強敵出現、源次郎丸登場
一日目の試合が終わって、僕達が帰り支度をしてる時、他球場に偵察に行ってた下級生達が戻って来て、「ブラックホークス」の情報を報せてくれた。
Bブロックの試合は、地元の大企業の綺麗なグラウンドで行われてるんだ。
Bブロックは「ブラックホークス」が順調に勝ち上がって、決勝まで駒を進めたらしい。
だけど二試合目で、凄いピッチャーが投げたらしいんだ。
下級生達は監督に、先を争うようにして報告してた。
「一試合目は、七対〇でコールド勝ち。五回までで終わっちゃった。二試合目も、五対〇
でブラックホークスの勝ち!」
「あのね、二試合目で、大人みたいに背の高いピッチャーが出て来てね、物凄く速い球を投げてた。誰も打てなかったよ」
「フォアボールと死球だけで、ノーヒット
ノーランだった」
「あのボール、たぶん、翔太君より速いん
じゃないかな。お尻に死球を受けた子はね、
倒れ込んで、しばらく動けなかったよ」
って、口々に報告したんだ。
そしたら監督が、
「源次郎丸って言ってなかったか?」
って、下級生達に聞いたんだ。
「そう、そう。監督、知ってたの? その人の名前ね、源次郎丸武蔵っていうんだ。変な名前だね。貼り出されたメンバー表に書いてあったよ」
「とうとうアイツが出て来たか。厄介なことになったな」
って、監督が言ったんだ。
「監督、どんな奴なんですか? その源次郎丸って」
って僕達が聞くと、監督が教えてくれた。
◇◇
源次郎丸はもともと、「ブラックホークス」のBチームにいて投手希望だったんだ。
でもノーコンなんで、最初はセンターを守ってたらしい。
四年生の頃から球がメチャクチャ速くて、
その頃、五年生だった鬼塚君よりも速かっ
たらしいんだ。
身長も一歳年上の鬼塚君と、あまり変わらなかったらしい。
源次郎丸はBチームで一生懸命練習を積んで
コントロールも良くなって、やがてBチームのエースになったらしいんだ。
でも五年の時、Aチームに上がっても、鬼塚君がいたんでAチームのエースにはなれなかった。
それで去年の夏の大会前、源次郎丸は、
「俺の方が鬼塚君より上だ!」
ってブチ切れて、チームを退会したそうな
んだ。
源次郎丸は我が強くて、学校でも問題児
だった。
友達を殴って怪我させたり、授業中も先生
の言うことを聞かないで、漫画を読んだり、教室の後ろの方で野球したりして、やりた
い放題だったらしいんだ。
先生達も源次郎丸がデカくて怖いから、
強く注意出来なかったらしい。
それで、源次郎丸のいたクラスは
学級崩壊状態だったらしいんだ。
でも野球に関しては、源次郎丸は
真面目だった。
ただ、自己主張が強過ぎて、厳しい指導で知られる「ブラックホークス」の古田監督も、手を焼いてたらしいんだ。
だけど、源次郎丸はどうしても野球のことが忘れられなかった。
今年に入ると、古田監督に頭を下げ、学校生活も真面目に頑張るし、チームワークも大切にするっていう条件で「ブラックホークス」
に戻ったらしいんだ。
ウチの監督も今年になって源次郎丸が反省しチームに戻ったことは知ってたんだ。
「あいつは、根は純粋で良い奴なんだ。あいつがブラックホークスを辞めた時、一度、奴に街でばったり出食わしたことがあるんだ。あいつ、俺の顔を知ってたみたいでな、やけに俺の方をジロジロ見て来るんだ。俺もあいつのピッチングを一度見たことがあってな、あいつの顔は知ってたから、『ウチのチームに入らないか?』って声をかけたんだ。だけど、『僕はブラックホークス以外では野球はやりません』って断られちまってなあ、ガッカリしたよ」
って監督が言ったんで、僕達は唖然とした
んだ。
「はあ? 監督、何スかそれ! 冗談やめて下さいよ!」
って、僕達は文句を言ったんだ。
「アハハ、ごめん、ごめん、内緒にしてて悪
かったな。俺もその時は、あいつがいれば、
県大会優勝も夢じゃないって思ってなあ、魔がさしたんだ。それに、あいつが野球を止め
てしまうのはもったいないと思ったんだよ。
もう過ぎた事だ、今の話は忘れてくれ」
って監督が言ったんで、僕達は顔を見合わせて黙ってたんだ。
そしたら監督は、
「あいつの真っ直ぐは速いぞー! 間違いなく翔太よりも鬼塚君よりも速い! 明日はみんなバットを短く持って当てていこうな!」
って、大きな声で言ったんだ。
◇◇
翌日のAブロック決勝は、
「氷川フューチャーズ」が相手だった。
僕はその試合で三打数ノーヒット。
大振りしちゃって、自分本来のバッティング
が出来なかった。
僕は出来ればその日もホームランを打って、
耀と母さんを喜ばせたかったんだ。
それで、僕は力が入り過ぎて、二打席連続で三振。三打席目に入る前、緒方コーチに言われたんだ。
「翔太君、昨日から体に力が入り過ぎてる
よ。いつものように、もっとコンパクトに
スイングしてみな」
って。
僕はボールに逆らわず、ミートする打法に切り替えた。
三打席目はセンターライナーに終わっちゃったけど、復調の手ごたえは感じたんだ。
緒方コーチも僕がベンチに戻ると、
「翔太君、今のアウトになったけど、すごく
良かったよ。今のバッテイング忘れるなよ」
って、言ってくれた。
僕は打てなかったけど、木村君が投打にわたる大活躍。
三対〇で勝利して、僕達はとうとう念願の
優勝決定戦まで進出したんだ。
木村君は真っ直ぐもチェンジアップもコント
ロールが安定してて、球は僕より遅いけど、
聖司君より速いんだ。
投げ方も少し変わってて、大リーガーの
カーショーみたいに、足を一度軽く上げ
た後、もう一度大きく上げて投げるから、
打者はタイミングが取りづらいんだ。
木村君は完封した上、四回には二死から、
走者一掃の三塁打を打って、一人で三打点
も上げたんだ。
次打者の僕が三振してチェンジになったから
凄く悔しかった。
◇◇
昼休み。
僕達が決勝まで進んだから耀達も喜んでた。
「翔太、ドンマイ、ドンマイ。次の試合も
頑張ってね」
って、耀は言ってくれた。
みんなから好評だったんで、今日も耀達三人
はクッキーをたくさん持って来てくれた。
母さんが作ったいつもの唐揚げも、みんなと一緒に食べた。
他の保護者達からも、栄養ドリンクとか、
手作りのハチミツレモンとか、色々と差し
入れがあったから、チームのみんなは喜ん
でた。
◇◇
決勝戦まで大分時間があった。
いつものように直君と市民球場の外でキャッチボールしてる時、僕は初めて源次郎丸に会ったんだ。
源次郎丸はAチームにいた期間も短くて、
住んでる街も離れてたから、僕達はそれま
で源次郎丸の顔を見たことがなかったんだ。
「ブラックホークス」のメンバーが大勢自転車に乗って、僕達の横を通り過ぎた。
他球場でお昼をすませて、全員で移動して来たみたいだった。
その中に一際大きなヤツがいて、そいつが
源次郎丸だって直ぐに分かった。
体つきが大人みたいにデカかったし、
エースナンバーの「1」を付けてたから。
顔付きもゴツかった。
眉毛が濃くて、顔が四角で、真っ黒に日焼けしてた。
口の周りに薄っすらと、ヒゲまで生やしてるんだ。世の中にこんな十二歳がいるなんて思ってもみなかった。
名前通りの顔付きだったんで、僕と直君は、
「おおー」
って、驚いたんだ。
◇◇
僕達はついさっき、緒方コーチが見せてくれた「ブラックホークス」のメンバー表に、
『九番投手 源次郎丸武蔵』
って書いてあるのを見て、色々と話してた。
直君は感心してこう言ったんだ。
「去年は鬼塚剛で、今年は源次郎丸武蔵か
よー、全く二年続けて強そうな名前だなあ」
って。そしたら、
「鬼塚君はイケメンだったけど、源次郎丸はどんな顔してんのかなあ」
って聖司君が言ったんだ。
「優しそうな顔だったらガッカリだよな」
って木村君が言ったんで、僕達はゲラゲラ笑
ってたんだ。
◇◇
「ブラックホークス」のメンバーが通り過ぎ
た後、源次郎丸が一人だけ僕達の方に戻って
来た。
僕と直君は怖くて身構えたけど、源次郎丸は
意外に礼儀正しいヤツだった。
僕達のところまで勢いよく戻ってくると、
源次郎丸は自転車を降り、僕達に帽子を
取って挨拶したんだ。
「ちわっス! デンジャラスの山野翔太君ですね? 僕は、ブラックホークスの源次郎丸武蔵です。今日の試合よろしくお願いします!」
って、元気良く頭を下げた。
僕達は最初、殴られるんじゃないかと思って緊張してたけど、拍子抜けしちゃったんだ。
間近で見ると、源次郎丸はやっぱり
デカかった。
僕より頭一つ上だったから、身長は百七十五センチくらいあるんじゃないかと思った。
去年の鬼塚君より明らかにデカい。
「えっ? ああ、こちらこそ、よろしくお願い
します」
って、僕も応えたんだ。
そしたら、源次郎丸はニッコリ笑って、
また自転車にまたがって去って行った。
何度もこちらを振り返って頭を下げてた。
「何だ、アイツ」
って言って、僕と直君は顔を見合わせて笑っ
たんだ。
◇◇
だけど試合が始まると、源次郎丸は闘志むき出しで投げて来た。
監督が言った通り、ストレートがメチャクチャ速くて、ボールが浮き上がって来る感じなんだ。
間違いなく僕よりも、去年の鬼塚君よりも
速かった。
みんなバットを短く持ってたけど、
ボールの下を空振りしてた。
しかも荒れ球で、みんな怖がってた。
六回を終わって、僕達はデッドボール一つと
フォアボール二つだけ。
全く手も足も出なかった。
バントしようとしても、怖いのと、球が速やすぎて、なかなかバットにボールが当たらないんだ。
背中に死球を受けた英次君は、
倒れてしばらく動けなかった。
英次君がようやく一塁に歩き出すと、
観客から拍手が起きたんだ。
源次郎丸は帽子をとって、
「セーン(すみません)!」
って、英次君に謝ってた。
僕も一打席目は空振り三振。
二打席目はフォアボールを選んだけど、頭の近くにボールが来た時は、必死で倒れながら避けたんだ。
聖司君も踏ん張って、何とか六回までは、
三安打無失点で「ブラックホークス」の
強力打線を抑えてた。
でも七回表、源次郎丸を四球で出した後、
とうとう上位打線に捕まり、連打を浴びて
二失点。
◇◇
七回裏、先頭バッターで僕に最後の打席が回って来た。
とにかくノーヒットノーランだけは絶対に
避けたかった。
僕が打席に向かう時、監督はめずらしく
真剣な表情で、
「翔太、頼むぞ!」
って言ったんだ。
監督は追い詰められたような目をしてた。
「翔太君、肩の力を抜いて、コンパクトに
スイングな!」
って緒方コーチも声をかけてくれた。
「オッス!」
って僕は二人に頷いて、打席に入ったんだ。
僕はツーエンドツーから、真ん中外寄りの
豪速球をフルスイング。
ボールがフラフラとセカンド後方に上がって行って、ライトとセカンドの間にポトリと落ちた。
僕が一塁ベースを駆け抜けると、ベンチの
みんなは狂ったように喜んでた。
納得いく当たりじゃなかったけど、僕も
ベンチのみんなに手を上げて応えたんだ。
僕はポテンヒットしか打てなかったのが恥ずかしくて、耀達のいるスタンドを見上げられなかった。
何とかノーヒットノーランだけは免れたけど
続く英次君は空振り三振。
浩一君の時、監督はエンドランを仕掛けた
けど失敗。
結局、浩一君も空振り三振。
最後は江崎君も見逃し三振でゲームセット。
源次郎丸は十六奪三振。
外野に飛んだ当たりは、
僕のポテンヒット一本のみ。
源次郎丸に、二対〇で完全にシャット
アウトされて、僕達の春は終わったんだ。
普段から冷静な聖司君も悔しくて仕方ない
みたいだった。
聖司君にしてはめずらしく、
「チックショウ!」
って、ベンチの椅子にグラブを投げつけた。
だから僕達は、必死で聖司君を慰めたんだ。
◇◇
表彰式の時、源次郎丸は優勝旗を受け取って泣いてた。
古田監督が笑顔で源次郎丸の肩を叩いてた。
源次郎丸のこの大会にかけてた意気込みが伝わってきて、僕は思わずもらい泣きしそうになったんだ。
[試合前は、笑ったりしてゴメン]
って、僕は心の中で源次郎丸に謝ったんだ。




