19話
五分ほど走ったところに間宮さんはいた。でも翔君と広志君の姿は見えない、どうやらすでにどこかで二人とは別れたようだ。
「間宮さーん!」
まだ距離が離れていたので声が届くか不安だったが、声が届いたらしく間宮さんが止まってくれた。
「佐渡? どうしたのよ?」
不思議そうに間宮さんが聞いてきた。
「……ハアハア……はい、これ……ハンカチ……」
僕は息を切らしながら大切に持っていたハンカチを間宮さんに渡した。
「ああ。忘れてたのね。連絡くれればこっちから受け取りに行ったのに」
「いいんだよ。今日は楽しませてもらったからね」
「ははっ。佐渡らしい理由ね。とにかくありがとう」
間宮さんは彼方ちゃんとは違う、少し大人っぽい笑顔で笑いながらお礼を言ってくれた。
「あっ。思い出した!」
間宮さんが突然大きな声を出した。
いったい何を思い出したんだろう?
「何を思い出したの?」
気になって間宮さんに問いかける。
「彼方ちゃん! 彼方ちゃんのことよ!」
「えっ!? 知り合いだったの!?」
「違うわよ。えっとね……」
間宮さんの話を聞くと内容はこうだった。
どうやら今日会ってから水無月 彼方 の名前を最近どこかで聞いたような感じがしたらしい。
しかし考えても思い出すことができず、結局考えるのを止めてゲームを楽しんだようだ。
たぶん、彼方ちゃんの名前を聞いたときに間宮さんが少し考える仕草をしたのは、このことが原因だったのだろう。
僕は今になってようやく間宮さんが何を考えていたのかがわかった。
そして本題はここから……
「彼方ちゃんの名前なんだけどね。どこかで聞いたことあると思ったらニュースよ!」
「えっ!? どういうことっ」
ニュースってどういうことだろう?
僕はふだん、ニュースは人が死んだとか怪我したとか、暗い話が多いので見ることがない。見るとしてもニュースの合間にやる天気予報や今日の運勢のようなものだけだ。
だから僕はいつ、どんな内容で彼方ちゃんがニュースに出ていたか知らない。
どういうことなのか全く話がつかめない僕は間宮さんの次の言葉を黙って待つ。
「この前、いつだったかな? たしか二週間から三週間くらい前のニュースでどこかの田舎の山で車の転落事故があったって言ってたの。確か車内に居たのは確か三人だったかしら。家族だったらしいわ。そして親が確か重傷を負ったって言ってた気がする。……佐渡? 佐渡!?」
その後のことはよく覚えていない。
気づいたら自宅に居て、布団の中で、彼方ちゃんがいて、僕の看病をしてくれていた。
気が付いたといってもまだ少し頭がぼーっとする。
「あ、目を覚まされたんですね。急に倒れたって間宮さんに聞きましたけど、大丈夫ですか佐渡さん? 気持が悪いとかどこか痛いところとかありませんか?」
僕が起きたことに気が付いた彼方ちゃんが心配そうに僕の傍にやってきたので、僕は少し体を起こし、心配をかけないよう答えようとした……
なのに体は言うことを聞いてくれない。
いや……彼方ちゃんの方を向いてくれない。
それ以外の行動はできるのだ、瞼を閉じたり、手を動かしたり、足を動かしたり、動かないところはどこもない。
なのに彼方ちゃんの方を僕の体は向いてくれなかった。
「大丈夫だよ。でも、もう少し休ませてくれるかな……」
僕はせめて彼方ちゃんに言葉だけでも返すことにした。
すると、彼方ちゃんは安心したように一息ついてから
「そうですね。もう少し横になって安静にしててください。私、おかゆ作ってきますので、なにか用があったらいつでも呼んでくださいね」
そう言って彼方ちゃんはキッチンの方に向かったようだ。
情けない。
この年になってショックな話を聞いただけで意識が少し遠のいていた。気絶こそしていないが、自分一人じゃまともに行動できない状態になっていたなんてはずかしい。
間宮さんにも迷惑をかけてしまった。
間宮さんが意識が朦朧としていた僕をここまで連れてきてくれたのだろう。
確かに小さいときにもこういうことは何回かあった。お化け屋敷に入ってあまりに恐怖に気絶したり、中学の時ジェットコースターに乗って気絶しかけた。
それぐらい僕は小心者で臆病者なのだ。
でも、最近はこんなことはなかったので、久しぶりに来ると結構精神的に堪える。
それでもいつまでもこうしてはいられない。
間宮さんから話は聞いたけど、まだ本当のことかわからない。
確かに時期も名前も一致するけど100%彼方ちゃんのことと決まったわけじゃない。可能性があるというだけで真実は違うのかもしれない。
明日、図書館にでも行って新聞を借りよう。
そして真実を確かめよう。
僕はそう決意して体を動かそうとする。
「よしっ!」
僕は思いっきり立ち上がった。
よし。ちゃんと動く。
「彼方ちゃん!」
今度はちゃんと彼方ちゃんの方を向いて彼方ちゃんを呼んだ。
「あっ。佐渡さん! ダメですよまだ無理しちゃ!」
彼方ちゃんがあわててこちらに戻ってきた。
心配いらないことを示すため僕は跳んだり、跳ねたりした。
「大丈夫だよ。もう元気だから!」
ちゃんと彼方ちゃんの顔を見て話せる。
さすがに小さい時に比べたら少しは成長したのかな?
「ほんとですか? 一応もう少し安静にしてた方がいいんじゃないですか?」
彼方ちゃんがまだ心配そうにそう僕に問いかける。
僕はその言葉に精一杯の笑顔で答えた。
「本当に大丈夫だよ。特に体に異常もなさそうだし、さっきも言ったけど今日は久しぶりにみんなと遊んだから、少し疲れちゃってたのかもしれないね。心配かけてごめん」
それらしい言い訳と、謝罪を口にする
「よかった~」
すると彼方ちゃんが床にぺたりとしゃがみこんだ。それも泣きながら……
彼方ちゃん。
本当に優しい子だ。
間宮さんの話が本当なら一番辛いのは彼方ちゃんなのに……。
一番ショックを受けて、倒れてしまいそうなのは彼方ちゃんなはずなのに……。
僕なんか話を聞いただけでショック状態になってしまっていたのに、彼方ちゃんはその辛さと戦いながらも僕に優しさをくれている。
これじゃあどっちが助けてもらってるのかわかったものじゃないな。
でも僕も返さなきゃ。
彼方ちゃんとの約束をやぶちゃったかもしれないけど、間宮さんがくれた大切な情報。
彼方ちゃんを救わなくっちゃ!
初レビューが書かれました。
みなさまには本当に感謝です!




