27話.勇者ハルト、その1
今回から少しの期間主人公変わります。
――走る、走る。あの声がした方向へ。
既に響き渡っていた悲痛な声は消えてしまっている。それでも、分かる。僕の向かう先に、助けを求める人が確かに存在している事を。
僕は彼を助けにいく。だって、僕は勇者だから。勇者は、弱い者を助ける為にいるんだ。
弱い者を助ける。弱い者を護る。この力の使い方に、疑問を持った事は無い。でも、不満を持った事なら何度もある。
僕は、勇者なのに――弱い。
僕にもっと力があれば、皆を護るのは簡単だ。このダンジョンだって、僕がもっと強ければ一人で攻略出来た筈だ。
でも、僕にそこまでの力は無い。
結果、皆の力を借りて、その人達も危険に晒す。勇者が、他の人の力を借りて、その人を危険に晒すなんて笑えない話だ。
そもそも勇者は、皆を助ける為にいるんだから。
一人で皆を護りたい。それには、今の力じゃ足りない。そして、そんな奴を勇者とは言わない。勇者の皮を被っただけの、偽物だ。
そんな事は分かってる。
でも、僕は勇者なんだ。弱くても何でも、僕は勇者なんだ。だから、助けを求める人は絶対に見過ごせない。
絶対に、そこだけは曲げられない。
ダンジョンの奥へ、奥へひたすら向かう。分かれ道を進み、また全速力で走る。既にかなりの時間が経っている。男の声は依然聞こえてこない。もしかしたら、もう手遅れな可能性もある。
……いいや、そんな訳が無い。そうならない為に、僕がいるんだ。
脳裏によぎった最悪の状況を振り払い、疾走する。もっと速く! ……速く!
…………そして、僕は辿り着いた。大広間の様な広さを持った空間。そこにいたのは、四人の人達。僕の、守りたい人達。
「助けてくれぇ……」
その中の、一人の男が言葉を発する。彼の声には聞き覚えがあった。その声は先程、響き渡っていた声と見事に一致する。だが今、男が発する声は弱弱しい。その原因は一発で分かる。
男は、喉を切り裂かれていた。ドクドクと流れ出る血が、男の命がもうそれ程長くない事を教えている。それでも、生に執着しているのだろう。死にたくないのだろう。
狂ってしまった様に、助けてくれと何度も、何度も、同じ言葉を呟いている。
……生きているのは、この男のみだった。周囲には、人だった物が散乱している。かつて人間だった者達が、物言わぬ骸と成り果てていた。
間に合わなかった?
僕の存在理由が、勇者であるという心の支えが、崩れていくのを感じる。助けられない? 勇者なのに? そんな奴が、勇者でいいのだろうか?
――カタカタ。
不快な、骨を打ち鳴らす音が周囲から響いた。
「ああぁ……ああ!」
男の震えようから、この惨劇を引き起こした原因を察する。そこにいたのは、作戦会議でも言われていた、赤いスケルトン。通常だと白い骨は、返り血でも浴びたかの様に赤黒く染まっている。武器こそ持っていないが、この怪物にはそんなものは必要ないのだろう。鋭利な手の骨は、下手な刃物よりよっぽど凶器になりそうだ。
――このスケルトンが、皆を殺したのか。
僕が、守りたかったモノを、壊したのか。
「ライトセーバー……」
心の奥の激情に身を任せ、本能のままに剣を振るう。……此奴が、皆を殺した。だから僕は、お前を許さない。
皆を殺した悪を、僕は絶対に許さない。
スケルトンに動きは無い。一撃で倒せるとは思っていない。でも、先制攻撃は入れさせて貰う……!
そして、スケルトンは突然視界から消えた。
……え?
背後に、強い衝撃を感じた。吹っ飛ばされる身体。視界に入ったのは、金色の髪。そして、僕のいた位置に攻撃を叩き込んだスケルトンの姿。
「アルル!?」
そうだ、彼女もついて来ていたじゃないか。なんでそんな事も忘れていたんだ、僕は。
「……落ち着いて」
――落ち着いて? この状況を見て、落ち着け?
……アルルは何を言っているんだ?
本気で訳が分からない。皆を殺した仇が、目の前にいるのに、どうして落ち着く必要があるのだろう。
それに、こんな奴に屈するのは、勇者じゃない。勇者が、悪に負けるなんてある訳が無い。
さっきは油断しただけだ。きっと、集中すればスケルトンの動きは見切る事が出来る。大丈夫だ、あんな奴に僕が負ける筈が無い。
剣を握る手に、再び力を込める。
「ライトセーバー!」
あの赤いスケルトンを倒す。その為なら、僕はどうなってもいい。
……悪は滅ぼす。
だって、僕は勇者だから。




