プロローグ
人間として生まれた私にとって、5歳のお誕生日プレゼントは『絶望』だった。
この世界には、魔力や異能を持つ『人外』と呼ばれる種族がいる。龍人、鳥人、獣人——彼らは強大な力と圧倒的な地位を誇り、魔力を持たない人間は社会の最下層で肩身を狭くして生きるのが当たり前だ。
そんな私に下された5歳適性検査の診断は、まさかの『ガイド能力保持者』。
要するに、強大すぎる力ゆえに自滅・暴走の危険を抱える人外たちの『精神安定剤』として生きろ、という宣告だった。
ガイド能力を持つ者は非常に珍しい。だからこそ発覚した時点で人権や拒否権など存在せず、進路は強制的に国最高峰の『ファリヤーナ学園・ガイド科』へと一本化されてしまうのだった。
「はぁ……」
ファリヤーナ学園の重厚な鉄門を見上げながら、私は何度目かわからない溜め息を吐き出した。
今日から始まる高校生活。
広大な敷地を誇るこの学園は、生徒の質によって露骨すぎるほど明確な三つの『科』に分けられている。
一つ目は、能力を持たない成績優秀者や高地位の者が集まる【普通科】。
二つ目は、私のようにガイド能力を買われて強制的に集められた【ガイド科】。
そして三つ目が、圧倒的な力と魔力、そして尊い血統を持つ者だけが許された最頂点——【特殊科】だ。
(……地獄かな?)
制服の袖をぎゅっと握りしめる。
ガイド能力は高貴な血筋に出やすいため、この学園の『ガイド科』にいる生徒のほとんどは由緒正しい家系の獣人や鳥人のお坊っちゃま・お嬢様ばかり。
対して私は、魔力も地位もないただの人間。
それどころか、中学時代のガイディング実技成績は学年最下位をぶっちぎる、正真正銘の『落ちこぼれ』だ。
私の頼りないガイド能力なんて、その辺の微弱な魔力を持つ獣人の子の手を握って、ほんの少し頭痛を和らげるのが精一杯。
「おい見ろよ、あいつ人間だろ……? なんでガイド科の制服着てんだ?」
「マジかよ。あの程度の力で僕たちの同期気取り? 笑わせるよね」
校門をくぐった瞬間から、周囲の刺さるような視線とヒソヒソ話が聞こえてくる。
鋭い獣の耳や綺麗な羽を持つ生徒たちが、あからさまに軽蔑の眼差しを私に向けていた。
けれど、私は俯かない。
弱そうだとはよく言われるけれど、私だってただ黙って怯えているだけの軟弱者じゃない。言うべき時はちゃんと言うし、自分の人生を勝手に諦めるつもりもない。
(笑いたければ笑えばいいわ。私だって好きでここに来たわけじゃないもの)
私の目標はただひとつ。
このハイレベルすぎる学園で、誰の目にも留まらず、トラブルを起こさず、なんとか落ちこぼれのまま無事に3年間を卒業すること!
目立つのは絶対にNG。
【特殊科】の雲の上の怪物たちなんて、一生関わることなく遠目に見ているだけで十分だ。
「よし……目指すは、空気のような3年間よ!」
パンッと自分の頬を両手で叩き、私は気合いを入れ直して、あまりにも格差の激しいファリヤーナ学園の門をくぐり抜けた。
——この時の私はまだ、知る由もなかったのだ。
絶対に近づかないと心に決めた『最頂点』の男に、目をつけられてしまうなんてことを。




