第11話 ファニファ
ここは…どこだ?
声が音として出ていないにも関わらず周りに響く…そんな不思議な空間にクリフェンはいた。
立っているのか座っているのかそれとも倒れているのかすら分からない奇妙さを感じていた。とりあえず誰かいないか声を出して呼びかけて見ることにした。いつもとは感覚が違うが一応声らしきものが出ることは確認済みである。
おーい、誰かいないのかー?
少し待ってみても返事は返って来なかったのでまるでこの空間には自分だけなんじゃないかと徐々に孤独感に襲われ始めていると…
『やっほー!元気してるー?』
うおっ!出た!
『何その言い方ー、人をお化けみたいにーあれ?あたいって人って定義してもいいんだっけ?』
いきなり聞くだけで陽気な気分になりそうな元気な声が聞こえてきた。
自分1人だけと思い始めていたせいで失礼なことを言ってしまいその声の主は少し不満そうだったが怒ってはいないようだ
あ、あの…ちょっといいかな?
『んー?なにー?』
この空間がなんなのか知ってる?知ってたら教えて欲しいんだけど…
『ふーん、ここがなんなのかじゃなくてこの“空間”がなんなのかって質問なんだ。意外に見る目あんじゃん』
少し満足げにつぶやくと『その質問に答える前に自己紹介しなきゃね』と言った途端なにも感じなかったクリフェンの五感が戻ってきたかのように周りが分かるようになった。
クリフェンは柔らかそうな緑色の芝生の上に立っていた。少し見渡すと一面その緑色の芝生が地平線の向こう側まで続いていた。季節的には春だろうか、ぽかぽかと暖かい日の光に当たりながら視線をさらに動かそうとしたタイミングで…
『おーい、こっちこっち!』
声のしたほうを見てみるとそこには小さいが居心地のよさそうな木造の家がありその前で手をぶんぶん振りながらクリフェンを呼んでいる少女がいた。見た目的には中学生くらいだろうか?その少女のほうへ歩いて行き、家から数歩下がったところで家をなぜか少し懐かしいと感じながら見ていると
『いつまでボーっとしてるのさ!ほらほら早くあたいの家に入って入って!』
「分かった!分かったから押すなって!」
その小さいな体のどこからそんな力が出てくるのかと聞きたくなるほど強い力で押され抗議したものの逆らえずにそのまま家の中まで押されてしまった…このときにいつも通りの声が出ることを少し遅いながら認識したクリフェンだった…
「そういえばアクト君」
「はい?」
クリフェンの自我が削除されるかもと言われ帰ってくることを信じてはいるもののどうしても雰囲気が重くなってしまうアクトに思い出したようにユカルドは質問した。
「君がこの学園にくる前からクリフェン君と知り合いだったりするのかい?」
「…!実はそうなんですよ、それにしてもよく分かりましたね」
クリフェンとは実は入学前から知り合いだったがそのことを誰かに話していないために誰にも知られていないと思っていたのだ。
「いやなに、君がこの学園に来てから数週間くらいしか経っていないのにまるでそれ以前からの知り合いだったかのように仲が良かったから少し疑問に思っただけだよ」
なるほどな、とアクトは思った。確かに入学して同じクラスにクリフェンがいることがわかった瞬間から嬉しさのあまり彼以外とは全くと言っていいほど話さなかったので当然といえば当然か
「そこでアクト君に質問があるんだ」
「はい、なんですか?」
「昔、クリフェン君がいきなり一人で話し出したり、いないはずの誰かの話をし出したりとかなかったかい?」
「えーと…あ、そういえばそんなこともあったような…ぐっ…!」
クリフェンの昔のことを思い出そうと首を捻っていたらいきなり頭痛がした。そしてその痛みには覚えがあった。そう、シャドウの部屋に行こうとしたときに感じたものと全く同じ痛みだったのだ。
「ク…リ…フェ……」
「アクト君!?」
体が傾き薄れゆく意識の中で無意識のうちに親友の名前をつぶやきながら…突然倒れ始めたアクトに駆け寄ろうとしているユカルドを見ながら…完全に意識を失った。
ユカルドの口が三日月型に裂けるのを見たような見ていないような……
クリフェンはどうすればいいのか分からず完全に色々質問するタイミングを失っていた。
謎の少女に押されて入った小さい木造の家の内装は外見を見たときのイメージ通りで木でできた机に椅子やレンガでできた暖炉、そしてふわふわのソファがあり非常にリラックスすることができたのだ。
『ふーん、ふふーん♪』
愉快な鼻歌はちょうど暖炉の近くにあるドアの向こうから聞こえて来た。
ここ最近色々なことが一気に起きたせいで意外に疲労が溜まっていたらしくソファに座った途端、包み込まれるような気持ち良さと窓から入ってくる暖かな日の光に当たりながら静かに眠ってしまった…
『おーい、食事の準備出来たよー?あれ、寝てる…ねえ起きて!起きてってば!』
肩を掴み起きてと言いながら数秒ガクガク揺らしているとやっとクリフェンは目を覚ました。
「ん…あれ、俺いつのまに寝てたのか…」
『ほらこっち!食事の準備出来てるよ!』
手を引っ張られ寝ぼけなまこで立ち上がり連れられるがまま食卓に着いたのだが…
「ってそうめんかよ!」
『あれ?そうめん嫌いだった?』
「いやそういうわけじゃないけど…こういう木造の家って言ったら温かいスープじゃない?」
『外はこんなに暖かいのにさらに温かいスープが飲みたいっていうの?どれだけ寒がりなのさ』
「いや…そうじゃなくて…なんか木造の家といったら温かいスープってイメージだったから…」
『それは外が寒い時だけだよ!なんの童話のイメージなのさ』
笑われてしまった…しかも涙が出るレベルの大爆笑…そんなに変だったかなぁ…
『はー死ぬ!笑い死ぬ!お腹痛い!』
「どう?やっと落ち着いてきた?」
その少女の笑いが収まるまで体感時間で約5分、笑い疲れたのか床でぐったりしながらはーはー言っている。
そしてそこから約1、2分で呼吸も整えてから改めて食卓に着いた。
『そうめん食べながらだけど自己紹介するねー、質問とかはあとで受け付けるから安心してねー!』
それならある程度質問まとめておこうと意識の3分の1くらいを割き残りはこの少女の話を聞くことにした。
『あたいの名前はファニファ!孤独のファニファ!』
「俺の名前は」
『クリフェン…でしょ?あたいはね、クリフェンのことならなーんでも知ってるんだよ!』
「なんで知って…」
『質問はあとで受け付けるって言ったでしょ?そういうのもちゃーんと答えてあげるから♪』
そう胸を張りながら宣言され理由を聞こうとしたら遮られてしまった…まぁ気を悪くしたわけではないっぽいので良かったが…
『遮ったけど別にこれ以上言いたいこともないから質問ターイム!』
「え、あ、はぁ…」
楽しそうに言われては突っ込みたくとも突っ込めないというものである。
『なんでも聞いていいよー?なんせ時間はたくさんあるんだから♪』
「えっと…時間はたくさんあるって言うのは?」
『簡単なことだよ!この空間は現実世界とは概念そのものが違うんだから…そのおかげで向こうでの1秒がこっちでの10分なんだから』
なるほど、原理ややり方などは想像もつかないがそういうことらしい。
「じゃあ次の質問なんだけど…さっき俺のことなんでも知ってるってどういうことなんだ?」
『どうもこうもそのまんまの意味だよ?あたいはずーっとクリフェンのことを見てたもん!』
「ずっと?」
『うん!だってあたいはクリフェンの守護神なんだから♪』




