16話
「ここがあんたの家?結構大きいじゃないの」
「いやいや、全部じゃないよ。あの一部屋だけ……」
「そうなのっ!? すごい狭いじゃないっ」
「ご……ごめんね」
「うっ……悪かったわ……しばらく住まわせてもらうんだもの文句は言わないわ」
「……ありがとう」
僕らは一旦僕の家に戻ってきた。あのまま立ち尽くしていてもどうしようもないし、あの場所でずっととどまっていて、執事さんたちに見つかってしまっては元も子もない。だから少なくとも場所を移動する必要があった。それでどこに行こうかという話になって、二人とも朝食がまだだったのを二人のお腹が同時に鳴って思い出し、朝食を取るべく僕の家に来た。
「ちょっと待ってて。簡単なものだけど作るから」
「ふーん。佐渡って料理とかできるのね。意外だわ」
「まあ。人並みにわね。大学入ってからずっと1人暮らしだったし」
口を動かしながらもしっかりと手を動かす。もう少し料理が上手い人だと顔を逸らしながらでも調理をできるらしいが、今の僕にはこれが限界だ。
「できたよー」
適当に作った朝食をテーブルの上に並べていく。今日の朝食はごはん、味噌汁、目玉焼き、お浸しだ。本当なら奏ちゃんはお客様なので少し見栄を張った料理を出してあげたかったのだが、2人ともお腹が空きすぎて限界間近だったので、簡単なものにさせてもらった。
テーブルの上に2人分の朝食を並べ終わり、エプロンを外してからいつもの場所に腰を下ろす。
「んっ? どうかしたのかな? 嫌いなものでもあった?」
朝食を並べてから奏ちゃんの様子が少しおかしい。一品一品をじっくりと見つめていて、なんというか初めて見るものを見るような目をしていた。
そういえば、奏ちゃんの親しみやすい性格とまだ子供だという思い込みから忘れ気味だったが、奏ちゃんはお嬢様だ。もしかしたら僕が普段食べているようなご飯は口に合わないのかもしれない。カフェの時もカプチーノの匂いを嗅いで何かを判断していたみたいだし、調理済みの料理を見て、何かを見ているのかもしれない。自然と肩に力が入る。僕はそこそこ料理はできる方だけど、決してうまい方ではない。
(どうしよう。奏ちゃんの口に合わなかったら)
1人不安になっていると、奏ちゃんが「いただきます」と言ってから一品一品を一口ずつ食べていった。
「奏ちゃん。口に合わなかったら無理しなくても……」
不安に耐え切れず、口を挟む。
「おいしいっ。佐渡っ! あんた料理上手いのねっ! お父様を懲らしめたら家のシェフにしてあげてもいいわよ」
「えっ?」
予想の斜め上どころか真上過ぎる言葉に思考が停止する。
「なによ。へんな顔して。私が褒めてるのよ。もっと喜びなさいよ」
「ごめん。てっきり口に合わなかったのかと」
「そんなわけないじゃない。そこらの下手なシェフよりおいしいわ」
「そ、そんなことないよ」
「私が言ってるんだからそうなのっ!」
ここまで言われると流石に照れる。今まで何回か料理を食べてもらっておいしいと言ってもらったことはあるけど、ここまで言われたことはない。しかもそれがお嬢様となればなおさらだ。今までにおいしいものをいくらでも食べてきているはずなのに、その中でもおいしい方だと言われれば、僕だって嬉しい。
「佐渡っ。これっ! 味噌汁だっけ? もっとよこしなさいっ。大至急よっ」
勢いよく味噌汁用のお椀を僕に差し出してくる奏ちゃん。
「うん。ちょっと待ってねー」
お椀を受け取りキッチンに行く僕。なんだか、彼方ちゃんと暮らしていた時のことを思い出す。ついこの間の出来事なはずなのに、大分前の出来事に感じる。もしかしたら僕は誰かのために何かをするのが好きなのかもしれない。
すごく心温まる朝食になった。
「はあー。なんだかすごく久しぶりにおいしいものを食べた気がするわ」
朝食を食べ終わり、僕が食器を洗っている中、奏ちゃんは居間で横になっていた。
「奏ちゃん。食べてすぐ横になると牛になっちゃうよ」
「なによそれ。私は大丈夫よ」
そのまま奏ちゃんはキッチンとは反対の方へ寝返りを打った。
「そういえば、なにかやってみたいこととかある?」
今日は日曜日。時間もまだ早い方だし、この後遊ぶにしても十分な時間がある。それなら奏ちゃんがやってみたいことを優先してあげたい。
「そうねー。昨日のゲームってやつは面白かったわ。でも、今日は体を動かしたいわね」
体を動かすか。そうなると自然と外に出ることになる。それはつまり、奏ちゃんを追う執事達に会う可能性を自分たちで高めることになってしまう。でも、奏ちゃんは体を動かしたいと言っている。自分から言った手前、何もしない、という選択肢はないし、違うことをしないかと要求しても奏ちゃんの性格上気分を害してしまうだろう。
「……しょうがないよね」
諦めと同時にため息を1つ。
「佐渡。私、あれがしたいわ」
洗い物が終わり、エプロンを所定の位置まで戻し、完璧な状態で居間に戻ると、奏ちゃんがテレビを指さした。
テレビでは日曜日のお父さん特集という内容でお父さんたちは休日子供と何をしているのか、という番組らしい。
そして今、テレビの中で行われているのはキャッチボールだ。僕の家にも翔君たちと遊ぶ時に使うのでグローブも、野球ボールもある。翔君たちと遊ぶときは僕の家の周辺で遊ぶことが多いので、自然と遊ぶための道具は僕の家に集まるのだ。
「道具もあるし、いいよ。場所もここから近い場所に良いところがあるしね」
「ホントっ! やっぱ佐渡は違うわねっ。お父様とは違うわっ」
奏ちゃんは全身床に預けていた体を上半身だけ勢いよく起こし、キラキラとした目で僕を見つめた。ここまで期待されると僕も無性に頑張りたくなってしまう。
「じゃあ動きやすい格好に着替えてから行こうか」
「ええっ」




