8話
「なにしましょうか? 佐渡さんはなにかしたいものありますか?」
机の引き出しから取り出したトランプをシャッフルしながら彼方ちゃんが僕にそう尋ねてくる。
「んー。二人でやるとなるとババ抜きは面白くないし、七並べも同じようになっちゃうよね」
「そうですよね。トランプってあんまり二人でやるのに向いてない気がします」
お互いに何をしようか考え始める。
まず、前提条件は二人でもそこそこ楽しめるゲームというものだが、さっきも言った通りトランプのメジャーなゲームは二人でやるのに向いていない気がする。
僕が何かいい案はないかうなり声をあげていると、彼方ちゃんが可愛らしく手をポンとたたいた。
「ブラックジャックとかどうですか? あれなら二人でも楽しめますよね?」
「ブラックジャックか。確かにブラックジャックなら二人でも楽しめそうだね。やろうか」
ブラックジャックとは簡単に説明してしまうと、トランプのカードをお互いに引いていって、より手持ちのカードの合計数が二一に近い方が勝ちになるというゲームだ。
このゲームなら二人でも運が絡むゲームなので、純粋に楽しめそうだ。
早速、彼方ちゃんがシャッフルしてくれたトランプの山を二人の真ん中に置いて順番にカードを引いていく。
「四、八、二か」
彼方ちゃんに聞こえない様小さな声でつぶやく、三枚引いたところで僕の手持ちの数字の合計数は一四。まだ引いても大丈夫そうだ。
彼方ちゃんの方をこっそり盗み見ると、思案顔になりながら、手持ちのカードを確認している。おそらく次にカードを引くか引かないか悩んでいるのだろう。
そして彼方ちゃんは決心するように顔を上げると「引きますっ」と、宣言してから山からカードを一枚引いた。
結果が良かったのか、彼方ちゃんが小さく息を漏らす。
「じゃあ僕も引くね」
「はい。どうぞ」
彼方ちゃんの返事をもらい、僕も山からカードを一枚引く。
引いたカードは四。これで僕の手持ちの合計数は一八になった。
これ以上はちょっと危なそうだな。僕はそう見切りを付け、これで手札を完成させた。
「彼方ちゃんはどうする?」
「う……ひ……引きますっ」
少し悩んだ末にもう一回引くことにした彼方ちゃん。
山から一枚とって、手札に加える。瞬間すごい笑顔になった。どうやら手札が納得のできるものになったらしい。
「それじゃあいいかな」
「はいっ」
「「せーのっ」」
僕と彼方ちゃんは二人同時に手持ちのトランプを目の前に出す。
僕のカードの合計数はもちろん一八。彼方ちゃんの方はというと―――
「すごいね彼方ちゃんっぴったりじゃない」
「えへへ。たまたまですよ」
彼方ちゃんのカードの合計数は今言った通り、二一だった。引き分けになることはあっても、負けることのない最高の点数だ。
何回か繰り返しやっていれば何度か出ることはあるけれど、最初から出せるのは本当に運が良いと思う。
「彼方ちゃんの日頃の行いが良いからだね」
本心からそう思った。彼方ちゃんはいつもいい子で、他人のことを考えられて誰にでも優しくできてしまう素敵な子だと思う。
だから神様もきっと彼方ちゃんのことを少し贔屓してしまったんのだろう。
「そんなことないですよー。そんなこと言ったら佐渡さんの方が私を助けてくれたり、いい行いをしてます。私なんてまだまだです」
「そんなことないよ彼方ちゃんの方が……」
「佐渡さんの方が……」
「「はははっ」」
二人同時に笑い出す僕ら。
さっきまでの変な感じもなくなり、一緒に生活をしていた時のような会話ができた。
「じゃあ続きをしようか」
「そうですね。次も負けませんよー」
やっぱり彼方ちゃんは負けず嫌いなようで、次の勝負も勝とうと意気込んでいる。
そんな相手に遊びだからと適当にやるのはなんか申し訳ない。ここか僕も童心に戻って遊びを全力で楽しみながら勝ちに行こう。
「勝ちましたー」
「……また負けた」
あれからもう一〇回は勝負しているのに勝率がおかしい。僕が勝てているのはよくて五回に一回だ。
神様、彼方ちゃんが良い子なのはわかるのですが、もう少しは僕にも勝たせてください。
そう切に願いながら彼方ちゃんの表情を見る。
いい笑顔で笑っている。この笑顔が見れたのならどれだけこの勝負で負けてもよかったと思えてくるから不思議だ。
「ああ、もうこんな時間。佐渡さん大丈夫ですか?」
彼方ちゃんに釣られて壁下け時計を見ると、時計の針は一一時を指していた。僕は明日が休みだし、まだまだ体力も有り余っているので、問題はないのだが、場所を提供してくれている水無月家の人々や彼方ちゃんは違う。
特に彼方ちゃんのご両親はこれから後片付けもあるだろうし、これ以上居座るのは少し迷惑だろう。
「もういい時間だし、帰らせてもらおうかな」
「そうですか……もう少しいてくださってもいいのに……」
変える提案を出すなり、急に落ちこんでしまう彼方ちゃん。どうして落ち込んだのか考えてすぐにあるところにたどり着く。
彼方ちゃんは落ち込んでいるのではなく、寂しいのだ。
僕が帰ってしまうとパーティーが終わってしまうから。本当の意味でパーティーが終わってしまうから、だから彼方ちゃんは寂しいのだ。
僕もこういったことを感じたことはある。高校の時の文化祭、みんなで時間をかけて作った出し物を披露して、みんなが笑顔で楽しんで、とっても楽しい時間を過ごしていたはずなのに終わりがやってきて、みんなが満足感とまだまだやり足りないという思いに板挟みになりながら、出し物を片付けた。
たぶん今の彼方ちゃんもそう言った感じなのだろう。
ここまでわかって僕にできることは何か。そんなの決まっている。
「彼方ちゃん、今日は楽しかったね。次はどんな楽しいことがまってるのかな?」
「え?」
驚いた顔で僕を見つめる彼方ちゃん。
「今日も確かに楽しかったけど。これからもっと楽しいことがあるはずだよ」
「あっ! ああ。そうですよねっまだまだ楽しいことありますよねっ。はいっはいっ」
少し動揺気味に返事をして返してくる彼方ちゃん。
あれ? もしかして僕の考えが違ったのかな。
「それじゃあ玄関まで送りますね」
「うん、ありがとう」
こうして楽しい水無月家の引っ越し祝いパーティーは幕を閉じた。




