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妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。  作者: バナナマヨネーズ
第三部

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第四章 とあるメイドの独り言 3

 偶然の出会いからタウンハウスのメイドの仕事を得たミュルエナだった。

 イシュミールが、部屋を出た後にカーシュから改めて聞いた話によると、まず母親の患っていた病が裏の世界の人間の罠だったことが分かった。

 最初に掛かっていた病は実は完治はしていたが、ミュルエナの腕前を気に入った組織の人間に嵌められて、母親は毒を盛られていたのだった。

 そうとは知らずに、ミュルエナは日々仕事をこなして金を稼いだ。

 すると、組織はさらにミュルエナを逃さないために母親に毒を盛り続けたのだ。

 しかし、そろそろ毒のせいで母親の病気を装うのが限界に来ていたため、予め失敗するように分かっていて仕事を振ったというのだ。

 それを知らないミュルエナは、仕事を失敗したケジメとして制裁を受けたのだ。

 組織は、ミュルエナを殺すつもりでいたようだったが、何故か殺さずに甚振った後に道端に投げ捨てたのだ。

 ミュルエナは、そこに疑問を覚えたがいつしかそれはどうでも良くなっていった。

 カーシュの手配した医者のお陰で母親は完治し、自分は優しいイシュミールの元でメイドとして働けることに日々感謝をしながら暮らしていた。

 

 そして、初対面では言い合いになってしまったが、顔がいいだけではなく性格もよく誠実でいい男のカーシュに次第に淡い恋心を抱くようになっていった。

 会えば口喧嘩になるが、それが嬉しくもあった。

 他の人には見せない一面が見られたようで、ミュルエナは、それだけで満足だった。

 

 ささやかな幸福で満たされた幸せに溢れた日々だった。

 

 なのに、そんな幸せは突然奪われた。

 ミュルエナの境遇を知って、優しく迎え入れてくれたイシュミールは突然変わってしまったのだ。

 守護騎士のカーシュが死に、妹に裏切られたイシュミールは、何故かタウンハウスに戻ってこなかった。

 あの事件が起こった後、イシュミールは王宮に住むようになったのだ。

 今まで、カインに何度言われてもタウンハウスでの暮らしを選んでくれていたのにだ。

 どうしても気になったミュルエナは、恐れ多くも王宮に忍び込んだのだ。

 幸せな暮らしにも腕は鈍っておらず、誰にも気が付かれることなく忍び込むことに成功した。

 そして、様子のおかしいカインを見つけた。

 今までは、煌めくような金色の瞳は暗く淀み虚ろな様子だった。

 その姿を見たミュルエナは、その症状に心当たりがあった。

 以前、裏の仕事をしていた時に、意思を奪われた人間を見たことがあったのだ。カインはその時に見た人間に、とてもよく似ていたのだ。

 何故こんなことにと思っていたが、今はそれよりもイシュミールの方が先決だった。

 さらに王宮内を探すと、とうとうイシュミールの姿を見つけることが出来たのだ。

 しかし、そこにいたイシュミールは、ミュルエナの知る彼女ではなかった。

 おかしいと思っていると、イシュミールらしき人物は何かをブツブツ言っていた。

 なんとかその声を聞こうと、場所を移動するとミュルエナの耳にその恐ろしい言葉の数々が聞こえてきたのだった。

 

「姉様、今日も空が青いわ。姉様の見る空はとても綺麗ね。はぁ、姉様と一つになれてわたくしとても幸せよ」


 その言葉を聞いたミュルエナは、そこにいるのがイシュミールではなく、その妹のイシュタルだと確信した。

 何故こんなことにと思う前に、ここにいるのがイシュタルだというのであれば、本物のイシュミールは、何処にいるのかと思っていると、イシュミールに成り済ましたイシュタルが、焦りだしたのだ。

 

 疑問に思いつつも後を追うと、王宮の敷地の外れの方にある塔に向って行った。

 

 そこで見たものは、先程まではボンヤリとしていたカインが何かを腕に抱いて泣き叫んでいた姿と、発狂するイシュタルの姿だった。

 

 それからミュルエナは、直ぐに屋敷に戻った。

 自分の見た事実に動揺しつつも、頭の中は意外と冷静にあることを計画していた。

 今回の事件は、全てイシュタルの思惑だと知ったミュルエナは、復讐を誓ったのだ。

 恩人であるイシュミールを死に追いやったカインとイシュタルを同じ様に死に追いやってやろうと。

 

 そこで、最初のターゲットにカインを選んだのだ。

 もうしないと決めて、捨てようとしたが何故か捨てることが出来なかった暗器の数々を見て、ミュルエナは考えた。

 

(そうか、あたしはお嬢様とカーシュの身になにかあった時に助けられるようにって、これを捨てなかったんだ……)


 そして、ミュルエナは暗器を身に着けていった。

 

 闇夜に紛れたミュルエナは、厳重な警備にも関わらずにスイスイと王宮の中に入っていった。

 そして、明かりも灯さずに自室のベッドに座っていたカインに襲いかかるために、影のようにその背後にそっと忍び寄った。

 一思いに殺すことも出来たが、ミュルエナは知りたかったのだ。イシュタルに良いようにされて、愛するイシュミールを死に追いやったカインの思いを。

 返答次第では、すぐに殺さずに嬲ってから殺してやろうと考えた。

 そして、背後に周ってその首に暗器を突きつけてから静かに問いただした。

 

「殿下、何故イシュミールお嬢様を助けなかった。何故、あの女の罠に易易と掛かった」


 しかし、カインはそれに答えなかった。

 

「答えろ!!」


「答えたところで……。もう、彼女は戻ってこない。俺を殺すんだろう?早く殺せ」


「っ!!」


 諦めの交じるような声を聞いたミュルエナは、逆にその声音に驚いた。屋敷に何度も訪れていたカインを何度か見掛けていたため、その声も聞いたことがあった。しかし、今聞いた声は、老人のように嗄れて、覇気もなく生に執着も無いように感じた。

 イシュミールを死に追いやっておいてなんて様だと怒りがこみ上げた。

 怒りのまま、カインをベッドに押し倒し馬乗りになって胸ぐらを掴んだ。

 

「お前は!!お前があの女の罠に掛からなければ、お嬢様は死ななかった!!自分だけ死んで楽になろうとするな!!」


 怒りのままにカインにそう言ったミュルエナなだったが、返答が返ってくることは期待していなかったが、その予想に反してカインは低い声音で言い返してきた。


「俺に……、俺にどうしろと言うんだ。彼女の危機を知って駆けつけたときにはもう……。イシュタルがなにかしたのは分かったが、抗ったがもう遅かった。あの日から頭に靄が掛かったようで何も考えられなかった。意識が戻ってきて急いでイシュミールを探したがもう遅かった。彼女はもう、この世にはいなかった。俺の目の前で光に包まれて消えてしまった……」


 カインの言葉を聞いたミュルエナは、無言でカインを殴った。カインも声も出さずに無抵抗で殴られ続けた。

 次第にミュルエナの殴る力は弱々しくなり、最後にはカインの胸を拳で叩きながら泣いた。

 

「なんだよ!!あんたも被害者じゃないかよ……。あの女の手の上で踊らされていただけじゃんか……。なんなんだよ、あの女の力は!!人を操るなんて聞いたこと無いよ……。あんた、薬でも盛られたのかよ?」


「分からない。気が付いたときには、頭に靄がかかりだして抗ったが無駄だった……。さぁ、俺を殺しに来たんだろう?さっさと殺せ。そうしたら、あの世でイシュミールに会って謝る」


「なんだよ!!一人だけ楽になるのかよ!!イシュミールお嬢様の汚名を晴らせよ!!あの女を地獄に落とせよ!!」


 そう言って、何度もカインの胸を拳で叩いた。

 

 どのくらいの時間が経ったのだろうか、カインは静かな声で言った。

 

「お前の腕を見込んで頼みがある……。俺は、何故こうなったのか理由を知りたい。彼女の被せられた汚名を雪ぎたい。協力してくれ。頼む」


 カインの言葉を聞いたミュルエナは、静かにカインの上から退いてから不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「分かったよ。相棒。あたしも真実を知りたい。それに、お嬢様の汚名も雪ぎたい。協力する」


 こうして、ミュルエナは真実を知るべくカインと手を組むこととなった。

 

「先ずは、イシュタルをなんとか拘束したい……」


「は?拘束だって?捕まえて、拷問してちゃっちゃと答えを聞こうよ?」


 ミュルエナは、出鼻を挫かれたと言わんばかりの表情でカインを馬鹿でも見るように言った。

 

「拷問は……無理だ。イシュタルだと分かっていても、見た目が彼女と瓜二つのあの女を傷つけることは出来ない……」


「は?ヘタレ野郎め」


「なっ、なんとでも言え!!それに、恐らくだがイシュタルは易易と口を割らないことは確かだ」


「ふ~ん。まさか、お嬢様に瓜二つのあの女で自分を慰める気?気がしれないわ」


「なっ!そんなんじゃない!!ただ……、俺は彼女との思い出が記憶の中にしか無い……。だからという訳ではないが……。それに、復讐の対象が側に居たほうが何時でも罰を下せるから……」


 ミュルエナの言葉に、何事かをゴニョゴニョいい出したカインのことを呆れたように見て吐き捨てるように言った。

 

「はぁ~。これだから童貞は……。あぁ~、でもお嬢様も(意味は理解してなかったけど)知ってたっけ?それでもこの面倒な男を好きだったなんて流石あたしのお嬢様だわ」


 ミュルエナの何気なく言った言葉にカインは驚愕した。

 

「なっ!!イシュミールは、俺が清童だと知っていたのか!!だっ、誰が教えた!!いや、別に結婚前に清いことは普通のことだ。俺はまだ15歳だしな!!全然可笑しいことではない!!だがしかし、男の沽券に関わる重要な問題でもある!!」


 迂闊なことを言ってしまったと後悔しつつも、全てをカーシュに擦り付けるミュルエナは、実にミュルエナだった。


「あぁ~、えっと、話の流れで?カーシュが……口を滑らせたと言うか……」


「カーシュ!!!イシュミールになんてことを教えたんだ!!」


 手を組んだカインの面倒くさい性格に、早くも組む相手を間違ったかなと後悔し始めたミュルエナだった。

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