3話
間宮さんに連れて来られたのは、大学から徒歩十五分ほどの場所にある洋服店だった。
「間宮さん、服を買うの?」
「ええ。もうそろそろ冬も終わりだし、いい加減春物の服がほしいからね」
間宮さんはそう言うと何も言わずに店の中へと入っていく。僕も遅れまいと間宮さんの背中を追って中に入った。
そして次の瞬間には後悔をして回れ右をした。
「間宮さんごめん僕ちょっと用事がっ」
「ダーメ。気にしすぎよ。私がいるんだから怪しまれないって」
逃亡を図ろうとした僕の襟首を見事に掴む間宮さん。
振りほどこうにもしっかりと掴まれてしまっていて、少し暴れる程度では全然逃げれない。かといって思いっきり抵抗して間宮さんに怪我をさせてしまったり、嫌われてしまうのはもっと嫌だ。ここはあきらめて大人しく従うことにする。
そしてなぜ僕が逃げようとしたのかというと、なんと言うかその……女性用の下着が置かれていたからである。
確かに間宮さんが服を買うのだから、女性ものの服を売っている店だというのは予想がついたが、まさか下着も一緒に売られているとは思わなかった。
「大丈夫よ。男の前で下着なんて買わないから。それとも私がどういう下着着けてるか気になる?」
「えっ!? いやっ、その、あの、えっと……」
言葉が全く出てこない。何かを言おうと口を開いても言葉にならない言葉が発せられ、思考も浮かぶ前に頭の中ですべて霧散してしまう。
どうしようもなく僕が一人慌てていると、間宮さんがおかしそうに笑った。
「あははっ。冗談よ冗談。……それとも本気で気になるの? 佐渡も男だもんねー」
「もう。からかわないでよー」
「だって佐渡、からかうと面白いんだもの」
からかわれているとわかっていても、こういったことには対処できない。僕からしたらできる方がおかしいとすら思う。
僕はいきなりすべての体力気力を持って行かれてしまったようで大きく息を吐きながら肩を下ろす。
「今日は上から羽織るものを買いに来たの。佐渡は意見を言ってくれればいいから」
「でも、僕ファッションについて何もわからないよ」
「いいの、いいの。思ったことそのまま言ってくれれば」
そういうと間宮さんは慣れた足取りで店の奥へと進んでいく。
僕は落ち着かなくて間宮さんからあまり離れないようにしながら周囲を見渡す。このお店はどうやら大人っぽい服を多く揃えているようだ。この前彼方ちゃんと行ったデパートのお店とは店内の雰囲気も全然違う。
周囲を見回しながらそんなことを考えていると、間宮さんが気になった服があったのか近くの服を漁りだした。
「これどう思う?」
間宮さんが服を自分の体に合わせて僕にそう尋ねてきた。
「似合うと思う」
正直に感想を述べた。
間宮さんが持っていたのはチェックで黒と赤のパーカーで女性ものの服としてはかっこいい部類だと思う。間宮さんによく似合っていて彼方ちゃんと違う大人の雰囲気が漂っている。
間宮さんは可愛いというよりは美人と呼ばれるような人だと僕は思っている。
雰囲気も言葉使いも僕らと同年代だというのに大人っぽくて本当に同年代か疑ってしまたいくらい大人だ。スタイルもスラっとしていて背も高く、僕にとってはちょっとしたお姉さんみたいな存在。それが間宮さんだ。
間宮さんは僕が素直に感想を述べると少しうれしそうに「ありがとっ」と言ってほかの服も合わせ始めた。
それから三〇分ほど間宮さんは服を漁り、何着かを持ってレジへと向かった。
その中には最初に僕が似合ってると言ったパーカーも含まれている。
間宮さんは手早く会計を済ませるとこっちに戻ってきて、「行きましょ」と僕に声をかけて店を出た。
「佐渡ありがとね。いい参考になったわ」
「僕なんかでよかったのかわからなにけど、お役に立てたならうれしいよ」
目的地もなくどこに向うでもなく僕らはただ歩いている。
「この後佐渡はどうするの? もう時間?」
「いや、まだ一時間くらいは暇だよ」
「ならちょっとお茶しようよ」
間宮さんは近くのカフェを指差した。
外から見た感じだとシックな感じのすごくオシャレなお店で、高級店とまではいかないものの高そうなカフェだった。そしてそこは間宮さんにはとても似合いそうで僕にはとても似合いそうにもない。間宮さんに誘われなかったら僕には一生縁もゆかりもないようなお店だった。
僕には似合いそうにないけど間宮さんの提案だ。間宮さんの意見を優先しよう。レディーファーストだ。
そう結論付けそうそうに口を開く。
「うん。いいよ」
「却下」
「えっ!?」
まさかの間宮さんからの突然な却下宣言。
僕は驚き大きく口を開ける。たぶん今の僕はなんとも面白いを顔していることだろう。
「なんで?」
僕は訳も分からず間宮さんに理由を求めた。
「今佐渡私に遠慮したでしょ? 自分はああいうところ苦手だけど間宮さんに合わせようとかそんなところかしら」
間宮さんは僕の心を読んでいるかのような正確な推理で僕の心境状況を言い当てる。
「うっ……」
「やっぱりね。佐渡、あんたのその性格は美点ではあるけど行きすぎちゃ駄目よ。私たちにぐらいは少しは自分の意見を言いなさい。じゃないといつか言わないといけないことが言えなくなちゃうわよ」
「……うん」
「わかったならそれでよしっ。あっちのファミレスにしましょうか」
間宮さんにはかなわないなー。
やっぱり間宮さんは大人だ、僕なんかよりずっと知的でかっこよくて、一人でなんでもできてしまうようなすごい人だ。
そんな人が自分の友達だということ誇りを持ちながら間宮さんの隣に並んでファミレスを目指し歩き出した。




