15話
「それで奏ちゃん。これはどういうことなの? なんでこんな時間にこんなところに、お父さんと仲直りできたんじゃないの?」
顔をあげて、奏ちゃんに向き直る。奏ちゃんも顔をあげて僕を見た。
「わかるでしょ。あんたを信用してお父様と話そうとしたら、お父様は私と話してくれなかった。私よりも仕事を選んだの」
「そ……そんなっ。なんでっ!」
わからない。僕にはなんで奏ちゃんのお父さんが奏ちゃんと話してくれなかったのかが全くわからない。
普通なら娘が大事な話があるって言ったら仕事を無視してでも娘を優先するのが親ってものなんじゃないのか。
確かに常にそうしろって言うのに無理があるのはわかる。でも、家を飛び出してまで聞いてほしい話のなのに、それよりも仕事を優先したって言うのか。
いや、今考えなきゃいけないのはこんなことじゃない。
僕のせいで辛い思いをさせてしまった奏ちゃんに今の僕に何ができるか、今考えるのはそこだ。
「ごめん奏ちゃん。……僕の考えが甘かったよ」
「いいえ。佐渡のせいじゃないわ。悪いのは全部お父様よっ。私は努力したわ。ずっとお父様の傍にいてお父様の休憩を待った。そしたら何て言ったと思う? 「仕事の邪魔だから自分の部屋に戻りなさい」って言ったのよ! 私がどうして最近家を飛び出しているのかも、私が話したいことも一切聞かないで私を追い出したのっ!」
ダメだ。このままではずっと奏ちゃんはお父さんを嫌いになってしまう。それだけは絶対に避けなくてはならない事態だ。でも、僕にはなんでお父さんが奏ちゃんの話を聞いてくれなかったのかが、全く理解できない。
だからどうしたらいいのか、何をしたらいいのか、奏ちゃんに何て言ってあげたらいいのかがわからない。
僕が何をするべきか考えていると、奏ちゃんが口を開いた。
「ねえ、佐渡。私の言ってること何か間違ってる? こんなことを望むのはいけないこと?」
違わない。答えは確かに出ている。
でも、今の僕にはそれを証明できるだけの言葉がない。
今ここで適当な言葉だけを並べて奏ちゃんに「違わない」って言ってあげるのは簡単だ。
でも、それじゃあダメだ。
もしそれで「じゃあどうして私の話をお父様は聞いてくれなかったの?」と、聞かれたら何も答えられない。
少し時間が欲しい。考えるだけの時間が。
「……佐渡、変なこと聞いて悪かったわ。今の忘れなさい。私……行くわ」
そう言うと、奏ちゃんは落ち込んだ背中で僕から離れて行った。
何も言ってあげられない自分が情けない。
何もしてあげられない自分が本当に情けない。
でも、それでも僕はこの子を、奏ちゃんを放っておけないんだ。
「奏ちゃんっ!」
気づけば僕は大声で奏ちゃんを呼び止めていた。
「わっ! なによ佐渡。急に大声出して。驚くじゃない」
「僕は君を放っておけないっ。今の僕には何もできない。何もしてあげられない。正直、なんで君のお父さんが君の話を聞いてくれなかったのかわからないっ」
我ながら何を言っているんだと思う。
それでも今ここで何かを言わなきゃ後悔する気がする。奏ちゃんを呼び止めないと後悔する気がするんだ。
「だからっ、少し僕に考える時間をくれないかな? 最後にはちゃんと君を本当の笑顔で笑わせて見せるからっ!」
「ふふっ。……あはははははっ。何よそれっ。告白じゃないんだから。面白い、面白過ぎるわ佐渡っ。いいわ。そこまで言うなら私をその本当の笑顔とやらで笑わせてみなさいよ」
「うんっ!任せてよ」




