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ホームレス少女  作者: Rewrite
水無月彼方編
19/234

18話

「さーて最初はなにするよ。四人でできるのだとそんなにないぞこのゲーム」

「そうよね。最悪は二人で対戦できるのもやっていきましょう。それより彼方ちゃんはなにかやりたいものある? あとこのゲーム始めてだったりしない?」


流石間宮さんだ。みんなで遊ぶのに今日初参加の彼方ちゃんのことまで気にかけている。

本当に周りが見えているというか、気配り上手だ。


「あ、はい。大丈夫です。この前佐渡さんと一緒にやりましたし、このゲームなら一通りやったので遊び方は知ってます」

「そうなの。それならよかったわ」

「お気づかいありがとうございます間宮さん」

「なあ最初はビーチバレーでいいか?」

「そうね彼方ちゃんもやったことあるって言うしそうしましょうか」


間宮さんのおかげで僕が三人と彼方ちゃんの間に入らなくても自然と話が進行していく。

最初からそこまで心配はしていなかったけど、まさかここまで早く彼方ちゃんが三人と親しくなれるとは思っていなかった。

想定外ではあったが、僕としては早く仲良くなってほしいと思っていたので、万々歳だ。


「おーし。じゃあチーム分けは俺と間宮、誠也と彼方ちゃんでいいよな?」

「そうだね。最初はそうしよっか。よろしくね彼方ちゃん」

「こちらこそよろしくお願いしますね佐渡さん」


翔君が操作してチーム分けが終わり、早速ゲーム画面に切り替わる。


「悪いけど手加減はなしだぜ。俺は男女平等主義者なんだからな。彼方ちゃん相手でも容赦しねえぞ誠也」

「なに大人げないこと言ってんのよ九重。大丈夫よ彼方ちゃん。ちゃんと手加減してあげるから」

「いえっ。本気で来てくれて構いませんよ。全力で戦いましょうっ」

「その意気やよしっ。それじゃあいくぜーっ」


翔君はまだ知らない。

彼方ちゃんが経った一日でどれだけこのゲームが上手くなったかを。一日で持ち主である僕の実力は優に超えてしまっていることも。これから身を持って体験することになるだろう。


「……おいマジかよ……」

「……ほんと上手いわね」


試合がスタートして数分、翔くん間宮さんチームと僕、彼方ちゃんチームでは大きく点差が開いていた。

数字にして10-18。このゲームは21点先取したチームが勝ちなので僕らの方が圧倒的に有利だ。

ちなみに活躍はほとんど彼方ちゃん。僕はホンのサポートをしているだけである。

そしてそのまま試合は進行していき、この試合は僕、彼方ちゃんチームの勝利に終わった。


「フフフッ。九重殿コントローラーを……」

「あー。任せたぜ広志。見てたと思うが彼方ちゃん……マジでつえーぞ」

「心得ている。久しぶりに我も本気になれそうだ。さあ水無月殿いざ尋常に勝負っ」

「はいっ。しょ、勝負ですっ」


未だに広志君のテンションに若干気おされているみたいだけど、彼方ちゃんはやる気だ。

 これは本当に楽しい一日になりそうだ。




ゲームをしていたらあっという間に日が沈んでいた。

 ちなみにゲームの結果はほとんど彼方ちゃんのいるチームの勝ち。

 彼方ちゃんは物覚えが早く、この前僕とプレイしていたのもあって最初からすごい活躍をしていた。

 いつもだとゲームに詳しい広志君がダントツで上手く、広志君一人を二人で狙わないと勝てないといった様子なのに、彼方ちゃんは自分の相手をしている人と戦いながら、味方の人のサポートまでしっかりとこなしていて、正直広志君より上手だった。


「彼方ちゃん……ゲーム上手なのね……」

「ああ。完敗だ……」

「まさか我まで負けるとは……まさか貴様は世界を統べるもの(ワールドマスター)か!?」

「そ……そうですか……えへへ」

「くっ……またしても我の声は届かぬか……」


 みんながみんな彼方ちゃんのことを褒め称えた。

 僕もまさか広志君より上手くなっているとまでは思わなかったので、素直に彼方ちゃんを褒めた。

 すると彼方ちゃんはみんなに褒められて頬を赤く染めながら、うれしそうに照れていた。

 そして笑顔だった。

 彼方ちゃんらしい、とてもいい笑顔だった。

 そして僕は思う……

 この笑顔を見て、何度もなんとかしなきゃいけないと思っているのに何もできていない。

 昨日だって何とかしよう思った。

 会ったときだって何とかしようと思った。

 なのに―――何もできていない。

 確かに何があったのかは自分から聞かないと誓った。彼方ちゃんのタイミングでいいと言った。

 だけど、僕はそれを理由にして何もしなくていいのだろうか?

 それは違うんじゃないだろうか。

 彼方ちゃんが自分から話してくれるよう、昨日みたいに僕ももっと努力するべきなんじゃないか。

 いや、昨日のことだって、ただ一緒に遊んでいただけだ。結局何もできていない。

 ならやっぱり、今からできることだけでもするべきなんじゃないだろうか。

 そう考えていく中、僕は今日までの彼方ちゃんとの生活を振り返って、自分の無力さを思い知る。


 ―――僕は結局何もできていない―――


「佐渡……佐渡! 聞いてる!」


 気づくと耳元で間宮さんが僕に向って叫んでいた。


「まったく……また考え事? 何度も呼んでたのに……」


 どうやらまた僕の悪い癖がでてしまっていたらしい。

 治す努力はしているのだがまったく治っていない。


「ごめん。それで何かな」

「私たち帰るから。打ち上げの埋め合わせ今度してよね」

「うん。近くまで送るよ」


 近くまで送ろうと僕は近くにかけてあるコートに手を伸ばす。

 それを翔君が止めた。


「何言ってんだよ。彼方ちゃんを一人にする気か?」

「あっ。それもそうだね」

「佐渡、あんたさっきから少し様子がおかしいわよ? 大丈夫?」


 間宮さんが心配そうに聞いてきた。隣を見ると彼方ちゃんも不安そうな顔をしている。

 僕は心配を払ってもらえるよう精一杯の笑顔で答える。


「大丈夫だよ。今日は久しぶりにみんなに会えたから少しはしゃぎ過ぎちゃったかな」

「なんだよ心配させやがって」


 翔君が安心した様に肩をたたいてくる。


「本当に大丈夫かリーダー。まさか近くに闇の者の反応が!?」

「あんたは黙って」

「……しゅん」


 間宮さんと広志君がいつものように笑わせてくれる。


「本当に大丈夫ですか? 調子が悪いのでしたら今日の夕食は私が……」


 そして彼方ちゃんが元気をくれる。

 僕は本当にいい友達を持った。最高の友達を。


「じゃあ私たち帰るわね」

「じゃあな」

「リーダー、闇の者が現れたらすぐ我に連絡を。連絡さえもらえれば封じられし右腕を開放して一瞬で助けに参るぞ」

「……うん……じゃあね」

「気を付けてかえってくださいね」


 翔君たちが帰っていくのを僕たちは手を振って見をくる。

 若干広志君の背中が悲しそうに見えた。

 でも、さっきのはなんて言ったらいいのかわからなかったから普通に返しただけなんだけど。

 それとも魔物が出たら連絡するとか言った方がよかったのかな?

 翔君たちの背中が見えなくなってから僕らは部屋に入った。


「今日は楽しかったですね」


 彼方ちゃんがテニスのラケットを振るフォームやバレーのレシーブのポーズを取りながら笑顔で言う。


「そうだね。今日は楽しかったよ。三人に加えて彼方ちゃんもいたしね」

「えっ!? それって!?」

「みんなでやるゲームって楽しいよね」

「そ……そうですよね……佐渡さんですもんね……わかってました」

「え?」


 彼方ちゃんの問いに答えたつもりだったのだが、なぜか彼方ちゃんは落ち込んでいた。僕なにか言ったかな?

 少しすると彼方ちゃんが元気に戻ったので、ゲーム機やテーブルの上を片付けることにした。


「じゃあ僕がゲーム機を片付けるから彼方ちゃんはテーブルを拭いてくれる? 終わったら僕も手伝うから」

「はい。わかりました。先にキッチン行ってますね」


 僕はコンセントを抜き、きれいに畳み始め、彼方ちゃんはキッチンに布巾を濡らしに行った。僕が片付け終わる頃には彼方ちゃんもテーブルを拭き終わっていた。


「佐渡さん、テーブルの下にハンカチが。間宮さんのものでしょうか?」


 彼方ちゃんの手には花柄のきれいに折りたたまれた高級そうなハンカチが握られていた。


「ああ。これ確かに間宮さんのだよ。前に持ってるのを見たことがあるから。まだ近くにいるだろうから届けてくるね」


 僕は近くに掛けてあるコートの手を伸ばし、袖を通した。


「あっ。私も行きます!」


 彼方ちゃんもこの前買ったココア色のコートに手を伸ばす。


「大丈夫だよ。それより彼方ちゃんは夕食作りを始めててくれる?」

「え? でも……」

「じゃあ頼んだよ」

「あっ。佐渡さん!」


 僕は彼方ちゃんの返事も待たず、間宮さんのハンカチを落とさないよう、汚さないよう気を付けながら玄関を出た。

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