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スラッガー⚾️  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
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21/29

初めてのホームランと初勝利

春休みに入ると、春季大会が始まった。


今年は何としても、優勝決定戦まで行きたかった。



一試合目、僕は三打数二安打、二打点。


僕は生まれて初めて、公式戦でホームランを打ったんだ。


市民球場のフェンスを越えてレフトスタンドの芝生席《しばふせき》にボールが入った時は、信じられない気持ちだった。


ホームベースからレフトポールまでは、九十メートルあるから、僕は九十メートル以上飛ばしたことになる。



相手チームのピッチャーは、

「緑山《みどりやま》タイガース」の山内《やまうち》君。


速球投手で、去年の鬼塚君ほどじゃないけど真也君くらい球が速かった。


相手は打線も良いし強敵《きょうてき》だった。


うちのエース聖司君との投げ合いになった。



六回裏、二死《ツーアウト》、一塁、カウント、ワンエンドスリーから、僕は真ん中高目のストレートをフルスイングしたんだ。


打った瞬間、手応《てごた》えがあった。


打球がグングン伸《の》びて行って、最初は、


[フェンスに当たるかなあ]


って思ったけど、そのままレフトスタンドの芝生席にボールが飛び込んだから驚いた。


一塁ベース付近で走る速度を緩《ゆる》めてダイヤモンドを一周しんだけど、僕はつい興奮《こうふん》して、走る速度が速くなっちゃったんだ。


二塁ベースを回った後、チラッと三塁側スタンドを見上げると、耀と母さんが僕に手を振ってた。


僕は頷《うなず》いて、小さくガッポーズしたんだ。


三塁ベースを回ったところで、前を走ってた直君を追い越しそうになった。


「翔太君、速過ぎ、速過ぎ!」


って、下級生の三塁コーチが声をかけてくれたんだ。


直君は振り返ると、僕が真後《まうし》ろにいたから驚いたみたいだった。


「翔太、俺を抜くつもりか? アウトになっちゃうぞ」


って、直君は笑いながら言ってた。



ホームインしてベンチに戻ると、高野監督と緒方コーチを先頭に、チームのみんながベンチ前に並んで迎《むか》えてくれた。


僕はみんなとハイタッチしたんだ。


ハイタッチした後、みんなが僕のヘルメット

やお尻や背中を強く叩くから痛かったけど、

僕は最高に嬉しかった。


[ホームランって、こんな嬉しい気持ちになるんだ]


って、僕は初めて知ったんだ。



その試合は、僕のツーランホームランが決勝点になって二対〇で勝利した。



◇◇



昼休み。


僕達が市民球場のいつもの木陰《こかげ》で弁当を食べてたら、耀達がいつものように差し入れをしてくれたんだ。


耀は桜ちゃんと美優ちゃんを連れて来てた。


母さんは遠慮《えんりょ》したのか、ずっとスタンドに

居るみたいだった。 


「翔太、さっきのホームラン凄かったね! 私、嬉しかった。母さんも凄く喜んでたよ。

はいコレ、私のお祖母《ばあ》ちゃんが作った煮物《にもの》よ。こっちは私達が三人で作ったクッキー、これ食べて次の試合も頑張ってね」


って、耀が差し入れを渡してくれたんだ。


「ありがとう、耀のお祖母《ばあ》ちゃんによろしく言っといてね、次の試合も絶対勝つよ」


って、僕は答えたんだ。



桜ちゃんと美優ちゃんは、それぞれ聖司君と直君と談笑《だんしょう》してた。


聖司君は完封《かんぷう》勝利を挙《あ》げたし、直君もライト前ヒットを打ったから、話が弾《はず》んでた。


耀のお祖母ちゃんが作ってくれたフキと

タケノコの煮物は味が沁《し》みてて凄く美味《おい》

しかった。


それから、耀達の手作りクッキーもサクサクしてビックリするほど美味しかった。


ハート形や、丸や四角や、星形とか、色んな

形をしてた。


紅茶の香《かお》りがするものやオレンジの香りがす

るもの、ナッツ入りのものとか色々あった。


両方ともたくさん作って来てくれたんで、

チームの仲間達と一緒に食べた。


「何だ、このお菓子《かし》! 超《ちょう》うんめー」


って、みんな驚いてた。



◇◇



二試合目は僕が先発。


打線が奮起《ふんき》してくれて、四対〇で、

「港北《こうほく》オリオンズ」に勝利。


僕は公式戦初先発で、初完封勝利を挙げた

んだ。



監督は試合前、僕を先発させるか、木村君を

先発させるかで悩んでた。


だけど、木村君は翌日のAブロック決勝戦まで温存《おんぞん》させることにしたんだ。


木村君は体が大きくて野球センス抜群。


四年生の頃からたまに先発してたし、

僕より投手経験が全然上なんだ。



僕は公式戦初先発だったから、凄く緊張してたけど、キャッチャーの浩一君が上手くリードしてくれた。


僕は浩一君が構えたミット目がけて無心《むしん》で投げた。


サードの守備に入った聖司君も、試合中たびたび僕に声をかけてくれた。


聖司君の声を聞くと僕はなぜか安心する

んだ。聖司君はメガネはかけてないけど、

貴史君に似《に》てるからかもしれない。



浩一君もこう言って、僕を落ち着かせてくれたんだ。


「翔太、お前の豪速球は、去年の鬼塚君並み

だ。そう簡単には打たれない。コントロール

にだけ気をつけて、俺の構えた所に思いっ切り投げろ」


浩一君は勉強も出来るし、頭が良いんだ。


野球のことも詳《くわ》しいし、チームのみんなから聖司君と同じくらい信頼されてるんだ。



僕は五回を超えたあたりで、少し疲れて球速も落ちてきたけど、それほど息切れはしてなかった。


僕はオフの後も、毎朝の走り込みは続けてたんだ。


[たくさん走り込んでおいて、本当に良

かった]


って、僕は思った。



僕は五回まで、パーフェクトピッチング。


でも六回裏二死(ツーアウト)から、相手のピンチヒッターにレフト前ヒットを打たれて初めてランナーを出すと、盗塁を許してしまった。


僕はセットポジションが苦手《にがて》なんだ。


ランナーを牽制《けんせい》しながらクイックモーションで投げるのって、本当に難《むずか》しい。



浩一君が駆け寄って来て、


「翔太、二死《ツーアウト》だし、四点リードしてるから、ランナーはあまり気にすんな。バッター勝負でいこう」


って、言ってくれた。


それで、僕はバッターに全力を集中し、

ノーストライクツーボールから、相手の

九番打者を三振に仕留《しと》めたんだ。


モーションが大きくなり過ぎて、

三盗《さんとう》は許しちゃったけどね。



◇◇



七回裏。


僕がマウンドに上がると、聖司君が近づいて来て、


「翔太、センターの方を見てみな、空が青くて綺麗だろう」


って、言うんだ。


聖司君と一緒に振り返って見ると、

本当に空が綺麗だった。


球場の緑の芝生の向こうに、バックスクリー

ンがあって、上空には雲一つない青空が広が

ってたんだ。


父さんの顔も頭に浮かんで来るし、心が張り

詰めてた僕は、何だか気持ちがスーッと落ち

着いてきた。



浩一君も笑いながら近づいて来て、


「翔太、最終回だから頑張ろうな!」


って言って、センターの方を見ると、


「みんな、締《し》まっていくぞー!」


って、大声で叫んだんだ。


チームのみんなが一斉《いっせい》に、


「オーッ!」


って、応《こた》えた。



内野のみんなは、グラブを拳《こぶし》で叩《たた》いて

ニコニコ笑ってた。


外野のみんなは、僕達に向かって嬉《うれ》しそうに手を振ってくれた。


僕は何だか、とても幸《しあわ》せな気持ちになった

んだ。



「翔太、打たれても俺達が守るから、落ち着いて投げろ!」


って、聖司君が言ってくれた。


「翔太、俺のミット目がけてドーンと来い!

あまり力むなよ! これまで通り投げるんだ」


って、浩一君が言ってくれた。


二人は、僕のお尻《しり》をポンと叩いて、

守備位置に戻って行ったんだ。



「プレイボール!」


って、主審がコールした。


僕は一度深呼吸して、大きく振りかぶると、

浩一君のミットを狙って渾身のストレート

を投げ込んだ。


相手の一番バッターが空振りし、

浩一君のミットが、


『パン!』


って、音を立てた。



浩一君は目をつぶって頷いたまま、

しばらくミットを動かさなかった。


僕が良い球《たま》を放《ほう》ると、浩一君はいつもそうして無言《むごん》で褒《ほ》めてくれるんだ。


僕の球速《きゃうそく》は元に戻ったみたいだった。


[いや、今日、一番力のあるストレートだったかもしれない]


って、僕は思ったんだ。



五回、六回は疲れてたけど、七回は体力が回復《かいふく》して体が軽くなったような感じがした。


僕はその後、三者連続三振を奪《うば》って、

四対〇で、公式戦初完封勝利を挙げたんだ。


奪《だつ》三振は全部で十三。


[父さん、やったよ! 僕、父さんと同じピッ

チャーで、初めて勝ったよ!]


って、僕は心の中で父さんに報告したんだ。



打撃の方は、三打数一安打、一打点。


四回裏にレフト線への二塁打を打って、何とか勝利に貢献《こうけん》できたけど、前の試合でホームランを打ったせいか、体に力が入るようになってた。


他《た》の二打席は、キャッチャーフライと

空振り三振。


[バッテイングって、難《むずか》しい]


って、僕は思ったんだ。

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