25話
まずはデパートに訪れた。
理由は彼方ちゃんを見失った場所から一番近かったから。
可能性は一つずつ確実に潰していく。
「まずは一階!」
デパートの中は相変わらず人がたくさんいてにぎわっている。
僕は人の波を上手く避けつつ、デパートを走り回った。周りの人が迷惑そうに僕のことを見ているが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
一階、二階、三階と一階ずつ探して行ったが、彼方ちゃんの姿は見当たらなかった。
もしかしたらすれ違いになったり、女子トイレのような僕の探せない場所に隠れていたかもしれないけど、それはないと信じたい。
僕は違う場所に向かうべく、一階に戻り、一番近い入口へと向かった。
「おーいっ。誠也ーーーっ!」
僕が全力で走っていると、誰かが僕を呼ぶ声が聞こえた。
振り向いてみると、そこには翔君が立っていた。
「翔君!」
「どうしたんだよ誠也、そんなに慌てて? それよりえーと……そうだ。彼方ちゃんは?」
「それが……」
僕は今朝あったことを包み隠さず翔君に話した。
翔君は少しの間神妙な顔をしてから口を開いた。
「それは確かに変だな……普通なら両親に会いたいもんだろ? それにお前の話ちょっと引っかかるんだよな」
「うん。両親の方は……僕もそう思うんだけど……何が引っかかるの?」
「わからねぇ。でも、なんか引っかかるって言うかモヤモヤするっているか、とりあえず俺も協力するぜ! 見つけたらお互い連絡な!」
「うん! 悪いけどお願いするよっ」
「おう。任せとけって」
僕と翔君は別々の方向へと駆け出した。
でも、翔君。いったい何が気になったんだろう。
僕が次に向かったのは公園。
デパートと家のちょうど中間くらいにある広い公園で、近所の人の散歩コースにもなっている。
そこにはベンチもあるし、もしかしたら彼方ちゃんが疲れて休憩してるんじゃないかという小さな希望を持って、僕は走り続けた。
十分くらいで目的の公園に到着する。
少しの間両手を膝に当て、息を整える。
まだ冬と春の境目だというのに全身から汗が噴き出す。
それでもここで休んでしまうわけにはいかない。両手を膝から離し、辺りを見渡す。
結果は……
「……いない……」
すべり台の下などの隠れられそうな場所もくまなく探したが、彼方ちゃんの姿はなかった。
「ハァァァァァァァァッ!!」
次の場所を探そうと公園を出ようとすると、後ろの方から誰かの叫び声のようなものが聞こえた。
僕は聞き覚えのある声に後ろを振り返る。
「あぶないリーダー! うぉぉぉぉぉぉぉ制裁の拳!!!!」
「うわっ!?」
後ろから右拳を振りかぶった広志君がこっちに向かってきて、僕のすぐ後ろでその右拳を振り下ろした。
少し当たりそうになった広志君の拳をどうにか避けることができた。
「危ないところだったなリーダー。今、リーダーのすぐ後ろに妖夢がいたぞ!」
「あ……ありがとう?」
本当に居たのかはさておき、とりあえずお礼を言った。
「それより広志君!」
彼方ちゃんを見ていないか聞こうと話を切り替える。
「彼方ちゃん見てない?」
「うむっ? リーダーと一緒なのでは?」
どうやら見かけていないらしい。収穫ゼロだ。
僕は端的に、事情を説明して広志君にも彼方ちゃん探しを手伝ってもらうことにした。
「あいわかった! 我のセブンアイがあれば人探しなど朝飯前だ!」
そういうと広志君はローラースケートを履いて行ってしまった。
「なんでローラースケート?」
僕はそんな疑問を振り払って再び彼方ちゃん探しに出る。
今度はアパートの近くを探すことにした。
もしかしたら落ち着いて戻ってきているかもという淡い希望をもって辺りを走り回った。
辺りをしばらく走り回っていると、間宮さんが前の方から歩いてきた。
「どうしたのよ佐渡そんなに慌てて?」
「間宮さんこそどうしたのって……今はそんな場合じゃなかった」
「だからどうしたのよ。少し落ち着きなさい。ちゃんと聞いてあげるから」
僕は少し息を整えながら間宮さんに事情を話した。
すると間宮さんは少し考えた仕草をした後、真剣な顔で口を開いた。
「ねえ佐渡……」
「なにかな?」
深刻そうな顔をしながら話すので、僕も自然と顔を強張らせながら返事をした。
「あのさ……彼方ちゃんがどうして出て行ったか……わかる?」
痛いところをつかれた。
彼方ちゃんが出て行ってからずっと考え続けて、悩み続けたが一向に答えの出ていないその問いを……
僕は何も言えなかった。
いや、何て言ったらいいのかわからなかった。
僕にできるのはただ黙って、情けない自分を憐れみながら地面を見続けることだけ……
「じゃあちょっとヒント……というかアドバイスね。今の佐渡、いつもの佐渡じゃないよ。佐渡らしくない」
間宮さんはよくわからないことを口にした。
僕らしくない? どういうことだろう? 僕なりに考えてみたがすぐに答えはでなかった。
僕らしさ……僕らしさってなんだろう。
その答えを求めるように間宮さんを見る。
「答えは教えないわよ。佐渡自身が見つけないと意味がないわ」
どういうことだろう。
確かに僕が彼方ちゃんの出て行った原因がわかってないと根本的な解決ではないのかもしれない。
僕はそれでも彼方ちゃんを見つけて、お互い落ち着いてからゆっくり話せばきっとわかり合える。
僕はそう考えていた。
でも今の間宮さんの言葉は僕の考えを根本的に否定した。
なぜ、僕が彼方ちゃんの出て行った理由がわからないと解決できないのだろうか。
間宮さんは彼方ちゃんがどうして出て行ったかわかったのだろうか。
いや……こんなことを言うってことはわかっているのだろう。
でもその答えは教えてくれない……
僕が見つけなくちゃいけないらしい……
「とにかく佐渡、私も彼方ちゃんを探すわ! 佐渡は家でなんで彼方ちゃんが出て行ったか考えなさい。わかるまで家を出たらだめよ」
「そんな!?」
「わかったっ?」
「はい……」
強引に押し切られてしまった。
間宮さんは僕が来た反対の方へ走って行った。
僕は彼方ちゃんを探したい気持ちでいっぱいだったが、間宮さんの言う通りおとなしく一旦家に戻った。
そして床に座り、考える。
彼方ちゃんのこと……
どうして急に出て行ったのか……
一時間考えても答えは出なかった。
気晴らしに外を見ると、もう日は傾き始めていて、時計を見ると針は四時を指していた。
僕に焦りが生じる。
まともに思考が働かない。
何か考えようとしても今彼方ちゃんがどこに居るのか、ご両親は大丈夫なのかそれだけを頭が支配していく。
「わからない……」
言葉がゆっくりと空気に溶けていく。
ただ無情に時間が過ぎていく。
このままでは本当に取り返しのつかないことになってしまう。
そのことがさらに僕を焦らせ、追い詰めていく。
「今まで僕はどういう気持ちでみんなのことを考えてたんだろう」
ふと、そんなことを考えた。
僕は今までみんなの笑顔が見たくて頑張って生きてきたつもりだ。
それがたとえ自分の知り合いじゃなくても困っている、苦しんでいる人がいるなら、自分の手の届く範囲で手伝ってきた。
そしていくつもの笑顔を見てきた。
他人が幸せになるのを見て、僕も幸せな気分になって、世界中のみんなが幸せになればいいと思っていた。
いや、今も思っている。
そう。僕はいつもその人の笑顔を見たくて、その人の気持ちになって、どうしてほしいか考えて、いつも行動してきたつもりだ。
「はっ!?」
僕は今さらになって気が付いた。
おそらく間宮さんの言っていた「僕らしさ」の言葉の意味を……
僕は彼方ちゃんが心配で彼方ちゃんがどういう気持ちで出て行ったのかを客観的にしか考えていなかった。
彼方ちゃんの気持ちになって考えられていなかった。
「彼方ちゃんなら」ではなく、「普通だったら」でしか物事を考えていなかった。
ハンガーに掛けたコートを羽織り、彼方ちゃんのコートを持って僕は再びいきおいよく外へとびだした。




