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ホームレス少女  作者: Rewrite
天王寺奏編
60/234

25話

「なんでっ。なんで安藤が捕まるのよっ」

「佐渡さんを……サポートしているのが見つかってしまいまして……私は安藤さんのおかげでどうにか逃げられましたが安藤さんが……」


 桜ちゃんの言葉に今ここにいる僕を含めたみんなが凍り付いた。

 誰も何も言わない。沈黙が浸透していく。翔君は驚いた顔を、奏ちゃんは悔しそうな顔を、僕はいったいどんな顔をしているのだろう。

 わからない。

 ただ、誰が悪いのかだけはわかる―――


 ―――僕だ―――


 ―――自分で何もできない僕だ

 ―――一人じゃ何もできない僕だ

 ―――そしてなにより安藤さんたちの優しさに甘えていた僕だ


 僕がもっといろいろできたらこんなことにはならなかったかもしれない。僕が一人でなんでもできたらこんなことにはならなかったかもしれない。僕が安藤さんたちに甘えなければこんなことにはならなかった。僕が助ける。君を笑顔にして見せるなんて言っておいて、僕はまた何もできていない。ただ、奏ちゃんの言うことをなるべく聞いてあげて、執事さんたちにみつかったら逃げて、物事の本質から逃げて。時間が解決してくれると信じて。僕は……何もしていない。何もできていない……

 悪いのは―――僕だ―――


「佐渡さん……助けてください……」


 でも、今はそんなことを考えている時間じゃない。そんなことを考えていても安藤さんは帰ってこない。桜ちゃんは笑顔になれない。奏ちゃんを家に帰してあげられない。

 今、考えなきゃいけないのはどうやって安藤さんを助けるかだ。


「任せてっ」


 特に作戦なんてできていない。正直助け出せる自信もない。

 でも、やらなくちゃいけない。やらないといけないんだ。


「誠也ちょっといいか」


 ない頭なりに思考を働かせようとしていると翔君が口を開いた。


「作戦を立てる前にまずは間宮たちを呼ぶぞ」

「えっ? でも、そんな時間は……」

「はいそれ嘘っ。お前どうせ僕が一人でどうにかできればこんなことにはならなかった。とか考えてるだろ? でもな、それは違うぜ誠也。俺らだって話を聞いていたのに何もしてやれなかったんだ。俺たちも同じだ。だからよ、俺らを友達だと思ってくれているなら俺らを頼れよ、俺らにも罪を背負わせろ」

「……翔君」

「そうよ。私だって知ってて安藤と桜に甘えてたんだもの私だって悪いわ。それにここら辺でいつものお礼ぐらいしとくのも悪くないと思うし」

「だからよ」

「私たちも」

「頼れよ(なさいよ)」


 翔君と奏ちゃんが僕に手を差し伸べている。僕はその手を二人の手を取った。協力してもらうことにした。だって、僕は一人じゃ何にもできないから、みんながいて初めて僕が僕らしくあれるから。だから、今回もみんなの手を借りよう。みんなで解決しよう。僕にはこんなに頼りになる友達がいるんだから……

 そして今からでも遅くない、奏ちゃんを幸せにしよう。


「わ、私もやります。手伝わせてください」


 泣き崩れていた桜ちゃんもゆっくりと立ち上がり、手を取った僕の手を上に自分の手を重ねた。それは自分も戦うという意思の尊重だった。


「みんな……ありがとう」


「気にすんな」

 翔君はいつものさわやかな笑顔で

「一緒に安藤さんを助けちゃいしょーう」

 桜ちゃんは元気に

「ふんっ。そのかわりこの件が片付いたらサッカーよ」

 奏ちゃんはぷいっとそっぽを向きながらも嬉しそうに

 そんなみんなの事を見て僕はもう一度言った


「ありがとう」


 ―――その一言を―――



 しばらくして間宮さんと広志君が家に来た。というよりは来てもらった。時間がないので早速上がってもらって端的に事情を説明する。


「なるほど、とりあえず、安藤さんっていうメイドさんを奏ちゃんのお父さんから取り戻したいと、そういうわけね」

「うん」


 間宮さんは僕の舌足らずな説明でだいたいの事情を察してくれたようだ。顎に手を当て、考える姿勢を取っている。その姿はとてもきれいで、僕の言葉で表すとしたら、絵になる、といった感じだ。

 そして何かを考え付いたのかゆっくりと顎から手を離し、凛とした姿勢で僕らに向き直った。僕らは何かの作戦が出来上がったのだと少し緊張が奔り、顔を強張らせた。


「まずは班を二つに分けましょう。といっても実質、班は決まってるけど」

「どういうこと?」


 間宮さんのいきなりの発言に頭が追い付かず質問をする。


「安藤さんを助けるにはどうやっても奏ちゃんのお屋敷に潜入するしかないわ。でも、普通にいったらとても無謀な作戦よ、もはや作戦とも呼べない」


 間宮さんは僕らにもわかるように一から説明を始めてくれた。


「桜ちゃん、お屋敷にはどれくらいの人がいるの?」

「えーと。だいたい五十人くらいですかね」

「それで、誠也たちを見つけた時にはどれくらいの人がそっちに回るの?」

「ほとんど全員です。残っても二、三人ですね。あ、そういうことですか」


 桜ちゃんは間宮さんの作戦がわかったのか一人わかったように頷いた。間宮さんも自分の作戦が可能か不可能かがわかったのか小さく首を縦に振り、再び思考を巡らせている。おそらく自分の作戦に不備がないかを確認しているのだろう。それぐらい間宮さんは慎重な人だ。しかし、さっきの話だけでは僕には間宮さんの作戦が理解できない。翔君たちもそれは同じようで痺れを切らしたのか今度は翔君が口を開いた。


「なんだよ。俺らにもちゃんと説明してくれよ。なあ広志」

「うむ、作戦がわからねば拙者の自慢の忍術も披露できん」


 んー。やっぱり広志君はいつも少しずれてるなー。

 まあ、場の空気が和むし、それが広志君のいいところなんだけど


「たぶん、間宮さんの作戦はお嬢様と佐渡さんを囮にした潜入作戦です。ですよね間宮さん」

「ええ。正解」

「つまり、主君と奏殿が追われている間に拙者らが敵の本丸に乗り込むのでござるな」

「そういうこと」


 桜ちゃんの話だと僕らが追われている間、奏ちゃんのお屋敷では僕らを追うためにメイドさんと執事さんのほとんど全員がお屋敷を出る。その隙間を狙って翔君たちが潜入して安藤さんを助ける。っといった作戦が間宮さんが立てた作戦らしい。

 ただ、この作戦も十分危険な作戦だ。


「でも、その間佐渡さんたちは約五十ものメイドたちに追われるんですよ。どう考えても無理ですっ」


 そう。翔君たちが安藤さんを助けるまでの間、僕らは常に相手を引き付けていなければならない。逃げ切ってもいけない。捕まってもいけない。そして桜ちゃんたちのサポートもない。

 今までも桜ちゃんたちのサポートがあったから逃げ切れていたような包囲網を自力で切り抜けなければならないのだ。

 それに気づいた桜ちゃんが僕らを心配して間宮さんに抗議を始めた。


「出来るわね佐渡」


 間宮さんが僕を見た。

 その眼は僕の意志と覚悟を確かめるような目で、もちろん僕も最初から答えは決まっている。


「もちろん。任せてっ。全力で囮をやってみせるよ」


 この返事以外ありえない。


「佐渡さんっ」

「大丈夫、僕を信じて桜ちゃん。奏ちゃんは僕が守るから、絶対に幸せにして見せるから」

「「「……」」」


 みんなが一斉に黙り込んだ。

 奏ちゃんに至っては顔を真っ赤にしながら僕から全力で顔を背けている。


「あんたの助けなんていらないわよっ」

「いたっ」


 何故か脛を全力で蹴られた。


「主君はときどき本当に恥ずかしげもなくすごい発言をするからすごいでござるな」

「ホントな(ね)」


 僕が奏ちゃんに蹴られ続ける中、誰も止めてくれる人は居なかった。


「じゃあ作戦は明日のお昼に決行。十時までにここに集合、いいわね」


 間宮さんの閉めの言葉で作戦会議は終わった。




「佐渡さーん。お風呂掃除おわりましたー」

「うん。ありがとー」


 間宮さんたちが帰り、今僕の家にいるのは僕と奏ちゃんと桜ちゃんの三人だ。なぜ、桜ちゃんが家にいるのかというと、桜ちゃんは奏ちゃんの家に住み込みで働いていたらしいので、帰る家がなかった。会議が終わった後、桜ちゃんについての相談をして間宮さんが「女の子だし佐渡の家も三人は狭いでしょ? 桜ちゃん家に来る?」という提案が出されたのだが、桜ちゃんが「いえ、有難い言葉ですが今回は遠慮します。佐渡さん、私も泊めてください」と、主張し、間宮さんの意見を拒否。奏ちゃんも「狭いから間宮のところに泊めてもらいなさい」とお嬢様命令を使ったのだが、「いくらお嬢様の命令でもそれは聞けません」とこれも拒否。最後に僕からも一言言ったのだが、「お嬢様はよくて私はダメなんですか?」という言葉とうるうるとした目で僕はいとも簡単に論破されてしまった。


「佐渡、もう泊めてあげなさいよ。この子何言っても聞かないわよ」


 間宮さんももうお手上げのようだ。間宮さんでダメなら僕にどうすることもできるはずがない。奏ちゃんはまだ桜ちゃんが泊まるのに反対のようだが、ここは我慢してもらおう。


「わかった。こんな狭い家でいいなら泊まっていいよ桜ちゃん」

「ホントですか!!」

「うん」

「ありがとうございます。この恩は体でお返ししますね」


 僕の言葉がそんなに嬉しかったのか、桜ちゃんはメイドの仕事で慣れているのか綺麗に腰を折り、僕に向かって一礼をした。正直ここまでされると僕が逆に困る。

 それにしても桜ちゃんは本当にいい子だと思う。確かに無理を言って泊めてもらう身であるとはいえ、体で恩を返すなんて本当にできた子だ。


「ちょっ!? 何言ってるの桜っ」


 奏ちゃんが突然大きな声を出す。


「どうしたの奏ちゃん?」


 よくわからないがとにかく怒っているようなのでとりあえず理由を聞こうと奏ちゃんと桜ちゃんの間に入って喧嘩にならないようにする。


「どうしたのって……あんたねっ」


 奏ちゃんがなんで怒っているのかわからない僕は助けを求めるべく、翔君たちに目を配った。しかし、翔君は我関せずでマンガを読んでいて、間宮さんは特に気にした様子もなく、ただただ事の成り行きを見守っている。広志君はスマホを手に何やら奮闘していて助けてくれそうにない。この際当事者である桜ちゃんでもいい、と後ろを見るとにこっ、と笑うだけだった。


(どうしよう)


 結局誰も助けてくれそうにないので、とにかく奏ちゃんの怒りを収めようと慎重に言葉を選んで口を開いた。


「とにかく落ち着いて。そうだホットミルクを飲もう。それからゆっくり話そう。ね?」

「子ども扱いするなーっ!!」


 しまった。言葉を間違えたようだ。


「あんたねー。桜の言った意味わかってるの?」

「えっ? わかってるつもりだけど……」


 桜ちゃんの言った意味。泊めてもらう代わりに体で恩を返すという彼女の言葉の意味。そんなの一つしかないと思うのだが、奏ちゃんは僕に問う。眼もわかってるなら早く言いなさいよ。と僕を攻撃している。なので、これ以上怒らせないためにも僕はその問いを述べた。


「だから。泊めてもらう代わりに僕の仕事を手伝ってくれるって話でしょ?」


 僕が言葉を発した瞬間、目の前の奏ちゃんが凍り付いた。自分が変なことを言ってしまったのかと思った僕は翔君たちにも目を配る、そうすると、みんな「そうだよなー」という目で僕を見ていた。桜ちゃんも若干残念そうな顔を見せた後、すぐに翔君たちと同じ目になった。

 えっと、僕はなにか間違えましたでしょうか?


 これが桜ちゃんが家に泊まることになった事の顛末てんまつである。

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