9話 最終決戦前に
このタイミングでゼノがやって来た。
やるしかないのか…?一瞬、そんな考えが頭をよぎったが、直ぐに消えて無くなる。
「遊ぶ…?俺はそんな気分じゃないっ!」
「まぁ、そう言うな。別に今じゃなくてもいい。…傲慢と嫉妬を倒し、強欲を手に入れたか…やるじゃねぇか、怠惰。それにしても、意外だったぞ。お前がちゃんとこれに参戦するとはな」
「何だと…?」
「最初お前が暴食を下したと聞いた時はあの時の冗談の延長線だと思ってたが、ここまで続くとは。どうやら本気らしいな。だから俺もきちんとお前と戦う事にした」
「で…?何しに来たんだよ?」
「ここでお前を倒すのは簡単だが、それはお互いに本意じゃないだろう。そこでだ。俺は今から1ヶ月お前に時間をやる。嫉妬と傲慢の血族を仲間に引き入れて、ここに戻って来い。その後に俺とお前で一対一の最終決戦だ。お前がここに戻って来た事を確認したら、俺もここに来よう」
俺はいろいろと思う所があったが、とりあえずこいつの提案を受け入れる事にした。
「…分かった。それで終わるんだな…?」
「勿論だ。頂点は常に一人。俺かお前のどちらかだ」
◇◇◇
その後、俺達は憤怒の集落にやって来ていた。2人の治療の為だ。と言っても、ノヴァは包帯を巻いてはいるが、普通に動いている。
「なるほど…このレベッカを刺したダガーに能力があったせいで俺達はあいつの接近に気付けなかったのか」
「あぁ。しかも、奴の三叉槍も似たような能力を持っており、自分の所有者から離れると敵に当たるまでは所有者以外認識出来なくなるようだ」
「なるほどな…それで、これ俺が持ってていいのか?」
「寧ろ、ジェイド殿に持たせて良いものか…孫を刺した武器だぞ?」
「私は構いません。お祖父様」
壁に寄りかかりながらも、俺達の元まで歩いてきたレベッカ。まだ辛くはありそうだが、歩ける程には回復してきたようだ。
「レベッカ…」
「言ってもたかが武器ではありませんか。それに、それを私に使ってきた奴はもうこの世に居ません」
「…お前がそう言うなら、私が口を出す事ではない。ジェイド殿、頼みますぞ」
「あぁ、任せろ。じゃあ、俺とカルラはそろそろ行ってこようかな」
「奴の治めていた地域へか…何が起きるか予測も付かない。細心の注意を払うように」
「勿論。こちらから戦うつもりはない。戦ったとしても無力化させる程度に留めるさ」
◇◇◇
そして、俺とカルラは嫉妬の領域へやって来た。
そう、俺達はレイラの言っていたネイルの妹に会いに来たのだ。
「突然襲われる、なんて事もあり得ない話じゃないからな…魔力感知を発動しといてくれよ、カルラ」
「あぁ。二人で行っていれば、余程の事が無い限り大丈夫だろう」
なんかその発言怪しいな…大丈夫、それ?
「怠惰の長とお見受けする。覚悟!」
俺達は10人程の敵に囲まれていた。濃淡の違いはあれど、どの奴もネイルに似た紫の髪色をしている。間違いなく嫉妬の龍の民だろう。
「ほらぁ〜、やっぱり…」
「何がだ?ジェイド」
「いや、何でもない…全員気絶させて、さっさと先行こう」
「怠惰、覚悟!」
---うおおおぉぉぉ!!---
はぁ…分かってはいたけど、面倒だな…。
◇◇◇
その後、俺達は次々とやって来る敵を無力化させながら進んで行き、遂に本拠地の目の前までやって来た。
「ここか…。カルラ、この先はより戦闘があるかもしれない。気を付けて行くぞ」
「あぁ。準備はいつでも出来てるぞ」
まぁ、戦わないに越したことは無いんだけどな…
俺は門を押し、こじ開ける。
さぁて…どんな反応があるものか…
「うわああぁぁ!遂に怠惰がここまで来たぞ!」
「ネイルの奴が敵対したからだ…殺される!」
「馬鹿!あんた達があいつの命を狙いに行くからその報復よ!全員返り討ちにあって死んだんだわ!」
「お前達、早く逃げるんだ!ここは私達が食い止める!」
…なんでこんな反応されるの?俺ここに来るまで誰も殺してないけど?
「…全員眠らせた後に放置してきたからじゃないのか?」
俺の考えを読むのはやめようか、カルラさん。
「なんで?あんなの全員連れて来られる訳ないだろ」
「確かにそれはそうだが…放った刺客が帰ってこないとなれば、普通考える事は一つでは?」
「…確かに。じゃあこの対応も仕方ないのか。また使っておくか」
「うん。いちいち戦っていられないし、あれで良いと思うぞ」
俺は睡眠魔法を発動させ、辺りの人々を次々と眠らせる。こいつを使って襲ってきた敵も一掃した。
丸一日は眠らせるようにしてあるからさぞよく眠れたであろう。地べたで。
一日以上も空いてしまえば、俺達に追い付く事は難しい。事実、ここまでで同じ集団に出会ったのは最初の一組だけだった。
「ここに居るぞ、ジェイド」
「あぁ。だが、あくまでも俺達は話をしに来たんだ。戦いに来た訳じゃないからな」
「む…分かってる。ジェイドはなんだ、私を戦闘狂か何かと思っているのか?」
…ここに来るまでの事を思えば?とは、とてもじゃないが言えませんよ…
「…まぁいい。さ、行こう」
「あぁ。向こうの奥の部屋の奴がそうの筈だ。ネイルに似た魔力をしてる奴が居る…あれ?」
「どうした、ジェイド?」
「いや…なんでもない。多分気の所為だ、開けよう」
俺とカルラの二人で扉を開ける。
「それ以上こちらへ近付くなっ!怠惰!」
「お待ちしておりました。怠惰の龍の民の長、ジェイド様」
お、おぉ…二人から別々の反応をもらうとは…予想してなかったな。
◇◇◇
執事らしき、若い男の龍の民からは警戒され、ネイルの妹と思われる女性からは歓迎の言葉をもらった。
どう返すのが正解か困るな。
「あ〜…把握してるかは知らないが、ネイルの妹に会いに来たー」
その瞬間、俺の真横をダガーが通り過ぎる。
えぇ…?
「黙れ!それ以上姉さんに近付くんじゃない!」
「おいおい、いきなりかよ…」
一発ぶん殴って、気絶させとくか…?話をややこしくされると困るんだよな…そう思っていたら。
「バルカン、怠惰の方が此方へ来られたのです。失礼な振る舞いをするのではありません」
バルカンと呼ばれた彼の脇腹を突き、悶絶させる。
あ、腹を抑えて崩れた。気絶してるわ。
「なんか…調子狂うな。ま、分かってると思うけど、俺が怠惰の長だ。ネイルの妹である君に用があってここまで来た」
「はい、存じております。私はネイルの妹、ジゼルと申します。一つ確認なのですが、兄は本当に亡くなったのですよね?」
「…あぁ。戦いの後に俺達が確認した。俺が行った拘束具が付いたままだったよ。どうやったかは知らないが、彼女がやったんだ」
「そうですか…良かった」
ほっと胸をなでおろす彼女。これも想像していた対応と違う。
「『良かった』なのか?自分の兄が亡くなったのに」
「えぇ。“兄達”は長年無益な争いを繰り広げてきましたから」
「兄達?もしかして、それって…」
「はい。兄が2つの人格を持っていたのは、本来は1つしかなかった筈のネイルに長兄であるギルの精神が宿っていたからです。いえ…正しくは“ギルの怨念”とでも言いましょうか」
「どういうことだ?」
「それはー」
話をまとめるとこうだ。
戦闘においては優秀だが、頭脳は劣る自信家の長男。戦闘は負けるものの、頭が良く、戦略を練るのが得意で臆病な次男。
二人に弟が出来ると知らされた二人はどちらがより兄として相応しいか、将来の長として相応しいかを競う事になったらしい。
彼女はまだ幼かったため、そこには入らなかったと言う。
そしてこれが問題の始まりだった。聞けば、乗り気ではないネイルを無理やり納得させ、競い合いを始めた。
ところが、いざ実戦を重ねるに連れて、差がどんどん少なくなり、遂にはネイルがギルを追い抜く記録を出してしまう。彼女が聞いた所によると、『僕は長に相応しくないから兄さんに勝ってほしいんだ』と言っていたとのこと。
しかし、何処からかネイルが手を抜いているのが発覚し、本気でやらせ始めた。そこから不本意ながら兄の結果を抜かしてしまうようになったらしい。
そしてとうとうその日がやって来てしまった。
ずっと実力を隠していたネイルに対して、不意打ちでギルが襲いかかる凶行が起きた。それは長兄なりに計画したらしく、近くの山でお互い一人でサバイバルを行う訓練と嘘を付き、ネイルを連れ出して襲ったのだ。念入りにお互い魔力を消して。
しかし、それは上手くいかなかった。不意打ちに失敗したギルだったが、体格や単純な力では未だに勝っていた。なんとかネイルを殺そうとするが、しぶとく粘ったらしい。
ネイルはなんとかギルを引き剥がし、蹴った。そのまま、ギルは山を転げ落ちた。怖くなったネイルは直ぐにギルの元へ走った。が、そこに居たのはギルだったものだった。
ネイルは家へ戻り、起きた事を全て話した。ギルが独断で行った事、ギル自身が没した事で彼にお咎めは無く、そのまま候補はネイルに決まった。
しかし、話はそこで終わらなかった。それから数日後。夜な夜な徘徊するネイルが目撃される。しかし本人に聞くとそのような事はしていないとの事。そしてとある日、遂にその理由が判明する。
『俺は生きてるぞぉっ!!ネイルッ!!お前の身体は俺のもんだっ!』
ネイルがそう喋ったのだ。みると、顔付きも今までと違った。
それからネイルの二重人格としての人生が始まった。
最初は身体の奪い合いだったそうだが、ある時ギルの得物だった三叉槍をトリガーとして封じる事に成功したらしい。
「なるほど…そんな事が」
「はい。兄ネイルはギルに身体を奪われる事を常に恐れていました。そしていつからかトリガーとなる槍を使うようになりました。おそらくですが、ギルに影響を受けていたものと思われます」
「そうか…。ならこれは返すよ」
「…私としても要らないのですが」
俺が手渡した三叉槍を壁際に立て掛けるジゼル。
彼女も癖あるな。
「じゃあ…そろそろ本題なんだが、嫉妬の長として俺と共に来てくれないか?勿論、ここの管理等はきちんと話をする」
「えぇ、構いませんよ」
「随分、あっさり受け入れてくれるんだな」
「ここで私が断ってはまた争いが起こるだけでしょう。それに、貴方には兄を救ってくれた恩があります。ですが、一つ条件を出させていただけませんか」
「それは内容によるぞ」
「難しい事ではありません。私と一対一を受けてください。龍の民の未来を任せられるか見極めたいのです」
「分かった。やろう」
「ジェイド!良いのか?」
カルラが俺を心配してくれる。が、大丈夫だ。
「それで済むなら安いもんだろ。よし、今からか?」
「ここを出た所に私達が使う闘技場があります。そこでお願いします」
俺達はその闘技場へ移動する。その間にどういうルールで戦うのか話した。弟君は置いていった。
「カルラ、審判頼むぜ」
「分かった、引き受けよう。ジゼルもそれでいいか?」
「えぇ。公平な判断をしてくだされば、構いませんよ。そこは貴女を信頼してますので」
「じゃあそろそろ始めるか。さっき話したとおり、一撃決着で良いんだろ?」
「はい。では、お願いします」
「両者、距離を取るように。準備はいいな?それでは…始めッ!」
カルラが合図を出す。
俺は全力ではないが、本気を出すことにする。これでもかなり戦いはやって来た。見ればどれほどの魔力か、手練かが何となく分かるようになって来たのだ。
正直、彼女はそこまで強い訳では無いと思う。が、自分から頼んでくるぐらいだ。何かあってもおかしくない。
「龍鱗、身体強化!」
「行きますよ…」
◇◇◇
それから1週間後。俺達はレイラが最期に遺した言葉を手がかりに、彼女の妹を探しに来た。
俺、ヘレン、カルラ、レベッカ、ソラ、ジゼル、ノヴァと全員集合して総力戦である。
「でも、誰も会った事無いもんなぁ…」
「そもそも、存在さえ知られていなかったのだ。当然と言えば当然だろうな」
「似た魔力でも探すか?」
「必ずしも魔力が似てるとは限らん。あてにならぬぞ。地道に探す他あるまい」
「そうか…。それじゃ手分けして探そう。ソラは俺と来てくれ」
「はいなのです!」
6組で探したかいがあり、その日の夕方、村の外れにある教会で彼女と思われる人を見つけた。
「こちらです。ご主人様」
「ここに居たのか…」
「ジェイド、皆集まったよ!」
「ありがと、ヘレン。よし、皆行こう」
皆が集まったのを確認し、俺は教会の扉を開ける。
中にはシスターの服を来た女性と、子供達と戯れている。角の有無は帽子で分からない。
「あら、急に大勢でいらっしゃったのですね。何かお悩みでも?」
こっちに顔を見せる彼女はレイラによく似ている。彼女で間違いないだろう。
「いや、違う」
「あら。それでは一体?」
「君に話があって来た。君は傲慢の龍の民の血族で合ってるか?」
「…えぇ。それが何か?」
「率直に言う。君の姉、レイラが亡くなった。傲慢の龍の民の長を受け継いでほしい」
「なるほど。では、率直にお返ししましょう。お断りします」
「…え?」
「ま、そうだよね…」
「その言い方ではな…」
「ご主人様は話が下手ですね」
「びっくりなのです!」
「なるほど…これはこれは」
「で、どうするのだ。ジェイド殿?」
これは…違う意味で苦戦しそうだな。
次話、決着です!今回カットした所もいずれ出します!次回は今月中に出せるよう頑張ります!
閲覧ありがとうございます。
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