第17章 正斗の運動会 part7 昼食後の秘密の力比べ
正斗は、昼食が終わると、さっさと応援席に戻って、ゴロゴロし始めた。応援席の後ろには、幼稚園の森という森がある。正斗は上目で見た。するととても遠くの方に点のように小さいものがあった。幼稚園の森の方向だ。しかし入り口にはロープが張ってあって入ることができない。正斗は好奇心を抑えきれずに静かにロープをくぐった。そしてその点の方向に走り始めた。だんだん点が大きくなっていく、そして人だということが分かった。泣き声も聞こえた。
「だ~れだ~。正体言わないと石投げるぞ~。」
正斗は下に落ちている石をとった。直径3cmほどだ。ボールを投げるのがうまいことを自覚したらしい。正斗も段々と待ちきれなくなってきた。
「早くしろ――――――――――――。」
正斗は石を投げた。高くまで飛び上がり、相手の頭にこつんと当たった。そして一気に近づいた。
「何?誰?」
頭をさすり、泣きながらこっちを向いていった。正斗にはその正体が分かった。
「保太~。こんなところで何やってんだよ~。」
「あー。正斗か。お前は投げるの上手いもんな。」
涙を裾で拭いながら。保太が言った。
「お前、何やってんだよ。昼ごはん食べたのか? なわけないか、僕より早く食べた人いないんだからな。」
前章でも書いた通り正斗は、100g当たり1分5秒で大会新記録を出したのだ。すると保太が唐突に言った。
「お前が投げるのと俺が蹴るのどっちが遠くまで行けるか勝負しよう。もうそろそろ決着付けたいものでな。バウンド有や。好きな石で投げよう。」
正斗と保太は自分にぴったりだと思う石を探した。正斗は野球ボールに似た石。保太は石だと蹴れないので、こっそり器具庫からボールを持ち出した。この点で言うと正斗の方が不利だ。しかし誰も指摘しなかったのでそのまま続行された。まず正斗がボールを投げた。
「ミラクルスーパーアタック!!」
斜め45度にまっすぐ飛んで行ったので見えなくなってしまった。
次に保太が挑戦した。
「スーパーキック!!」
保太は正斗のまねをしていった。これも、運よく木に当たらず転がって行って見えなくなった。二人は、どっちが速くボールの場所まで行けるかという競争を始めた。これは言うまでもなく保太の圧勝となった。しかしボールの方の記録は正斗の方が上だった。
「くっそー。覚えてろ!」
保太が暗い声で言った。そして、足早に器具庫にボールを戻しに行った。正斗も先生にばれないように静かに応援席に入った。すると放送が鳴った。
「プログラムナンバー9、年少ダンス。ダンゴムシになって地面をコロコロコーロコロ、です。準備をしてください。」
放送が鳴り終わると年少全員が先生の指示で立って準備を始めた。この幼稚園の森での力比べは誰にも気づかれずに終わった。
18章へ続く。




