9話
「ふぁ~。もうこんな時間か……」
次の日、布団から体を起こしたのは朝の時だった。
昨日は彼方ちゃんの家でのパーティーが楽しすぎて、少し羽を伸ばし過ぎたのだろう。
でも、今日は土曜日で大学に行く必要はない。だから別に早起きする必要はないのだけれど―――
「朝の起きる時間が変わるだけで妙に一日の行動がずれるんだよね」
そう。僕はだいたい何時に洗濯して、ご飯を食べてなどの行動を決めているので、朝起きる時間が変わってしまうと、一日の行動が妙にずれてしまう。
今日は特にやるべきことはないのだけれど、性格上少し気分が落ち込んでしまう。
「ダメだ。こんな気分じゃせっかくの休日が台無しだよねっ。今日は外に出かけよう」
気分転換をするのに外に出ることを決めた僕は、起きてそうそう洗濯機に仕事をしてもらい、その間に簡単な朝食の準備、そして洗濯機のお仕事が終わったのを確認して、洗濯物をベランダに干してから、朝食を取った。
朝食を取り終わって現在の時刻は一一時。いつもに比べたらかなり遅い朝の行動だけど、今日ぐらいはいいだろう。
外に出かける前に持ち物を確認して、Tシャツの上に薄いパーカーを羽織ってから、玄関の戸を開ける。
「うん。今日もいい天気っ」
空を見上げ、今日も太陽がキラキラと輝いているのを確認してから玄関から出る。
「とりあえずデパートにでも行こうかなー」
今日は特に目的があるわけではない。なのでもちろん行かなければいけないところもない。本当にぶらぶらと町を歩くだけだ。そしてデパートはこういう時に本当に便利だ。
普通に買い物をするのにも確かに便利なのだが、色々な店があって大抵のものは何でもそろっているので、暇つぶしにも最適なのである。
春の温かく気持ちの良い風に吹かれながら、歩きなれた道を使ってデパートを目指す。けど、今日は少しゆっくり歩いてみたい気分だった。
もう慣れてしまった場所でも、ゆっくり歩いて周りを見ていれば、小さな変化が見られるかもしれないし、いつもは気づかないような小さなことに気づけるかもしれない。そんな散歩気分で道を歩く。
そうしていると、猫が歩いているのを見かけたり、鳥が電信柱に止まっていたりと、いつもは気にもしないような小さな発見がたくさんあった。
そんな小さな出来事を楽しみながら歩いていたら、あっという間にデパート少し手前の道まで来ていた。
「やっぱり、外に出て正解だったな」
青く澄み渡った空を見上げながら、一人そう呟くとお腹の辺りにちょっとした衝撃があった。子供がぶつかってきたのかと上に向けていた視線を下すと、そこにはこの前ぶつかってきた女の子が地面にお尻をついていた。
また、この前のように鬼ごっこかかくれんぼでもしていたのだろう。気を付けるように言ってあげないと。
「大丈夫? けがはない? 僕も悪かったけど、君も今度からは気を付けないとだめだよ」
なるべく優しく諭すように女の子に手を差し伸べる。
「またあんたっ。私の前に出てくるなって言ったでしょ! ……ってやばっ、あんたも来なさい!」
「え?」
ただ優しく注意するつもりが、なぜか僕の方が怒られ、そして突然女の子に手を掴まれ、そのまたなぜか一緒に走ることになってしまった。
「ちょっとあんた、後ろから誰か来てないっ?」
女の子が焦った様子で僕にそう尋ねてきた。言われた通り走りながら後ろを見ると、そこには黒服でサングラスをかけた男たちが二人ほど僕らの後ろを追って来ていた。
近所の子供と鬼ごっこでもしてるのかと思ったけど、お兄ちゃんか誰かとしてたのかな? 少し変な格好も雰囲気づくりかもしれない。
「黒服の男の人が二人いるけど、君の知り合い?」
勝手に決めつけるのも変な気がするので、一応女の子に確かめてみる。
「違うわ。あれは敵よ。私は追われてるのっ」
聞いては見たものの、よくわからない返事が返ってきた。今の返事では本当に知らない人で一緒に遊んでいるだけなのか、それとも兄妹かなんかだけれど、今は鬼ごっこで敵と言っているのか判断が付かない。
ここで僕にもう一つの選択肢が訪れた。それは―――
もしかして―――この子は今誘拐されかけているんじゃないか―――
という考えだ。
この考えだとあの追って来ている二人が黒服でサングラスをかけているのが、誘拐するのに顔を見られたらまずいという風に考えられるし、この子があわてて逃げているのにも頷ける。
それに後ろの二人はさっきから全く喋っていない。それは不自然じゃないだろうか。
鬼ごっこなら普通「まてー」なり「見つけたぞー」なりの掛け声があるものではないだろうか。少し女の子にゆっくり話を聞く必要がありそうだ。そうなると……
「あの二人を撒ければいいんだよね」
「そ、そうよ」
「よしっ」
あの二人を一旦振り切る必要がある。
今まで女の子に引っ張られるように走っていたが、今度は僕が女の子を引っ張っていくように前に出る。
足もさっきより少し早めた。早めたといっても、ペース事態は女の子にしっかり合わせている。女の子は僕よりも前から追われて走ってたみたいで、目に見えて疲れが見える。なるべく早めに振り切ってあげる必要がありそうだ。
一旦後ろを振り返って、僕らと黒服たちの距離を確かめると、まだ結構距離は離れている。
けど、息は荒くないようだ。相手の体力切れを待つのはダメなようだ。
「ならっ」
僕らは適当な角を曲がった。適当といっても行き止まりになるようなところは使っていない。
何度も角を曲がって曲がって曲がった。そして一旦大通りに出て後ろを振り返ると、そこに黒服たちの姿はなかった。
どうやら上手く撒くことができたらしい。
「上手く黒服の人たちは撒けたみたいだよ。大丈夫?」
「あ、当たり前でしょ。あたしを誰だと思ってるのよ……あと、よ、よくやったわ……」
膝に手を当てて、深呼吸を繰り返しながら女の子が答えた。
「それでさ。あの人たちは誰なの?」
黒服の人たちを撒くことに成功したので、女の子に早速質問をぶつけてみる。答え次第でこの後の僕の行動は変わる。誘拐犯なら警察に行って報告するし、ただ遊んでいただけなら今度からは人にぶつからない様に注意をしてから安心して去ることができる。
「さっきも言ったでしょ。あいつらは敵よ」
もう、息も整ったのか女の子が膝から手を離し、僕の顔を見据えてそう言った。
「えっと。知り合いなのかな?」
「そんなことより喉が渇いたわ。なにかおごりなさいよ」
どうやら人の話を聞くのが苦手らしい。その上これ以上の話は何か飲み物を奢らないと話してくれないようだ。
「わかった。あそこのカフェでいいかな?」
「どこでもいいわ」
「じゃあそこで」
こうして僕と女の子は近くのカフェへと向かった。




