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28話.勇者ハルト、その2

 あの赤い敵を目掛けて剣を振るう。アイツを倒す、それは僕が成し遂げなければいけない事だ。もう二度と、このスケルトンに殺される人が出ない様に、絶対にここで仕留める。


 カタカタ、カタカタ。


 剣が自身に向かっているのに、余裕たっぷりに不快な音をまき散らすスケルトンは、僕の神経を逆撫でする。


 ――絶対に、倒す。


 心の昂ぶりを剣に乗せ、渾身の力で一撃を放った。あのスケルトンが、バラバラの骨になる未来を予期して。剣に纏わせた光がより一層の光を放ち、周囲を明るく照らし出す。


 闇の魔物を浄化する、天の光だ。これが、僕の勇者たる力だ!


 だがしかし、予想した未来に現実は収束しない。僕の剣は、確かに切り裂いた。ほんの一瞬前、スケルトンのいた場所を。


 剣から飛び出す閃光が、宙を切り裂き、霧散する。手応えは……無い。


 カタカタ、カタカタ。


 そして、僕を嘲笑うかの様に背後からはスケルトンが奏でる不協和音が響き渡る。まるで、お前じゃ俺は倒せねえよ、とでも言っているかのようだ。


 完全に、僕は此奴に舐められている。僕は、今完全に背後を取られた。スケルトンの動向も目に映らなかった。このスケルトンが僕を殺す気だったのなら、僕はもう死んでいるだろう。


 きっと、此奴には獲物を甚振ってから殺す趣味でもあるのだろう。だからこそ、あの人も喉を切り裂かれ、後一撃で簡単に命を奪える状況にありながらも、生かされていたのだ。


 そして、きっと僕が間に合わなかった人達も、同じように殺された。弄ばれ、絶望を与えられ、そして彼らは死んでいったに違いない。


 ――ふざけるなよ!


 此奴だけは、此奴だけは許すことが出来ない。血が沸騰する。純粋な、怒りに身体を支配される。


「……ダメ、落ち着いて」


「ライトセーバー!」


 三度、剣に光を纏わせる。本来、僕の魔法剣は連続で発動する技では無い。この技は、僕の中にある勇者としての力を剣に付与する技だ。連続で撃てば撃つほど、僕の中にある力は枯渇し、そして回復にはそれなりの時間が掛かる。もし、今回も外れたら、それこそ勝ちの目は無くなってしまうのかもしれない。


 でも、普通に戦った所で、僕にこの怪物を捉えられる程のスピードは無い。精々、運が良くて一撃入れられるかどうかといった所だろう。そして、普通の攻撃を一回喰らわせた程度では、このモンスターは倒れない。


 だからこその一撃必殺。与えられる回数が限られているのなら、一撃で勝負を分ける技を使うしかない。天の光は、モンスターの身体を内部から破壊する。掠りでもすれば、此奴はもう以前の様には動き回れなくなる筈だ。


「僕は、お前を倒す……!」


 カタカタ、カタカタ。


 剣が帯びている光が強まり、周囲を明るく照らし出す。スケルトンに焦った様子は無い。笑っているかの様に、音を打ち鳴らしている。だが、これでいい。舐められていても、別にいい。


 怒りに身体を支配されている反面、頭は静かに回転を始めた。此奴に、僕の剣を届かせる為の方程式が、頭の中で展開され、そして一つの解を導き出す。


「行くぞッ!」


 地面を蹴って、僕に出来る最高速でスケルトンに接近し、一閃。当然の様に、スケルトンは移動した。僕が切り裂いたのは、スケルトンの残した残像だ。そして、虚栄を切り裂いた僕の剣は、その輝きを失っていく。


 ――まだだ! 


 スケルトンの移動先は分かっている。二回も同じように移動されたのだ。流石に予想は出来ている。だからこそ、一回目の攻撃はフェイク……!


「ライトセェェバァァァアア!」


 僕の中にある力が、急激に無くなっていくのを感じる。だが、相反して剣は輝きを増している。僕の力が、剣に乗り移り煌きを放つ。この機会を逃せば、もうチャンスは二度と来ない。この一撃で、この一撃必殺の魔法剣で、僕は此奴を倒す!

 

 勇者は、悪を許さない。悪には、絶対に屈しない!


 スケルトンの居場所は分かっている。予想を立てた、その居場所――僕の背後を、振り返る事無く魔法剣で切り裂いた。


 今度は、獲物を切り裂くズシリと重い手応えが、手に残った。


「グギャアアアアアア!」


 声帯など、存在しない筈のスケルトンから悲鳴の様な物があがる。僕の剣は、スケルトンの右腕を切り裂いていた。閃光が、スケルトンの右腕を侵食していく。今は右腕だけだが、そのうちスケルトンの全身を侵食し、浄化するだろう。天の光とは、そういう物だ。


 致命的な一撃を与える。それは成す事が出来た。だが、此奴に止めを刺す余力は、もう僕には残されていない。


 ……でも、少しだけ冷静になれました。後はアルルがいる事ですし、何とかしてくれるでしょう。


「グギャアアアアア!」


 だが、右腕を光に侵され、苦しみ暴れるスケルトンは、突然左手を振り上げた。そして、それを真っ直ぐに振り下ろす。――自身の、右腕へと。


 ……何、を?


 スケルトンの右腕が、ポトリと地面に落ちる。天の光は、右腕のみを完全に浄化し、そして宙に溶けていった。


「グギャアアアアアア!」


 右腕を失った物の、スケルトンは未だに健在だ。寧ろ、怒りに呑まれている分、先程よりも元気かもしれない。


 ……どうやら、もう無理そうですね。


 向かって来るスケルトンの一撃で、おそらく僕は死ぬだろう。明確な死のイメージが、僕の脳裏に映し出される。


 でも、勇者は悪には屈しない。屈しては、いけない。


 最悪のイメージが脳裏に映し出されようと、目の前の脅威から目を逸らす訳にはいかない。最後の瞬間まで、僕は勇者として戦う。


 真っ直ぐに、此方に向かって来るスケルトンに視線を固定する。目を逸らしたら、僕は心までこのモンスターに負けてしまった。そんな気がするから。


 ――瞬間、身体を抱え込まれたのが分かった。僕じゃない、もう一人の、勇者に。


「何を……しているんですか?」


「……逃げるよ」


 僕を抱えながらも、高速でスケルトンから遠ざかるアルル。


 分からない。あのスケルトンは脅威だ。片腕を失ったとはいえ、僕達が逃げるわけにはいかない。放っておけば、絶対に新たな被害者が出る。


「あのスケルトンなら、今は僕に対して怒っています。僕を囮にすれば、アイツを倒す事が出来る筈です」


「……勇者は、人を護る者」


 ――ッ!


「そんな事は分かってますよ! でも、だからこそ僕達がアイツを倒さないと……!」


「……私だけじゃアイツに致命傷は与えられない。今は退くべき」


 アルルの言葉は、正論だ。どうしようもなく沸騰した頭でも、それは理解出来た。反論の言葉が、声にならずに消えていく。代わりに、僕の口から出てきたのは別の言葉だった。


「……悔しいなあ」


 ぽつりと呟いたその言葉は、アルルの走る音に掻き消された。

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