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25話.武闘家

 武術の達人は、相手の動きを完全に読み、戦況を支配する。地球にいた時、友人からこんな話を聞いたことがあった。その時は、そんな事が出来る訳ないと一笑に付したのだが、その認識は改める必要がありそうだ。


「……まじかよ」


 目の前で展開されていたのは、一方的な戦いだった。上下左右を縦横無尽に動き回るテンと、それを迎え撃つスケルトン。


 スケルトンが振り回す剣を、テンはギリギリで躱していく。そして、攻撃した事によって生じる隙を見逃さず一撃を入れ、再度スケルトンから距離を取る。


 一見、戦闘の体を成している様に見えるが、両者の間に明確な差が存在する事は明白だった。


「凄いですね……。彼の歳でここまでの武術を使えるとは……」


「やっぱり、あれは凄いのか?」


「凄いなんてもんじゃないですよ。あれだけ戦えるのなら、王都の警備隊にも入れます。こんなダンジョンには明らかに場違いな強さです。もっと上の……そうですね、最上級のダンジョンでも十分戦えるレベルですよ」


 テンの援護に来たのだが、急いでくる必要は無かったのかもしれない。寧ろ、下手に手を出すと逆に足を引っ張ってしまいそうだ。それ程までに、テンの強さは圧倒的だった。


「ハルト、お前勇者なんだろ? ……テンに勝てる?」


 ふと、気になった事をハルトに聞く。どうでもいい話かもしれないが、天性の強さを持った勇者と、武術を極めた人間。天から与えられた才能に追いつく事は、普通の人間でも可能なのか。スケルトン相手に大立ち回りを演じるテンを見ていると、そんな事を考えてしまう。


 ……与えられた力が無くても、努力によって目指す場所には到達出来るのだと。


「僕は勇者の中でも弱い方ですからね……。勝てる自信は無いですね。勝たなければいけないなら、勝ちますけど」


 勇者であるハルトに、ここまで言わせる程テンは強いのか……。


 それなら、オレは――。


「おらあっ!」


 連撃によって、無理矢理にスケルトンの体勢を崩し、そこに必殺の拳を打ち込むテン。


 スケルトンを構成するパーツが地に落ち、その生命活動を停止させる。どうやら、本当に助けは要らなかったらしい。


 ……これなら、最初にアルルの方を助けに行くべきだったのかもしれない。テンは武器を持たない武闘家だ。一対一では、戦闘が厳しいと踏み、最初に助けに行ったのだが。テンがここまで武芸に秀でていたのは嬉しい誤算だ。


 今後も、多数のスケルトンに囲まれた時は頼りになる存在だろう。


「おっしゃあ! ……おお? シンにハルト、いたのかよ!」


「お見事だったよ、テン。さあ、アルルの援護に行こう」


「……そうだな」


 戦闘音は、かなり近い所から響いて来ている。身体の痛みは大分まともになってきた。アルルと合流すれば、再び四対一の状況になる。このままいけば、何とか切り抜けられるだろう。



 



 ◆






 アルルと合流し、スケルトンを倒した後、ダンジョン内で暫しの休息をとる事になった。勿論、どこから敵が来るか分からない為、周囲を警戒しつつではあるのだが。

 

 思い出すのは、先程の戦闘。圧倒的な力を見せたテンが、どのようにしてその高みまで至ったのか。


「なあ、テン」


「なんだ?」


「さっきの戦闘見てたんだけどさ、凄かったな」


「そうか? 特別な事はしてないと思うぜ」


 テンは、特別な事をしていないと言うがそんな事は無い。寧ろ、テン程の強さを持つ者が少数なのは、ハルトから聞いて知っている。


「素人目に見ても、お前が武術に秀でている事が分かったよ」


「そうか? ありがとな」


「やっぱり、毎日努力してたんだろ? 何を思って努力していたんだ?」


 ……努力をするのは、簡単なじゃ無い。瞬間的にならば、誰だって頑張る事は出来る。大変なのは、その頑張りを継続する事だ。

 

 テン程の力を手にするのは、並大抵な努力では不可能だろう。だからこそ、気になる。何故、そこまで頑張る事が出来たのか。


「努力はしてたけど、俺は気付いたらこんな感じになってたからなー。何を思ってたと聞かれても分かんねーな」


 ――なんだ、それ。


 テンの言葉が理解出来ない。気付いたらこんな感じになっていた? そんな適当な考えであれ程の力を手にしたのか?


 或いは、努力する事に理由を求めるオレが間違っているのだろうか。


「王都の警備隊に入りたかったとか、そういうのも無いのか?」


「んー……。特にはねえな。あー、でも生き残るためには強くなる必要があるからな。お前の言葉じゃないけど、勇者に頼ってばかりもいられないだろ?」


 やっぱり、オレには理解できない。明確な形の無い、イメージしにくい物の為に努力する事が出来るなんて。


 少なくとも、オレには無理だ。


 ……ダメだ、思考を切り替えよう。今はダンジョンだ。別の事に思考を取られている暇は無い。


「テン、僕からも一つ聞いていいですかね?」


 どうやら、ハルトからも聞きたい事があるらしい。死線を一つ切り抜けた事で、パーティ内の雰囲気が心なし良くなっている気がする。勿論と言うか何というか、アルルは会話に参加して来ないが。


「おう、いいぜ。何だ?」


「それ程の力がありながら、何でパーティに入れなかったんですか? テン程の力があれば、どのパーティでも大歓迎だと思うのですが」


「ああ、俺は最近この辺に来たからな。仲間もいねえし、そもそも今時、武闘家をパーティに入れる物好きなんていねえ。だから助かったぜ、パーティに入れてくれてありがとな」


 ……テンの言う事が本当なら、オレは相当ツイているのかもしれない。


 正直、テン以上に戦力になってくれる奴はいないだろう。今ならそれが分かる。コイツの強さは、文字通り頭一つ抜けている。

 

 ――オレは、勇者を殺さないと決めた。殺したくないと、今はそう思っている。


 ダンジョンでの戦闘は、更に苛烈さを増していく事だろう。だからこそ、今は休息を取ろう。


 ……いざという時に守られるのは、もう嫌だからな。

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