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ホームレス少女  作者: Rewrite
仲直り編
217/234

23話

 

「というわけで、あの日から私のメイドスキルは全然上がってません。むしろ下がってると言ってもいいかもです」


 どうにか桜ちゃんと仲直りができた後、すっかり冷めきってしまった飲み物を温めなおしてから、連絡を取ってなかった空白の期間についてお互いに話し合った。

 僕の方からは彼方ちゃんが僕の為に一緒に居てくれたこと、翔君と鈴さんと広志くんとの仲直りはすでに済んでいること話した。

 すると桜ちゃんは「やっぱり正妻は強いですね……強敵です」とか言っていた。

 せいさいって何だろう? 制裁? 精細? 絶対に違うよね?


 そしてその後に桜ちゃんの話を聞いての最後の言葉がさっきの言葉だったりする。


「あまりの申し訳なさに胃が痛くなってきたかも……」


 そしてこれが僕の反応である。


「そう思うなら責任とって結婚してください!」

「ちょっと待って、頭まで痛くなってきたよ。どうしてそんな話になるの?」


 仲直りによって調子を取り戻した桜ちゃんの突拍子のなさすぎる発言に色々なところが悲鳴を上げる。主に頭とか胃とか精神的に来る場所が。


「だって責任を取るって言ったらやっぱり結婚じゃないですかー」

「別に結婚だけが責任じゃないと思うんだけど……」

「まあまあ、とりあえず軽いノリでいっちゃいましょ? 名前書いて、ハンコ押して、はい、結・婚!」

「そんな軽いノリで結婚しちゃダメだよ!?」

「なるほど、重ければいいんですね……。それなら私、重い女になります。それで佐渡さん、重いって物理的にですか? 精神的にですか? できれば精神的の方が助かるんですけど」

「ごめんね、ちょっと待ってね。少し休ませて、主に心を……」


 久しぶりの桜ちゃんのテンションに僕が付いていけない。

 さっき自分で言ってた言葉の数々に少し自信がなくなってきた。


「ところで結納はいつにしますか?」

「まだ続けるんだこの話!?」

「冗談です、じょーだん。あっ、でも本気にしてくれても構いませんよ? 佐渡さんとなら私はオールオッケーです!!」


 桜ちゃんの笑顔が眩しい。

 おかしいな、さっきまでずっと見たかったはずの桜ちゃんの笑顔が眩しすぎて辛い。


「さてと、ゼロパーセントの冗談はここまでにして本題に入りましょうか」

「それ本気だったってことだよね!? 冗談の要素がまるでなかったってことだよね!」

「落ち着いてください佐渡さん。十割本気でしたよ?」

「おちつけないよ!? 今の言葉のどこに落ち着ける要素があったの!?」

「……そんなに私と結婚は嫌ですか?」

「え……?」


 さっきまでのハイテンションが突然なりを潜め、唐突に不安そうな顔で桜ちゃんが見つめてくる。いきなりそんな態度を取られると僕としても反応に困ってしまう。

 別に桜ちゃんとの結婚が嫌なわけじゃない。一時期うちで一緒に生活をしていたときも楽しかったし、そんな日々が毎日続くというのはとても素敵なことだと思う。

 問題があるとすれば順序が何段も飛んでいることと、僕なんかに桜ちゃんはもったいなさすぎる魅力的な女の子だという点だ。


「べ、別にそういうわけじゃないよ? 桜ちゃんは良い子だし、メイドさんとして頑張ってきたから家事だって得意だし、気配り上手だし、他にもいいところがたくさんあるよ? たださ、僕なんかにはもったいないというか、もっとこういうのはステップがあるんじゃないのかあー、とか思うだけで」


 とりあえず当たり障りのない返事をしてみるものの、桜ちゃんの満足いく返事ができたとは到底思えない。しどろもどろに口を動かしていただけだ。

 なんとか次の句を繋ごうとして桜ちゃんの方を見ると、なぜか桜ちゃんは真っ赤になっていた。


「ど、どうしたの!?」

「い、いえっ! 何でもないんです!」

「でも顔真っ赤だよ!?」

「佐渡さんのせいですよ!!」

「僕の!?」


 なんでだろう。最近似たようなことがあった気がする。それも一度どころか二回くらい。

 あっ、思い出した! 彼方ちゃんと安藤さんと似たようなことがあったんだ!

 確か二回とも僕が何かしらをやらかしたせいで居たたまれない雰囲気になっちゃったんだっけ。ということは今回も同じなのかな? ……だろうなあ。


「……この話は終わりにしようか?」

「は、はい……ぜひそうしましょう。私も久しぶりに佐渡さんと話せて少し調子に乗っちゃいました……」


 お互い飲み物を一口含んでクールダウンをする。

 ……なんか暖かい飲み物を飲んでるのにクールダウンするのって変な感じだなー。


「あったかい飲み物飲んでるのにクールダウンするのって変な感じがしますね」

「あっ、今僕も同じこと思ってたよ」

「ほんとですか? ははっ。私たちも意外と似た者同士なのかもしれませんね」

「そうかもね、実際は僕の方が色々劣ってるとは思うけど……」

「そんなことないですよ。佐渡さんはもう少し自分で自信を持つべきです!」

「あはは……よく言われるよ」


 どうにかお互い完全にクールダウンすることができた。

 これでどうにか本題に入れそう。そう思っていると、ありがたいことに桜ちゃんの方から話を切り出してくれた。


「安藤さんが迎えに来るのって八時でしたっけ?」

「そうだよ。昨日の夜にお願いしておいたんだ。その目的の一つは達成しちゃったけどね」

「えへへ」


 桜ちゃんが言葉の意味を理解して可愛らしくはにかんだ。

 人懐っこい性格の桜ちゃんはとにかく笑顔が似合う。同年代の女の子と比べて少し幼い顔つきや、元気いっぱいでパワフルなところが少し子供っぽく見えてしまうかもしれないけど、それも桜ちゃんの素敵な魅力の一つだ。

 跳んだり跳ねたりするたびにふわっと揺れる短いピンク髪が、僕の中ですごく印象に残っている。


「あとはかなちゃんと仲直りするだけですね」

「うん。もちろんこっちも達成する気満々だけどね!」


 僕が天王寺家で達成しなくちゃいけないことは二つあった。一つは奏ちゃんとの仲直り、もう一つが桜ちゃんとの仲直り。そのうちの桜ちゃんとの仲直りは少し前に達成されたので残された目的はあと一つだ。


「大丈夫ですよ。かなちゃんも佐渡さんと仲直りしたいって絶対に思ってますから。部屋の中であーとかうーとか言ってましたもん!」

「それはありがたい情報だね」


 昨日安藤さんから少し奏ちゃんの様子を聞いていたとはいえ、若干の不安が残っていた僕にはすごくありがたい情報だ。

 これで少しは気を楽にして挑めそう。


「そういえば佐渡さん。朝ごはんはどうしたんです?」

「まだだよ」

「それはいいことを聞きました。私のメイドスキルが役立ちますね!」

「え! もう十五分もすれば安藤さん来るよ? さすがに待たせちゃうのは悪いよ……」


 時計の針は七時四十五分を指している。約束の時間まではさっきも言った通りあと十五分。

 しかも安藤さんほどのメイドさんにもなると、絶対に五分前には家の前に到着しているだろう。こちらから無茶なお願いをしているのに、これ以上の迷惑をかけるのは気が引ける。


「大丈夫ですよ! まあ見ててください!」


 そう言うと桜ちゃんは僕を残して台所の方へ行ってしまう。しかも邪魔するなと言うことなのか戸まで閉められた。

 どうしたものかと思い悩んでいると、五分ほどで桜ちゃんがお盆を持って戻ってきた。


「あれ? メイド服になってる。わざわざ着替えたの?」

「はい! これが私の戦闘フォームですから!」


 胸を張って宣言してから、桜ちゃんがこの短時間で用意したにしては十分すぎるものをテーブルに並べていく。食パン、サラダ、焼いたハムに目玉焼き。これだけのものを五分で用意してしまった。それも二人分。


「どうぞ、食べてください。といって材料は佐渡さんの家のものですけど」

「それは全然いいんだけど、よくこの短時間でこんなに用意できたね。驚いたよ」

「このくらいお茶の子さいさいですよ! 安藤さんなら三分で終わらせますね」

「三分……想像できない……」


 僕がやったら少なく見積もっても十分はかかると思う。


「あっ、でもメイド服に着替える時間を除けば桜ちゃんもそのくらいなんじゃない?」

「いえ、安藤さんの場合それを含めて三分です」

「そ、それはすごいね……」


 まさかの回答だった。

 もう口をあんぐりと開けるしか僕にはできそうにない。


「そういえばなんでわざわざメイド服に着替えたの? 着替える時間だって少しとはいえかかるのに」

「さっきも言った通りこれが私の戦闘フォームだからです!」

「それならなんで私服できたの? いつもならここに来るのもメイド服だよね?」


 話をしつつも、しっかりと桜ちゃんの作ってくれた料理を口に運ぶ。

 あ、このパンの焼き加減好きだな。


「それはもちろん素の私が佐渡さんと仲直りしたかったからですよ」

「素の私?」

「はい、天王寺家のメイドとしての花里桜じゃなくて、佐渡さんのお友達としての花里桜で仲直りしたかったんです。天王寺家のメイドだからとか、かなちゃんも仲直りするだろうから私も許さなきゃ。とかじゃなくて、私自身の気持ちで佐渡さんと仲直りしたかったんです」

「そうだったんだ。……すごくうれしいよ」


 妥協だとか、仕方なくとかじゃなく、桜ちゃん自身の気持ちと考えで僕と仲直りしたいと思ってくれた。僕と友達のままでいたいと望んでくれた。

 それがたまらなくうれしい。


「食器片しちゃいますね」


 話しているうちに食事も取り終り、せめて流し台まで運んでおこうと食器をまとめていたら、すっと桜ちゃんに食器が回収された。


「それぐらい僕が……」

「メイドにお任せください、ご主人様」


 作ってもらったし片付けくらいはと思って立ち上がろ言うとするも、笑顔で牽制されてしまった。しかも置いておくだけでいいのにしっかり洗ってる。申し訳ないったらない。

 でも、この家事をさせてもらえない感覚が少し懐かしい。


「そうだ、佐渡さん。一つお聞きしたいことがあるんですよ」

「なにかな?」


 食器洗いは桜ちゃんがしてくれているので、やることのない僕は最低限の身だしなみを整えていると、質問が飛んできた。


「佐渡さんは誠也さんとご主人様、どちらで呼ばれたいですか?」

「ごっほ……い、いきなりどうしたの?」


 あまりに斜め上過ぎた質問に驚いて、変なところに空気が入り咳き込んでしまう。


「どうしたのもなにもないですよ。私と佐渡さんは仲直りしたじゃないですか?」

「うん。そうだね。ありがたいことに仲直りさせてもらったよ」

「そこで私は思ったんですよ。もう同じようなことを繰り返さないためにも今まで以上に佐渡さんと仲良くなろうって」

「すごくうれしい提案だけど、でもそれでなんで名前呼びかご主人様呼びなの?」

「簡単かつシンプルに仲いい感じがするじゃないですか」


 確かに苗字で呼ぶよりは名前で呼ぶ方が仲が良く見える。それは僕にでもわかる。

 わからないのはもう一つの候補の方だ。


「ご主人様呼びに仲の良さは感じられない気がするんだけど……」

「そうですか? 的確に私と佐渡さんの関係を表していると思うですけど」

「いやいや僕たち友達でしょ? 友達同士でご主人様はないよ」

「それじゃあ消去法で誠也さんでいいですか?」

「う、うーーん……まあ、名前呼びなら」

「それじゃあ決まりですね、誠也さん! 改めてこれからもよろしくお願いします!」

「うん! こっちこそよろしくね!」


 いつの間にか食器を洗い終えていたらしい桜ちゃんがこっちまで来て、丁寧に頭を下げる。

 それをマネて僕も頭を下げた。


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」

「いいですよ。なんでも聞いてください。スリーサイズでもなんでも答えちゃいます!」

「……もしかして最初から僕をからかってた?」

「あ、バレちゃいました?」

「やっぱり……」


 からかわれていた事実にショックを受けて肩を落とす僕。そんな僕を桜ちゃんは楽しそうに笑ってみていた。


 ピンポーン


 そうこうしているとチャイムが鳴った。

 時間的に安藤さんが迎えに来てくれたんだろう。

 外まで聞こえるように、はーい! と大声で返事をしつつ、桜ちゃんと二人で忘れ物がないかを確認する。


「それじゃあ行こうか」

「はい、ちゃちゃっとかなちゃんと仲直りしに行きましょう。誠也さん!」

「うん……って、え……?」

「どうかしましたか?」

「いや、今僕の名前……」


 さっきの名前呼びかご主人様呼びかっていうのは冗談だって言ってた。僕をからかってただけだって、それなのに桜ちゃんは今僕の名前を呼んでいた。


「ふふふっ。冗談なのはご主人様呼びの方だけですよ?」

「そうだったの!?」

「最初からそのつもりでしたよ。だって誠也さんと今まで以上に仲良くなりたいのは本当ですもん!」


 当然とばかりに笑顔を向けられ、なにも言えなくなってしまう。

 でもなにも悪いことじゃない。桜ちゃんは僕と仲直りするだけでなく、今まで以上の関係を望んでくれた。

 こんなに嬉しいことはないんじゃないだろうか。


「それに、誠也さん以外で誠也さんを呼ぶんだとしたらご主人様じゃないですよ」

「……え?」


 嬉しすぎてほっこりしていると、桜ちゃんが言葉を続けてきた。


「ご主人様じゃなくて、()()()()。ですよ」

「ちょっ!? それってどういう!?」

「ほらほら誠也さん。あんまりゆっくりしてると安藤さんを待たせちゃいますよー」

「そうだけど! そうなんだけどね!」

「あははははっ! 私さきに出てますねー」

「桜ちゃん!?」


 混乱する僕を置いて桜ちゃんは一人でと外に飛び出していく。


「……さすがに今のも冗談だよね?」


 事の真意はわからずじまいのまま、僕も急いで玄関を出る。

 なんだか疲れた朝の一幕だった。

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