第1話
ねずみのおじいさんの【ダン】さん、おばあさんの【サンディ】さん。
ねずみのおとうさんの【ピーター】さん、おかあさんの【マリナ】さん。
そして5匹きょうだい――【トーマス】くん、【モモ】ちゃん、【チップ】くん、【ナナ】ちゃん、【ミライ】くん。
幼い頃に読んでいた絵本に登場していたのも、確かにみんなで9匹のねずみの家族だった。
そして1匹1匹の名前も、よく思い返せば、絵本のとおりだったように思う。
「さあ、お風呂を沸かしに行くよ!」
「行こう、行こう」
トーマスくんとチップくんに誘われ裏口から出ると、木の根っこの外側にくっつけるように作られた、浴室があった。
木で作られた、3匹分は入れる大きさの浴槽。その下に薪を入れて、沸かすようだ。
浴室の壁の上半分は、縦に細長い柱が一定間隔で天井と繋がっていて、その隙間から外の景色が見える。
半分に切った竹で作られた水道が、細長い柱の隙間に通され、風呂桶につなげてあった。近くの川から水を拾っているのだろうか。チャポチャポと水が注ぎ込まれる音が、静かな空間に響いている。
「さあ、薪を入れるよ。マサシ兄ちゃんも一緒にやろうよ!」
「うん、やろう!」
チップくんと一緒に、トーマスくんが次々と運んでくる薪を拾っては、オレンジ色に輝く炎の中へ投げ入れる。パチパチと音を立てて、風呂桶の中の水をあたためる暖かな炎。煙がぼくの方になびいて、思わずむせてしまう。
早く入ってみたいな、薪で温めるお風呂。
ねずみのおじいさん――ダンさんも、薪をたくさん持ってやってきた。
「沸いたら、みんなで入ろう。お手伝いしてくれて、どうもありがとうね」
「いえいえ、お世話になるんですから、これくらいさせてください」
日が暮れて、空が藍色になっていく。
湯気の匂いと、煙の匂いが混ざる。
チップくんはお湯に指をつけ、温度を確かめていた。
「あちち!」
「あはは! ちょっと熱かったかな? 軽くかきまぜようか」
トーマスくんがぐるりとお湯をかき混ぜた後、ぼくもお湯に指を浸してみた。うん、いい湯加減だ。
「マサシ兄ちゃんの着替えは、おかあさんが用意してくれたよ。タオルは……はいこれ」
「ありがとう、チップくん」
「それじゃあ、ぼくらは一足先に入ろっか!」
服を脱ぎ、かかり湯をする。包み込まれるような心地良い暖かさが、身体に沁み渡る。
風呂桶に入り、ゆっくりと身体をお湯に浸した。
身体の芯からポカポカと温まり、ストレスでガチガチだった体が解れていく。
細長い柱の隙間から流れ込んでくる、涼やかな森の空気を吸いながら、お湯の中でゆったりと体を伸ばしてみた。
とても、気持ちがいい……。
おじいさんのダンさん、おとうさんのピーターさん、トーマスくん、ミライくんも入ってきた。
浴槽が大きいから、みんなで入っても足を伸ばせちゃう。
ざっぱーん! ピーターさんが入ると、お湯が滝のようにあふれた。
「それー! いくよー!」
「わっ! ちょっとー!」
チップくんが放った水鉄砲が、体を洗っているトーマスくんの顔に命中。末っ子のミライくんは一生懸命、ダンさんの背中を洗っている。
肩まで浸かってぽかぽか温まった後は、ぼくも一緒に身体を洗った。わたあめのように石鹸をぶくぶく泡立てながら。
「マサシ兄ちゃんも、背中洗ったげるね!」
「チップくん、ありがとね」
最近は湯船に浸かることもなくシャワーだけで済ませていたぼくは、ねずみの家族と協力して沸かし、一緒に入る薪のお風呂によって、何日分もの心と体の疲れが癒されていくのを感じた。
「さ、そろそろ上がろうか。ほら、夕ごはんのいい匂いがしてきたよ」
「さんせーい!」