしまって時刻はまだ朝の六時、外はやや明るくなってきているくらいだ。

 もう一眠りしようにも目はもう完全に覚めきっていて、とても眠れそうにない。それならもう起きてしまおうと体を起こし、軽く腕を伸ばし、体を解す。

 そのまま視線をしたに下し、まだ眠っている二人の少女を見る。布団が足りないという理由から同じ布団で寝た奏ちゃんと桜ちゃん、二人はまだ幸せそうに眠っている。起こすのも悪いので、僕は一人台所へと向かう。

 といっても、何もすることはない。朝食を作るにしても早いし、追われている身でむやみに外に出るのは危険だ。つまり僕にできるのは今日の作戦に備えて何もしないことだ。

 この後のことを思うと正直、胃が痛くなる。本当に時間稼ぎの囮をこなせるのか、翔君たちは安藤さんを助けられるか、奏ちゃんを幸せにできるか、安心できることはないのに、不安なことはたくさんだ。

 でも、不思議と今日の作戦が失敗するという想像ができない。不安材料はたくさんあるはずなのに、成功する未来しか見えない。

 それはきっとみんながいてくれるからだろう。翔君、間宮さん、広志君、奏ちゃん、桜ちゃん、そして今日の作戦には参加しないけど彼方ちゃん。僕はいろいろな人に支えられている。だからきっと大丈夫だ。

 そんな思考に耽っていると、あっという間に時間は過ぎた。最初に桜ちゃんが起きてきて、もう習慣なのかメイド服に着替え、(もちろん、その時僕は外に出てました)その少し後に奏ちゃんも起きてきて、今日の作戦に気合を入れていた。

 さあ、僕も頑張ろう。



 少し早めの昼食を取り、みんなが来るのを今か今かと待つ。しばらくしてみんなが来た。


「広志君、どうしたのその荷物」


 みんなの姿を見ると、なぜか広志君だけ大きなバックを背負っていた。間宮さんと翔君は今日の作戦に備えて動きやすい服で来ているようで、その他には特に目立って何かを持ってきていない。いつものように携帯や財布だけだろう。その点広志君服装は動きやすそうな服ではあるが、大きな荷物は正直動くのに邪魔そうだ。


「ふふっ。主君、少し待たれよ。まだ時は満ちておらん」

「ほっときなさい佐渡。あんたにもアホがうつるわよ」


 広志君は今日もエンジン全開のようだ。でも、本当に何が入っているんだろう。


「とりあえず上がってよ」

「おう。邪魔するぜー」


 翔君を先頭にみんなが家に入ってくる。そのまま居間に足を運び、この人数では大分狭い居間に全員で座る。そして最後の打ち合わせとして作戦会議を始めた。


「じゃあとりあえず最終確認ってことで作戦の説明をするわよ」


 間宮さんが司会を務めて作戦会議が進行していく。みんな自分がどう動くか、こうなった時はどうするか、こうならないようにどうするのか、各々確認して、最後の確認を済ませている。

 ちなみに僕の確認事項は特にない。僕らがするのは囮、気を付けることと言えば、完全に逃げ切らないで常に相手の視界にあること、捕まらないこと、そしてあわよくば屋敷からの距離を離すことだ。それ以外に僕にできることはせいぜい成功を祈ることぐらいだろう。

 そして三十分ほどで最後の作戦会議は終わり、いよいよ作戦本番になる。ここから僕たちは二チームに別れ、それぞれの任務を全うする。

 始めよう。僕らの戦いを―――



 僕と奏ちゃんは今、街を適当にふらふらと歩いている。といっても周囲の警戒は怠っていない。僕らの最初の仕事は追手に見つかることだ。見つからなければ、作戦は開始されない。間宮さんたちも今、桜ちゃんの案内の元、奏のお屋敷へ向かっているはずだ。


「奏ちゃん、いる?」

「いないわね。なによ、見つかりたくないときには見つけてくるくせにこういう時には見つけられないのね。もっと私を全力で探しなさいよ」


 周囲を警戒しながら適当に辺りを練り歩く。ただ歩いているだけだというのに緊張からか少し汗ばんできた。奏ちゃんの方を見ると、奏ちゃんも緊張しているのかいつもより険しい顔をしている。


「奏ちゃん」

「なによ。口を動かしてる暇があったらちゃんとアイツラ見つけなさいよ」


 素っ気ない態度で奏ちゃんは返事をした。そんな彼女に僕は……


「今日の作戦絶対成功させようね」


 すると奏ちゃんは少しだけこちらを向いて好奇心を抑えきれない子供のような顔で

「当たり前よ。失敗なんてありえない。そうでしょ佐渡」

 と、僕に問いかけた。僕の答えは決まっている。


「もちろんだよ。奏ちゃん」

「もしもの時は私を守るのよ」

「もしもじゃなくても君を守るよ。全力で」


 少ないやり取りを交わした僕らは再び周囲の警戒を始める。


「いたわっ。佐渡あそこよっ」


 奏ちゃんが少し離れたところにいるメイドさんを発見した。しかし、このまま見つかる距離まで近づくのは危険だ。下手をするとそのまま捕まってしまう。だから僕はかなり大げさに声を出した。


「奏ちゃんっ。あそこにメイドさんがっ。逃げよう」


 僕の叫び声に近い声に遠くにいたメイドさんが反応した。そして僕らの姿を確認するなり、無線で他の人に報告しながら僕らを追いかけてきた。僕の方も追いかけられているのを確認してからポケットの携帯で間宮さんに連絡を取る。三コールもしない間に間宮さんは出た。


「作戦開始かしら?」

「うん。もう追われてる」

「わかったわ。こっちのことは任せなさい。絶対安藤さんを助け出すから。だから佐渡は絶対に捕まるんじゃないわよ」

「わかってる。絶対に成功させるよ」

「そう。じゃあ切るわね」

「うん」


 短い会話が終わり、大勢の鬼対逃げる側二人の絶対に負けられない鬼ごっこが始まった。




「作戦開始か?」


 私の元に電話があったことから察したのか、全員が私の方を向き、代表として九重が口を開いた。


「ええ。今見つかったって。だから私たちも五分後には屋敷の中に突入するわ」

「わかったぜ」

「わかりました」


 私たちは今、屋敷の敷地内に身を潜めている。桜ちゃんが逃げる時に使ったという抜け穴を利用し、敷地内に潜入した。そして連絡が入るまで待機していた。

 ちなみに山中は今ここにはいない。佐渡たちと別れた後すぐに「拙者は少し用事があるが故後から合流するでござる。バックの中の物は好きに使ってくだされ、大丈夫、実弾ではないでござるから。ではっ」と、一方的に捲し立て、どこかへ行ってしまった。

 追いかけようかとも思ったが、佐渡たちが見つかってすぐに突入できるようにしておきたかった私は、山中に来るときに連絡をよこすようにメールを送って、とりあえず山中を無視することにした。

 山中が好きに使っていいと言ったバックの中にはたくさんの武器が詰まっていた。私はよく知らないがエアーガンという鉄砲のまがい物からメリケンサック、長い棒、鞭など、どこで調達したのか気になるようなものまでバックの中いっぱいに詰まっていた。

 しかし、全部を持っていくと逆に向こうで動きにくくなるのはわかっているので、佐渡の家で最小限の装備だけ借りることにした。九重はメリケンサックとエアーガンを一丁、私は鞭と牽制用の伸縮機能付きの棒と軽そうなエアーガンを、桜ちゃんはエアーガン二丁と他にも持てる限りのものをいろいろと選んでいた。

 実弾ではないと言っていたエアーガンの中はきなこ弾のようで目くらましに使えそうだ。アイツにしてはいい仕事だと思う。これで作戦の成功率がかなり上がるはず。


「そろそろか、間宮」

「そうね。行きましょう」

「はいっ」


 私たち三人の戦いが始まった。




「はあ、はあ、はあ」

「なに? もう疲れたの? まだまだこれからよ」

「わかってるよ。まだぜんぜん走れる。むしろ走り足りないくらいだよ」

「上等ねっ。なら、もっと速度あげましょうっ」

「オーケー。遅れないでよ」

「誰に言ってるの。私は天王寺家の天王寺奏よ。あんたみたいな庶民に後れを取るわけないでしょ」


 どうにか捕まることなく逃走を続けている僕と奏ちゃん。息も少しあがってきているものの、まだまだ十分に余力を残している。曲がるときに後ろに目を配ると、二人の執事と一人のメイドさんが僕らの後ろを一定の速度でキープしていた。おそらく応援が来てから少しずつ僕らを追い込むために、今は僕らを見失わない程度に様子見というところだろう。ここまでは間宮さんの言うとおりだ。

 今回の作戦に至って僕と奏ちゃんはいくつか間宮さんからの指示とアドバイスを受けている。その中に「最初は応援が来るまで相手も様子見程度で後ろをついてくるだけだから怪しまれないくらいの速度でゆっくり走りなさい」ということが含まれていた。

 そのため、僕と奏ちゃんは軽いウォーミングアップのような気持ちで走っている。


「もうそろそろ、大通りに一回で出ようか」

「そうね」


 そして、小道や裏道だけを使わずに適度に大通りと裏道を使い分けるように言われていた。それにどういった効果があるのかは僕にはわからないが、間宮さんが言うんだから何か意味があるのだろう。僕らは裏道を一旦抜け出し、人通りの多い大通りへと場所を移した。大通りは人が多いため全力で走ることができない。全力で走れば人にぶつかったりする可能性がある。しかし、それは相手も同じで、足が速い人に追われた場合などは大通りを駆使した方がいい。それに相手はメイド服や執事の服といった、目立つ格好なので僕らから視認しやすいが、私服の僕らは相手から見失われやすい。いつもならありがたい状況だが、今日の場合は見失われては困るのでこちらにも注意が必要だ。

 こうやって考えてみると大通りの利点というものがたくさん浮上してくる。間宮さんはこれを予想して僕にこういった指示を出したのかもしれない。


「佐渡、少しペース早いんじゃない? アイツら追いついてこれてないわよ」

「えっ? うそっ!?」


 奏ちゃんに言われて後ろを振り返ると、だいぶ離れたところに三人は固まっていた。どうやら少しペースを落とす必要があるらしい。


「これなら余裕そうね佐渡。まあ、私にかかればこんなものよね」


 奏ちゃんが余裕そうに、それでいて嬉しそうに頷いている。


「奏ちゃん。私たちの間違いじゃない?」


 僕も少し心の余裕が見えたので、普段はあまりしないが、奏ちゃんにちゃちゃを入れてみる。


「そうね。下僕のことを忘れてたわ。私たち庶民とお嬢様が組めば最強よね。これでいいかしら佐渡」

「……」

「なによ、なにかいいなさいよ」

「いや。まさか奏ちゃんが素直に認めてくれると思ってなくて……」

「あんた……私のことどういう性格だと思ってるのかしら……」


 まずい、奏ちゃんのお怒りスイッチが入ってしまったようだ。


「えっと……少し怒りっぽくて、普段は強がりだけど本当は寂しがり屋で、少し素直になれなくて……」

「……あんたねぇ、喧嘩うってんの」

「でも、誰かのために一生懸命になれて、自分のことより相手のことを心配しちゃうような素敵な女の子。だと思ってるよ」

「……」

「どうしたの奏ちゃんっ!! 顔真っ赤だよ! もしかして熱中症!? そこで少し休む!?」

「違うわよっ、バカっ」


 脛を蹴られた。痛い。


「えっ!? 今僕なんで蹴られたのっ?」

「自分で考えなさいっ。それよりほら追いついてきたわよ」

「うわっ! ホントだ。逃げなきゃっ」


 僕は再び奏ちゃんの手を取って走り出した。




「さーて、どこから潜入するよ間宮」

「ちゃんと考えてあるわ。桜ちゃん案内お願い」

「おまかせあれっ」


 いくらメイドや執事のほとんどが佐渡たちの捜索に当たっているとはいえ、屋敷に全く人が残らないとは限らない。桜ちゃんの話では残っても一人や二人だというが、安藤さんを助けに来ることを読まれていた場合、もっと大勢の人間が待機している可能性がる。ないとは思いたいが念のためだ。こういう時は臆病なくらいがちょうどいい。


「ここです。ここの辺りなら窓を割って入っても源蔵様の部屋から離れているので、気づかれないはずです。他のメイドたちのも気づかれにくいはずです」


 桜ちゃんに案内されたのは、お屋敷の裏の住み込みのメイドや執事の寝室が並んでいる辺りらしい。この辺りはメイドたちの仕事が始まってしまえば、夜までほとんど人が来ない、ということなので、ここを選ばせてもらった。


「じゃあ九重ちゃちゃっと窓割っちゃって」

「あいよ。司令官様。これでいいか、せいやっ!!」


 九重は近くで大きめの石を見つけ、それを躊躇ちゅうちょなく窓に投げつけた。強化ガラスでもなんでもない窓がその衝撃に耐えきれるはずもなく、脆く崩れ去った。


「さあ、入りましょう」

「ちょっとまて、まだ仕事は終わってない」

「何言ってるの? ちゃんと窓は割れてるわ……って話聞きなさいよ」


 九重は私の言葉に耳を貸さずに近くで手ごろな石を見つけ、それで窓の上手く割れなかった部分を砕き始めた。


「女を怪我させたくないからな」


 にかっとこちらを振り向き、笑う九重。九重は、がさつそうに見えるが佐渡の次にこういった小さいことに気が利く。顔も一般的に見れば格好よく、体つきも何かの心得があるらしく、筋肉もあり、私たちの中では唯一の武道派だ。今回の作戦でも最前線で活躍してもらうつもりだ。


「見かけによらず気が利くんですね九重さん」

「見かけによらずとかいうなよ」

「すいませーん」


 可愛らしく舌を出しながら九重に謝る桜ちゃん。彼女の戦力的な算段はほとんど立っていない。あったばかりで性格の把握や得意なことがわからないため、あらかじめ何か得意なことはあるのか聞いておいたが、返事は「メイドの仕事で大抵のことは覚えさせられたので、だいたいのことは何でもできます」という、正直どうしようもない返答が返って来てしまった。

 そのためとりあえず桜ちゃんは私と同じく後ろから九重を支援という役目をしてもらうことにした。


「ほら、そろそろ行くわよ」

「おう」

「はいっ」


 窓の中から入り、とりあえず周囲の確認。うん。近くに誰もいない。屋敷の中はドラマで見るような見た目で、床には赤い絨毯。壁には私には価値もわからないような壺やら、絵画がいくつも飾られている。明かりも電球などではなく、ランプで、いかにもお金持ち、という感じだった。


「桜ちゃん。案内よろしくね」

「はい」


 桜ちゃんの話だと、恐らく安藤さんが拘束されているのは奏ちゃんのお父さんの部屋の隣の部屋の可能性が高いらしい。なので、最初の目的地はそこになる。今回の作戦は敵に見つからず、尚且つスピードを求められる電撃戦だ。幸い山中の持ってきた武器もあるので、見つかることを恐れず綺麗に掃除された廊下を全力で走り抜ける。


「そこを……っ!!」


 桜ちゃんの案内で進んでいると、曲がり角から二人の執事が姿を現した。


「やっぱり、少しは人員を増やしてたきたわね」

「間宮どうする」

「二人ならやれるわ。九重お願い」

「任しとけって」


 運よく私たちはまだ気づかれていない。気づかれていない以上安全を取るなら回り道をするのが定石だが、今回は電撃戦。時間を余計に取るわけにはいかない。


「おじゃましてまーすっ」


 九重が執事の一人にメリケンサックを嵌めた拳を叩き込んだ。不意打ちでいいところに当たったのか、執事はすぐに気絶した。


「お……お前ら、なにもの……ってお前はさく……」

「ただいま帰りましたっ」


 もう一人は、いつの間に私の隣からいなくなっていた桜ちゃんが、口の中にきなこ弾を発射してなんなく意識を奪った。


「あららー。お休みですかー」


 どうやら、桜ちゃんの戦力は私が思っている以上に高いらしい。正直、敵じゃなくて本当によかったと思う。


「やるなー、桜ちゃんっ」

「九重さんこそっ」


 二人はハイタッチを交わした。この二人は相性もいいらしい。


「これならこの屋敷にある程度の人数が残っていても平気そうね」



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