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ホームレス少女  作者: Rewrite
水無月彼方編
27/234

26話

僕が再び家を出て、一時間が経過した。

 しかし、彼方ちゃんは未だ見つかっていない。

 少し前に翔君たちに確認を取ったが、みんな返事は同じだった。

 空は先ほどの赤みの差した色ではなく、少しずつ薄暗くなってきている。


「ハアハア」


 さすがに一時間も走り回って足に限界が来ている。それでも進むことはやめない。


「ここは……」


 そして僕は気づく、ここが初めて彼方ちゃんと会ったあの路地裏だということに……

 期待を膨らませながら恐る恐る、彼方ちゃんと初めて会った路地裏を覗く。

 そこに彼方ちゃんは……彼方ちゃんは……


 ―――いた


 彼方ちゃんはあの時のようにうずくまっていて、また体育座りをしていた。

 僕は驚かせないよう、逃げられないよう細心の注意を払いながら彼方ちゃんに近づいた。


「……彼方ちゃん。帰ろう」


 あえて両親に会いに行こうとは言わなかった。今は言うべきではないと、そう思ったから。

 彼方ちゃんは僕の声に反応して顔をあげ、声の主が僕だとはっきりするや、一目散に逃げようと体を起こした。

 でも僕だって二度も同じヘマはしない。

 さっと彼方ちゃんの腕をつかみ、逃げられないよう少し余分に力を込める。

 痛いかもしれないけど、ごめん彼方ちゃん。

 すると、諦めたのか彼方ちゃんが振り返った。

 彼方ちゃんの顔を見ると目が真っ赤になっていて、泣いていたのが明らかだった。


(やっぱりそうだったんだね)


 でも、その顔が僕の時間をかけ過ぎた答えが正しかった証明になった。


「彼方ちゃん」


 もう一度子供をあやすように優しく話しかける。すると彼方ちゃんが口を開いた。

 次の瞬間、僕は膝を抑えてうずくまっていた。


「えっ!??????」


 なんと彼方ちゃんは僕の脛を弁慶の泣き所を蹴って、逃げた。

 僕は困惑するも、どうにかすぐに立ち上がることができ、急いで彼方ちゃんを追った。

 彼方ちゃんが曲がった角を曲がると、少し離れたところに彼方ちゃんはいた。

 そして、申し訳なさそうにぺこりとお辞儀をするとまた、逃走した。

 脛を蹴られたときは何事かと思ったけど、やっぱり根はやさしい子だった。

 彼方ちゃんは最初に僕を巻いた時のように何度も角を曲がり、人ごみに紛れ、僕を撒こうとした。

 僕は彼方ちゃんを見失わないよう、彼方ちゃんのことだけを考え、必死に追った。

 もう二度と彼方ちゃんを離さないために。

 数分間の鬼ごっこの末、勝利したのは僕だった。

 これまでにさんざん走り回っていたのによく追い続けられたと、僕は自分を褒めた。

 ホント我ながらよく頑張ったと思う。


「彼方ちゃん!」


 彼方ちゃんの腕をつかんだ。

 彼方ちゃんは僕の手を振り払おうと必死に抵抗する。

 僕は振りほどかれないよう、先ほどのように逃げられないよう注意しながら彼方ちゃんに声をかける。


「彼方ちゃん!」


 そして僕は彼方ちゃんを抱きしめた。

 そして落ち着かせるように、安心させるように、頭を撫でた。

 すると彼方ちゃんはぱたりとその場に座り込み、泣いた。


「ごめんなさい……佐渡さんごめんなさい……」


 泣きながら彼方ちゃんは謝った。

 心の中に溜まっていた鬱憤を晴らすように大きな声で、全力で。叫ぶように泣いた。

 僕はなにも言わず、ただ、ただ彼方ちゃんを抱きしめていた。




 しばらくして僕たちは家に戻ってきていた。

 翔君たちにも彼方ちゃんが見つかったと連絡を入れて、翔君たちはそれぞれこちらに向かっているらしい。


「……」

「……」


 そして僕たちは帰ってきてから三十分。ずっとこんな感じである。

 僕はいくら状況が状況だったとはいえ、彼方ちゃんを抱きしてたことを深く反省しつつ、その恥ずかしさで、どう声をかければいいのかわからず、話しかけにくい。

 彼方ちゃんはおそらくいきなり家を飛び出したのと、僕の脛を蹴ったことと、抱きしめられた恥ずかしさで僕に声をかけにくい。


(どうしたらいいんだーーーー)


「あの……」


 そんなことを思っていると、彼方ちゃんの方から話しかけてきてくれた。


「えっと……なにかな?」


 僕もなんてことないように返事をする。

 でも動作はかくかくだ。


「今日は本当に……ごめんなさいっ」


 なんだ。そんなことだったのか。そんなこともう気にしてないのに。

 でもこのチャンスを生かそう。

 ここで会話を続けないと、またあの気まずい沈黙が訪れてしまう。

 だから今、僕の話を聞いてもらうんだ。


「そのことは気にしてないよ」


 そう言うと彼方ちゃんはほっとした様に肩を下ろした。


「それよりさ……僕の方こそごめんね」

「そんな!? なんで佐渡さんが謝るんですかっ。悪いのは私なのに……」

「違うよ。僕、彼方ちゃんの気持ち全然わかってなかった。彼方ちゃんは病院に行きたくなかったんじゃなくて、ご両親が危ない状態だって認めたくなかったんだよね?」


 そう。これが僕が導き出した答え。

 彼方ちゃんは認めたくなかったのだ。

 両親が危ない状態だということを。

 病院に行って、医師から両親の状態がいかに危ない状態なのかを聞いて、その危ない状態の両親を見てしまったら、認めるしかないから。

 いやでも認めさせられてしまうから。

だから彼方ちゃんは病院に行くことを、両親のもとへ行くことを拒んだ。

 それに彼方ちゃんの精神は相当すり減っている状態だ。

 両親と事故にあって自分だけ助かり、親戚の家では両親をバカにされ、最終的に何も知らない東京の寒空の下で何日間も野宿。

 楽しく過ごせていたはずがない。

 それこそ自分を押し殺していたはずだ。

 僕の家に来てからだって、僕に両親のことを隠し、両親の状態もわからずに過ごしていたんだと思うと僕は胸が痛んだ。

 でも、そんな頑張りを知っている僕だからこそ、この言葉が言える。


「彼方ちゃんは悪くない」


 僕は力強く、自信を持って言った。


「そ……そんなこと言われたら私……何も言えないじゃないですか……」

「大丈夫。彼方ちゃんは頑張った。だから、あとは僕が何とかするから……もう少し頑張ろう?」


 僕には両親を治療する方法も、両親が助かるかも、これから彼方ちゃんが幸せになれるかどうかも正直さっぱりわからない。

 それでも僕は何とかできると、みんなが幸せでいられる未来を信じて、そう言った。


 トントン


 僕たちの会話がひと段落ついたタイミングでドアがたたかれた。たぶん翔君たちだ。

 僕も改めて気合を入れないと。 

 さあ、ここからが本番だ!


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