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第四章 とあるメイドの独り言 1

 そのメイドは、ある公爵令嬢に恩義を感じていた。

 そして、その公爵令嬢を守る守護騎士に仄かな恋心を抱いていた。

 

 病気の母親の治療に必要な薬が高価だったため、その費用を稼ぐために黒い仕事をこなしていた女は、ある大事な仕事で失敗してしまった。

 法的にギリギリアウトな非常に黒寄りの灰色な仕事で金を稼いでいた女は、小さなミスから仕事を失敗してしまったのだ。

 そのけじめとして、今後女にはそういった灰色の仕事は回さないようにと裏の世界で取り決められた。

 そして、見せしめとして徹底的に痛めつけられた。

 それは、拷問と言ってもいいほどの折檻だった。

 両手は爪をはがされた上で潰された。そのうえで、利き腕も潰された。

 両足を潰されることは免れたが、足の爪は全て剥がされてしまった。

 遠慮もなく拳で殴られた顔は、元々地味なものだったが今は腫れ上がり見られたものではなかった。

 背中はムチで打たれたせいで、皮膚がめくれてぐちゃぐちゃになっていた。

 だが、幸運なことに命だけは取られることはなかった。

 

 見せしめの折檻が終わった後は、あまり人の通らない道端に馬車から通りすがりに投げ捨てられた。

 

 道端に転がった女は、朦朧とした頭で考えていた。

 

(あ~、失敗しちゃったなぁ~。はぁ。母さんの薬代どうしよう。それに、こんな怪我じゃ当分まともに働けないなぁ。っていうか、鏡見るの怖いわ。あたしの顔……。めっちゃ腫れてる気がする。っていうか、そういうレベル超えてる?)


 ボロボロの状態であっても、元々の性格の所為か女はまったく悲観しなかった。

 ある意味、あっけらかんとしていた。

 

 それは、偶然だった。

 

 普段は人のあまり通らない道に、人の声が聞こえてきた。

 女は、動かない体で耳を澄ませてその声を聞いていた。

 声の主は、可愛らしい女の子と少し低めの真面目そうな男の声だった。

 どうすることも出来ずに、その声に耳を傾けていると会話の内容が耳に入ってきた。

 

「無理を言ってごめんなさい」


「いえ、元は俺が―――」


「違います。わたしが夢中になってしまった所為です。でも、カーシュの教えてくれた近道のお陰で時間までには戻れそうです」


「姫……。はぁ。分かりました。今回はそういうことにしておきます」


「ふふふ。ありがとう。カーシュはなんだかんだでわたしに甘いから、こうでもしないと……。っ!!!カーシュ!!大変だわ」


 女が聞こえてきた楽しげな二人の会話に聞き入っていると、姫と言われた女の子が驚いた声を上げた。

 どうしたのかと思いつつも、体が動かない女はただ聞き耳を立てるだけだった。

 しかし、そう思っていると女の殴られて熱を持った体にひんやりとした何かが触れるのが分かった。

 驚いていると、すぐ近くで先程の女の子の声と男の声が聞こえてきた。

 

「貴女?大丈夫?いえ、大丈夫ではないわね。ごめんなさい。意識はある?」


「姫、怪我をしているようなので揺らしては駄目ですよ。あぁ、酷い怪我だ。見たところ、頭を打った様子はないですが、早急に医者に見せたほうがいいですね」


 その会話を聞いていた女は、声が出なかったため痛む手を動かして意識があることを伝えた。

 女の行動から意識があることが分かったのだろう、声の主たちは手早く次の行動に移った。


「意識があるのね。教えてくれてありがとう。カーシュ、馬車を呼んできてくれる?」


「わかりました。それと、殿下には今日の約束はまた後日にと伝言もしておきます」


「カーシュ、ありがとう」


 見ず知らずの、こんなボロボロの女を躊躇いもなく助けてくれる女の子と男のことを――お人好しだなぁ――と思っていた女は意識が遠くなるままに身を任せたのだった。

 

 

 次に目が覚めると、ふかふかのベッドに寝かされていた。

 肌に感じるのは、スベスベのシーツと手触りの良い布でできた寝間着だった。

 女は、真っ先に場違いなことを考えていた。

 

(はぁ~。なんて心地良い感触。スベスベでフカフカで、もう一眠りと行きたいところだわ~。いや、まじで)


 そして女は、本当に二度寝をした。

 心地の良い微睡みの中で女は、優しい手に撫でられる夢を見た。

 その優しい手は、疲れ切っていた女の心も癒やしてくれたように思えて自然と涙が溢れてきた。

 そこで女は、はっとして目が覚めた。

 目覚めた女の視界には、妖精と見紛うほど美しい美少女がいた。

 

「ここは天国だったのか!!」


 目覚めて第一声の奇天烈な台詞に美少女、イシュミールは花のように微笑んだ。


「くすくす。ここは、天国ではないですよ。痛いところはないですか?」


 美少女に看病されていたことに気が付いた女は、赤面しつつも体中の痛みがないことに気が付き驚きながらもイシュミールに返事をした。

 

「あれ?全然痛くない……です」


 女の言葉に、イシュミールはホッとしたような表情をした後に優しくほほえみながら女に言った。

 

「よかった。先生のお薬が効いたみたい。念の為先生を呼んで診てもらいましょう」


 そう言ってイシュミールは近くにあったベルを鳴らした。ベルの音を聞いた侍女が直ぐにやって来た。そして、イシュミールから指示を受けて直ぐに医者を連れてきた。

 医者は、女を診察した後に薬を処方して屋敷を後にした。

 それを視線で見送っていた女は、医者と入れ違いに入ってきた男を見て素っ頓狂な声を上げた。

 

「くわっ!!マジイケメン!!!」


 部屋に入ってすぐに女の奇妙な第一声を聞いたイケメン、カーシュは苦笑いの表情で言った。

 

「侍女に聞いたとおり元気そうだな」


「カーシュ、ありがとう。どうでした?」


「はい。()はないと俺は判断します」


 カーシュの言葉を聞いたイシュミールは、可愛らしく頬を膨らませてカーシュを叱った。

 

「めっ!もう、そんな風に言っちゃ駄目よ?」


「俺は、姫の守護騎士です。姫に害を与える者なら例え女だろうと、子供だろうと、老人だろうと、赤子であっても排除します」


「カーシュ?赤ちゃんがどうやって悪いことをするの?」


 何気なく会話を聞いていた女は、イシュミールの台詞に――えっ?そこにツッコムの?――と、心のなかでツッコミを入れた。


「例えば、泣き声を上げて姫を困らせたり、可愛く笑って姫をメロメロにしたりなど、赤子特有のスキルで姫の行動を制限することが悪です。まったく、悪魔のようですね」


 イシュミールの可憐で可愛い言動と、天然なのかカーシュの斜め上の発想に女は心のなかでツッコミを入れた。

 

「うは~。美少女の『めっ!』の破壊力はパないわ~。あ~、眼福~。それに比べて、この残念イケメンのポンコツ具合がヤバいわ。いや、逆にそこがギャップ萌えだわ~。残念イケメンだけど~。いや、イケメンは、イケメンだから価値があるのよ。残念でもそれを超える価値があるのよ!!」


 女は心の中でツッコミを入れたはずがその声は、ダダ漏れだった。

 

 イシュミールは、ただニコニコと微笑み、カーシュは蟀谷に青筋を立てながらも特に女の発言に対して何も言わなかった。

 

 女の発言を黙殺したカーシュは、何もなかったかのように女に言った。

 

「ミュルエナ・アリス。お前のことは調べさせてもらった。母親のことは安心していい。お前が真面目に働くというのなら、ここの使用人として雇ってもいいがどうする?」

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