2話
彼方ちゃんと別れて駅に向かい、いつも通りに電車に乗って大学に着いた。
いつものように講義を受けて、何も変わらない大学生活を送る。
一年学年が上がれば何かが変わるなんてことはなく、本当に何も変わらない大学生活。でも僕はそれを退屈だとは思わない、変化があるということは何かを手に入れる代わりに何かを失うことだと僕は思っている。
たとえば学校でのクラス替えがいい例だ。今まで仲の良かった友達とクラスが分かれて、また新しいクラスメイトと親睦を深めて新しい友達となる。これは失っているわけではないかもしれないが、そのクラスの別れた友達との親交が減るのも事実だ。今までの友達との親交を減らし、新しい友達を得る。学校側からしたら「将来のための人との付き合い方の勉強」ということなんだろうけど、やっぱり日常が変化するのは怖いことだと僕は思う。
「なに思案顔してんだよ、誠也っ!」
後ろから翔君が勢いよく肩を組んできた。
少し痛かったけどこれは翔君なりのコミュニケーションだということを僕はわかってるので抵抗はしない。
「いや、ちょっと、学年一つ上がったのに何も変化はないなって……」
「変化なんてない方がいいだろ。変に変わっちまうくらいなら俺は今のままでいいぜ」
翔君は爽やかに笑いながら僕にそう言った。
「それに良い変化はあったじゃねーか」
「え?」
「彼方ちゃん。越してきただろ」
「あっ! それもそうだね」
変わったことなんてないなんて思ってたけど変わったことはあった。最近いつも一緒だったから気づかなかったけど、確かに僕の日常に変化はあった。
こんなことにも気づかないなんて今日の僕はどうやら少し変なようだ。たぶん心のどこかで今夜の彼方ちゃんとそのご両親とのパーティーが楽しみで思考がすべてそっちの方に行ってしまっているのだろう。
今思うと、今日の講義の内容も全然思い出せない。それぐらい今夜が楽しみなのだ。
そして大きな変化は怖いけど小さな変化はいいものだと僕は思った。
「それより今日は悪かった。どうしても休めなくてさ」
おそらく今日の彼方ちゃんたちとのパーティーのことだろう。
そう察した僕は笑顔で返事をした。
「大丈夫だよ。彼方ちゃんも気にしないでくださいって言ってたしさ」
「でもよ……。あっ! 今度さ、俺らだけでもう一回パーティーしね? 誠也と彼方ちゃんと俺と間宮と広志でさ」
「いいねっ。その案乗った!」
翔君の思いがけない案に僕はすぐに乗っかる。楽しいことはいくらやっても楽しいし、みんなが楽しければ自然と笑顔も増える。今日はいきなりでみんなの予定が合わなかったけれど、今から合わせれば近いうちにはみんなでパーティーができるはずだ。
「でも、普通のパーティーだと今日と同じで飽きちまうよな?」
「そうかな?」
「どうせなら花見も一緒にやらないか?」
「確かにそろそろ満開の時期だし、いいんじゃないかな?」
確か今朝テレビで見た天気予報のあとのニュースで今日から数週間かが一番桜がきれいに見えるらしい。
この辺りでも一応花見ができる場所もあるし、毎年花見をやるまではいかないものの、みんなでよく見に行ったりはしていた。なら今年はお祝い事と一緒に花見をするのも悪くないかもしれない。
みんなでわいわいしながら食べ物を食べ、飲み物を飲み、話して笑う。その光景を想像して自然と僕は笑みを浮かべた。
「よしっ! 決まりだな」
「うんっ」
「おっと。花見の話を固めたいところだが俺次の時間講義だわ。あとで連絡する」
「わかった。待ってるよ」
そう言うと翔君は慌てたように駆け出した。
僕も次の講義まで時間をつぶそう。
今日の講義をすべて終えて、もう帰ろうかと荷物をまとめる。
携帯で時間を確認すると時刻は四時、彼方ちゃんたちとのパーティー七時からなので、あと三時間ほどある。
僕が家に帰るまでに四〇分、家で支度をするのに一〇分、余裕を持つための時間一〇分と考えてもまだ二時間ほど時間が空いている。
このまま帰って時間までくつろいでいてもいいかな、とも一瞬思ったが、それだと待ちきれなくてもやもやした気分になってしまいそうだったので、帰りにどこかに寄ることにした。
(どこによろうかなー)
校内の階段を降りながら一人この後何しようかなと考える。
家の方まで行ってしまうと結局そわそわしてしまいそうなので自宅付近はとりあえず却下。翔君は今日バイトだって言ってたから付き合ってもらうわけにはいかないし、広志君もゲームのイベントで忙しいと言っていた。
「佐渡。あんた今暇?」
階段を降り切ったところで間宮さんが話しかけてきた。壁に寄りかかっていたみたいだからもしかしたら僕が来るのを待っていたのかもしれない。
「うん。パーティーまでは暇だよ」
「そっか。今日は彼方ちゃんたちとのパーティーの日だっけ?」
「うん。今から楽しみだよ」
「よかったわね」
間宮さんは大人っぽい笑い方で笑った。
僕はいつも間宮さんのその仕草を見て間宮さんは大人だなと毎回思い知らされる。この前の彼方ちゃんの一件も間宮さんが彼方ちゃんの身に起きていた事件のニュースを見て、覚えていてくれなかったら今、僕と彼方ちゃんはどうなっていたかわからなかったし、彼方ちゃんが僕の家から飛び出した時も間宮さんがいなかったらと思うと、今でもぞっとする。
彼方ちゃんの一件を除いても、間宮さんはいつも僕を助けてくれている気がする。
もちろん翔君も広志君も何かあれば僕を助けてくれるけど、間宮さんはなんというかいつもすべてがわかっているような感じがするのだ。
僕が悩んでいるその問いの答えを最初から知っている。そんな感じがするのだ。
「どうかした佐渡? 私の顔なんかついてる?」
「いや、ごめんちょっと考え事」
「その癖治らないわねー」
間宮さんが小さくため息を漏らす。
間宮さんの言う僕の癖とは、簡単に言うと考え性なところだ。僕は考え事を始めるとどんどん深く考えてしまって、たまに会話の途中だと話を無視しているように見えてしまうらしい。そして今のように止めてくれる人がいないとそのまま納得のいくまで考えは進み、気づいたら時間以上経過していたこともあった。自分でもその自覚はあるし、治そうと努力はしているつもりなのだが、高校の時から全く治っていない。
「あと佐渡、その考え事してる時考え事をしている物や人が近くにいるとそれを凝視する傾向があるわよ。今も私について何か考えてたでしょ?」
「えっ? うそっ!?]
「ほんとよ。私も最近分かったんだけどね」
どうやら僕の癖にはもう一つ傾向があるらしい。どうやら僕は考え事をするとき考え事をする対象を凝視しているようだ。
「ほんと気を付けた方がいいわよ。私だからいいけど他の女の子にしたら場合によってはすごい変よ」
「うん。気を付ける……」
間宮さんが本気の顔で言っているのでおそらく本当なのだろう。
(この癖早く治さないと、せめて凝視する癖だけでも)
「そういえば、間宮さん僕に用事があったんじゃないの?」
「ああ。そうそう。この後少し買い物するから付き合ってくれない? 時間まででいいから」
「もちろんOKだよ」
「じゃあ行きましょ」
間宮さんはそう言うと僕に背を向け、歩き出した。僕も遅れないように慌ててその背中を追った。




